「エア出勤」という言葉をご存知でしょうか。仕事を辞めたことを家族に言い出せないまま、出勤を装って外出する行為のことを呼ぶそうです。
次の仕事が決まらないまま勢いで無職になったり、就職活動する意思もないような場合は、家族から咎められるケースもあるでしょう。
しかし、どうしても告げられない状態がずるずると続くこともあるようです。
ネットやSNSには、エア出勤の当事者が、公園や喫茶店などで時間を潰してから自宅に帰るむなしさを「つらい」と吐き出す投稿も見られます。
一方で、エア出勤していたことがバレた夫から「給料がなくなった」と伝えられた妻が、離婚を本気で考えているとつづるブログ記事も存在しています。
「エア出勤」に気づいた場合、配偶者は離婚できるのでしょうか。河内良弁護士に聞きました。
●エア出勤がバレただけでは離婚事由になり得ない
——片方の配偶者が無職になって「エア出勤」していたことが発覚した場合、もう片方の配偶者は離婚できるのでしょうか。
離婚事由を定めた民法770条1項各号には、「エア出勤が離婚事由になる」と読み取れる直接的な文言はありません。
したがって、一般規定たる民法770条1項5号(改正後の4号)「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかという問題になります。
たとえ「エア出勤」していたとしても、何らかの形でお金を稼ぎ、家族を経済的危機に陥らせることがないのであれば、この事由に該当しないことは明らかです。
逆に、稼得能力(収入を得る力)を失って家族に経済的危機をもたらすことがあれば、夫婦間における相互扶助義務(民法752条)や婚姻費用分担義務(民法760条)を怠ったものとして、この事由に該当する可能性はあります。
shimi / PIXTA(ピクスタ)
配偶者の転職や退職は夫婦それぞれにとって重要な出来事とは言えますが、それを相手に伝えないだけで、離婚事由になるとまでは言えません
ただし、あまりにも無職期間(=エア出勤期間)が長期にわたり、家族の知らない間に家計の危機を迎えていたとすれば、事由に該当すると言えるでしょう。
仮にエア出勤が1カ月程度で済み、その後、仕事を得たのであれば、離婚事由にはあたらないと思われます。いずれの期間の例も、長短、極端なものですので、具体的にどの程度の期間が離婚事由に該当するかは、事例判断であると思われます
要するに、「エア出勤」が問題なのではなく、稼得能力の喪失や減少が問題であるということです。
ただ、夫婦間の相互扶助義務や婚姻費用分担義務は、一方の配偶者だけが負うものではありません。個々の事案ごとに、他にも問題があることも想定されるので、「エア出勤」の一事をもって即断できるものではなく、いずれにせよ、弁護士に相談のうえ、調停等の手続きを踏むことになろうかと考えられます。