選択的夫婦別姓を求める新たな訴訟が始まった。アメリカで法律婚をしたにもかかわらず、日本の戸籍に婚姻が記載されないのは、立法に不備があるとして、映画監督の想田和弘さんと舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子さん夫妻が6月18日、国を相手取り婚姻関係の確認などを求めて東京地裁で提訴した。今年になって起こされた夫婦別姓訴訟はこれで3件目となる。
●米国で法律婚したが、日本では夫婦の戸籍が作成できない…
訴状などによると、想田さんと柏木さんはアメリカ・ニューヨーク州に在住の日本人で、1997年にマンハッタンにあるニューヨーク市庁舎で、夫婦別姓を選んで結婚した。海外で結婚する場合は、現地の法律に基づいて行われれば、国内でも婚姻は成立しているとみなされるため、夫妻は事実婚ではない(法の適用に関する通則法第24条)。
外国で法律婚した日本人夫婦は、戸籍法41条1項に従い、婚姻証書の謄本を提出しなければならず、民法750条にもとづく夫婦同姓が前提となる。しかし、結婚当時、法制審議会民法部会が選択的夫婦別姓の導入を答申していたため、「1、2年経てば日本の法律が変わって別姓で届けられるだろうと待っていたところ、20年が経ってしまった」(想田さん)という。
あらためて夫妻は今年6月6日、東京・千代田区役所に婚姻証書の謄本を提出したが、夫婦同姓でなければ夫婦の戸籍が作成されないため(戸籍法6条)、法律婚した夫婦であるにもかかわらず、現在、戸籍上で婚姻関係を公証することができない状態にある。
そこで、民法などが定める婚姻関係の公証という目的を、戸籍法が定めていないことは立法の不備があると指摘。戸籍以外の公証手段が裁判所による判決しかないため、確認請求を求めると同時に、この法の不備は結婚の自由を定めた憲法24条違反に違反するとして、慰謝料合計20万円を求めて提訴した。
●「事実婚」という誤解から、日本では不利益も…
提訴後、想田さんと柏木さんは東京・霞が関の司法記者クラブで会見。想田さんは、「現行の法律では、どちらかの姓を選ばなければいけないが、独立した人格のまま結婚したいという僕らの結婚観とはしっくりこなかった」と提訴のきっかけを語った。
また、「それぞれの個人の自由が、それ以外の個人の権利を侵さない限り、認めて欲しいと思います。我々が夫婦別姓を選んだとしても、僕ら以外に誰も影響は受けない。他者に不利益を与えない範囲の自由を認めて欲しいと思います。これは、別姓の問題だけでなく、言論の自由や表現の自由、思想信条の自由など、あらゆることに言えます。世論調査でも、選択的別姓を支持する人は過半数を超えている。その声をきちんと聞いて、制度化してほしいです」と語り、訴訟を通じて世論に訴えたいとした。
会見では、柏木さんも日本で「事実婚」と誤解され、在日アメリカ領事館でビザがなかなか発行されなかったエピソードを披露。「日本では不都合が多くて大変さを感じる」と語った。夫妻の代理人である竹下博将弁護士と野口敏彦弁護士らによると、外国で法律婚しても国内では誤解から事実婚扱いを受けることが多く、相続や子育てなどあらゆる面で不利益をこうむることがあるという。
そのため、今回の海外で法律婚した夫婦が別姓のまま国内でも夫婦であるという判決文が得られれば、同様のケースの夫婦にも新たに夫婦として証明できる方法が確立できるというねらいもある。想田さんは、「実際に、僕らみたいな結婚観の人は増えていると思いますが、法律に不備があるために不利益をこうむっている人もたくさんいます。原告は2人ですが、そういう方達を代表するつもりで訴訟を提起しています」と話した。
夫婦別姓を求める訴訟は、今年に入って活発化している。今年1月には、ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久氏ら4人が戸籍法上の問題を指摘して、東京地裁に提訴。また、2015年に最高裁まで争われた夫婦別姓訴訟の弁護団が5月、事実婚をしている7人を原告に、別姓の婚姻届が受理されないのは「信条」の差別にあたるとして、東京地裁と立川支部、広島地裁の3カ所で同時に提訴、第二次夫婦別姓訴訟を起こしている。今回の夫婦別姓確認訴訟は、第二次夫婦別姓訴訟の弁護団が代理人となっている。