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2018年09月04日 09時20分

根深い無戸籍問題、明治時代「家制度」の残像「夫だけに嫡出否認権」、最高裁で憲法に問う

根深い無戸籍問題、明治時代「家制度」の残像「夫だけに嫡出否認権」、最高裁で憲法に問う
写真はイメージです(akiyoko / PIXTA)

生まれた子どもの父親であることを法的に否定する「嫡出否認」。現在、この訴えを起こすことができるのは父親のみと、民法で規定されている。この規定が法の下の平等や男女平等を定めた憲法に違反するとして、大阪高裁で争われていたが、8月末に「合憲」とする判決が下された。原告側はただちに上告、舞台を最高裁に移して新たに憲法に問う裁判が始まることになる。

この裁判は、神戸市内の60代女性と30代の娘、8歳と4歳の孫2人の合計4人が国を相手取り、訴えていたもの。女性は約30年前、当時の夫の暴力から逃れて別居、離婚成立前に別の男性との間に娘を出産した。しかし、妻が婚姻中に妊娠した子どもは、夫の子どもとみなす民法の「嫡出推定」があったことから、この夫との間の子どもとなってしまう出生届を提出できず、娘は「無戸籍」になっていた。娘は法的に結婚できず、生まれた孫2人も「無戸籍」となり、小学校の就学通知などが届かなかったという(現在は無戸籍状態は解消されている)。

現在、こうした「無戸籍」の人は、わかっているだけで700人以上、潜在的にはもっと多数になると言われている。無戸籍になると、進学や就職、結婚、資格取得などに大きな不利益が生じてしまうため、社会問題となっている。この問題にはどのような背景があるのか、また、今後、最高裁ではどのような主張をすることになるのか。この裁判で原告代理人を務める作花知志弁護士に聞いた。

●暴力父やDV夫から逃れるため、妻子にも「嫡出否認権」を

大阪高裁判決について、どう考えていますか?

「大阪高裁の判決では、(1)夫のみに嫡出否認の権利を認めることは『一応の合理性はある』 (2)妻や子に嫡出否認の権利を与えるかどうかは国会の立法裁量の問題である、と判示されました。

しかしながら、判決には矛盾があると思います。判決は嫡出否認権を制限する目的は、父子関係の安定性のためである、と判示しており、安定性を実現するのなら、逆に夫による否認権行使を否定しなければならないはずだからです。

夫による否認権行使の結果、子は法律上の父のない子となるからです。それにもかかわらず民法は夫にのみ否認権を認めているわけですから、それは『夫のみに認められた特権』と評価される権利だと考えます。その権利を夫にのみ認め、子には認めないことに、合理的な理由はないと思います。

判決は、妻や子に嫡出否認の権利を与えるかどうかは国会の立法裁量の問題である、と判示しましたが、例えば夫が暴力を振るい、子の生命身体の安全に危険が及ぶような場合には、子からの否認権行使を認めることには合理的な理由があります。また妻も、子が暴力を振るう夫の子であるとされれば、その夫が子との面会交流を希望した場合などには、夫と連絡をしたり、会ったりすることを余儀なくされます。そこには、子や妻に否認権を認める合理的な理由があると考えます。

上で述べたことからすると、嫡出否認権は父子関係の安定を目的としていると言いながら、夫にだけ否認権を認め、妻や子には認めないことは、憲法14条や24条2項が規定する個人の尊厳と両性の本質的平等に違反することは明らかであり、その規定を改正しないことは、国会の立法裁量の逸脱・濫用であると評価がされるべきです」

●「最高裁は人権救済を目的とし、法改正をリードするような判決を」

法務省が無戸籍問題の解消を目指す有識者の研究会を10月に発足すると報じられています。そうした状況を踏まえながら、今後、最高裁ではどのような主張をする予定でしょうか?

「今回の訴訟の進行に並行するように、法務省が無戸籍問題の解消を目指す法改正を検討し、10月には研究会が発足される予定です。予定されている法改正案は、妻と子からの否認権行使を認める、というものであり、まさに今回の訴訟で原告側が主張している内容と一致しています。

法務省が法改正を検討しているということは、民法の嫡出否認の規定には合理性が失われていることの表れであり、人権救済機関である裁判所は、人権救済を目的としたその法改正をリードするような判決を出すことが求められることを、最高裁では主張したいです。

また、日本が民法を輸入したドイツや、日本から民法を輸出した韓国や台湾では、父にのみ否認権を認めた民法の規定が憲法違反であるという判決が出されるなどして、現在では、妻からの否認権行使(ドイツ、韓国、台湾)と子からの否認権行使(ドイツ、台湾)が法律で認められています。

いわば日本だけがインターナショナル・スタンダードに乗り遅れている状態です。外国法の変化も、日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実ですので、最高裁判所では、その外国法についての変化についても主張を行う予定です」

● 家制度では「家の恥」だった妻子からの拒否権行使

2015年12月に最高裁で違憲判決が下された女性の再婚禁止期間訴訟や、現在、東京地裁に訴えている夫婦姓訴訟などでも、家族に関わる法律について憲法に問う裁判を続けていますが、どのような問題意識をもっていますか?

「現在の民法の嫡出否認の規定は、明治憲法時代の1898年に制定されました。その当時はいわゆる家制度が採られており、夫からのみの否認権行使を認め、妻や子からの否認権行使を認めなかったことには、妻や子からの否認権行使がされることは『家の恥である』と考えられたのではないか、という指摘が、法律家による論文上でされています。

ところが、日本国憲法制定により、家制度は廃止されています。また、日本国憲法制定後に家事審判法が制定され、現在では嫡出否認権は家庭裁判所での非公開の調停手をまず行わなければならなことになっています。ですので、妻や子からの否認権行使が、家や夫の恥になることは理由にはならないですし、非公開手続が用意されているのですから、プライバシー権も守られているのです。

そのような意味で、現在の民法の嫡出否認権の規定は、明治憲法時代の家制度時代の側面が残されたままとなっていると思います。現在では日本国憲法が制定され、個人と両性を同じように尊重することが義務付けられています。明治憲法時代の姿のままの民法の嫡出否認権の規定を、早期に現在の日本国憲法の規定に適合するような姿に改正する必要があると考えています」

(弁護士ドットコムニュース)

作花 知志弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
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