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電話1本で解雇された54歳男性、キムチ販売で一時しのぎ「このままでは路頭に迷う」
画像はイメージです(metamorworks/PIXTA)

電話1本で解雇された54歳男性、キムチ販売で一時しのぎ「このままでは路頭に迷う」

新型コロナウイルスの感染拡大により、休業を余儀なくされたホテルやレストランなどの倒産が相次いでいる。

厚労省は4月27日、新型コロナ関連で、1月末から4月27日までに解雇されたり、雇い止めにあった人が全国で3391人にのぼり、うち2000人以上が4月に入ってから解雇されたと発表した。

大阪市在住の朴敏用(54歳)さんも突然、正社員として勤めていた飲食店から解雇された。

タクシー事業を展開する「ロイヤルリムジングループ」(東京)が、運転手600人を解雇した問題が注目をあつめる中で、朴さんも「解雇は無効だ」として、法的手段に訴えるかまえだ。(ライター・碓氷連太郎)

●従業員全員が解雇を言い渡された

4月8日、朴さんのもとに、会社から「1カ月くらい休業する」と連絡があった。緊急事態宣言を受けての措置だったが、4月13日に突然、従業員全員の解雇が言い渡された。

勤め先は、大阪市内に6店舗の飲食店を展開する会社で、60人ほどの正社員とパートタイムの非正規社員数人が働いていた。

朴さんが勤める店は月1000万円程度の売り上げだったが、市中心部にある店も、多い日で1日あたり200万円の売り上げがあるなど、これまで経営は順調だったという。

「市中心部の店は、もともとインバウンド客(訪日観光客)が多かったので、(新型コロナの感染が拡大した)2月に入ってから売り上げが下がっていたのは事実です。

しかし、私が勤める店は、常にお客さんが入っていたので、経営が危ないと思ったことはこれまでありませんでした」(朴さん)

●ロイヤルリムジンを引き合いに出された

朴さんは会社側に「すべて閉店してから解雇するのか、それとも解雇だけするのか。社員だけ解雇ならどこまで補償するのか」と尋ねたところ、「解雇だけする」と言われたという。

退職金はなく、1カ月分の給料に解雇手当を上乗せした合計42万円と、3月20日から4月8日までの給料を支払うと提示された。さらにロイヤルリムジンの例を挙げて、「解雇で失業保険をもらうほうがいいのではないか」とも言われたそうだ。

「休業前にオーナーに『雇用調整助成金を活用して、雇用を維持してほしい』と言ったのですが、『窓口が混んでるし、申請してもいつ助成金が降りるかわからん。相当先になるかもしれへん』と消極的な態度でした。

3年ほど働いてきましたが、電話1本で『解雇』と言ってきたことに、どうしても納得がいきません」(朴さん)

●整理解雇の条件を満たしていない可能性がある

年中無休・24時間営業の店で、朴さんは夜11時から翌朝10時まで、ホールやキッチンを担当していた。2交代制の2人体制だったため、一緒に働いていた仲間は1人しかいない。また、ほかの店舗とのつながりもないという。

朴さんは、自治労職員の友人に相談して、今回の解雇には、複数の問題点があることがわかった。

まず、解雇には、「懲戒解雇」「普通解雇」「整理解雇」の3つがある。労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあり、いずれのタイプでも客観的合理性と社会通念上の相当性が求められる。

今回は「整理解雇」に該当するが、整理解雇は以下の4つの観点から妥当かどうかを判断される。

(1)人員整理の必要性
(2)解雇回避努力義務の履行
(3)解雇する従業員選定の合理性
(4)手続の相当性

たとえ「新型コロナウイルスによる店舗閉鎖で売り上げが下がった」という理由が、(1)人員整理の必要性にあたるとしても、(2)解雇回避努力も説明や協議もなく、いきなり全員解雇を言い渡したことは、上記を満たしていないことになる。

すべてを満たさなければならない、ということではないが、雇用主からの退職要求に応じさせるなら、退職金を上乗せするべきであるにも関わらず、金額が低すぎるのではないか。

そもそも「42万円+19日分の給料支払い」が妥当かどうか以前に、金額がいくらであっても、不当解雇の可能性があるという。

●「このままでは路頭に迷う」

過去に焼き肉店を経営していたことがある朴さんは、休業を言い渡された翌日からキムチ作りをはじめた。

SNSでキムチの写真とともに「通販の受付をはじめたいと思います」とつぶやくと、サイトを本格的にオープンした当日から注文があいついだ。

現在はキムチ作りと発送作業に追われていることから、この先1、2カ月程度の生活費は何とかなると見ている。

しかし、大学生の子どもがいることもあり「これを続けなければ路頭に迷うことになる」と、先の見えない毎日について不安を口にする。それとともに、次のように怒りをにじませる。

「今まで一生懸命働いてきたのに、正社員として雇っておきながら、コロナを理由に一方的に解雇するような、上から押さえつけるやり方には我慢がいきません。だから、やれることはやるつもりです」(朴さん)

一方、会社側が引き合いに出したロイヤルリムジンは、労働組合との団体交渉がはじまっている。また、運転手1人が、地位確認と賃金の支払いをもとめる仮処分を申し立て、さらに役員に対して、損害賠償をもとめる裁判を起こした。

朴さんはこうした動きを参考にしつつ、先日、弁護士に相談したという。

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