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養育費や婚姻費用、算定表より上がるケース下がるケース 「転職」「副収入」「医療費」「高額所得」に注意!
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養育費や婚姻費用、算定表より上がるケース下がるケース 「転職」「副収入」「医療費」「高額所得」に注意!

夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第21回は「算定表は絶対ではない」です。養育費や婚姻費用は算定表を使うとおおよその金額が算定できますが、前回の記事で、養育費・婚姻費用算定表を機械的に適用できない場合として、「住宅ローンを支払っている場合」と「子が私立学校に通っている」の2つを紹介しました。

中村弁護士によると、他にも金額が変更されるケースがあります。前回に引き続き、詳しく解説してもらいました。

●算定表を機械的に適用できない個別事情(3)「収入を修正する必要がある場合」

1:収入とは
算定表は、双方の収入を元に、表に当てはめて算出します。ここでいう「収入」とは何を意味しているのでしょうか。

・給与所得者の場合
まず、会社員、公務員などの給与所得者について言えば、税金や社会保険料が源泉徴収される前の収入、すなわち、いわゆる「額面収入」で計算します。源泉徴収がなされた後の「手取り収入」ではありません。

給与所得者の場合は、源泉徴収票が発行されていますので、通常は、源泉徴収票で見ます。源泉徴収票でいうと、住所・氏名などの下に記載されている「支払金額」の欄に記載されている金額が、いわゆる額面収入です。ここの数字を当てはめて計算します。

源泉徴収票の例(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/pdf/0022006-151_01.pdf)

なお、会社の取締役などの役員も、源泉徴収されていますので、基本的には、給与所得者と同様に扱うのが一般的です。

・自営業者の場合
これに対し、会社経営者、フリーランスなどの個人事業主などの場合、確定申告書の数字で見ます。

具体的に正確に申し上げると、確定申告書第一表の左側の「所得金額等」の「合計」の金額から、「所得から差し引かれる金額」の「社会保険料控除」を差し引き、「青色申告特別控除額」及び「専従者給与額の合計額」を加えた額となります。

確定申告書の例(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r02/02.pdf)

なぜそのような計算になるかの詳細の説明は避けますが、簡単に申し上げれば、税法上認められているにすぎない控除(基礎控除や扶養控除など)を、婚姻費用を算定する上で差し引くべきではないという考え方によります。

なお、給与所得者も、自営業者も、一般的には直近の収入で考えますので、直近の源泉徴収票や確定申告書、課税証明書等により、算出します。

2:「収入」が修正されるケース
このように、源泉徴収票や確定申告の数字を見るだけなら機械的に決まるじゃないか、と思われるかもしれませんが、ことはそのように単純ではありません。様々な事情により、直近の収入資料のみで収入を算出するのが妥当ではないケースがあります。

・ケース1「転職をしている場合」
まず、「年の途中で転職をしているケース」です。最近は、転職市場も活発なので、比較的よくみられるケースです。

例えば、ある年の7月に、年収500万円の会社から年収1000万円の会社に転職した場合、源泉徴収票上は、1~6月分の源泉徴収票上の支払金額は約250万円(=500万円×6月/12月)、7~12月分の源泉徴収票上の支払金額は約500万円(=1000万円×6月/12月)の合計750万円となります。

しかし、今後は年収1000万円もらえる見込みがありますから、年収を750万円とするのは妥当ではありません(逆に、年収が大幅に下がった転職をしてしまった場合も同様です)。

転職した場合は、新しい職場をベースに、直近3か月分の給与明細を提出してもらい、その12か月分として算出されることが多いと思います。ただし、これのみだと、賞与が考慮されていない可能性があるのでご注意下さい。

・ケース2「副収入がある場合」
また、最近は、副収入があるケースがあります。例えば、副業が許可されていて2つ以上の収入先がある場合や、アパートを所有していて家賃収入がある場合などです。

複数の収入先がいずれも源泉徴収が行われている場合は、単純にそれを合算した上で給与所得としてカウントすればいいですが、不動産収入がある場合や、副業を個人事業主として行っている場合は、少し複雑になります。というのも、算定表上、「給与所得者」と「自営業者」では、異なる計算式を用いているためです。

厳密に計算するのであれば、弁護士にご相談されることをお勧めしますが、概算を知りたいのであれば、算定表上の「給与」と「自営」の数値欄を比較して求めます。例えば、縦軸でも横軸でもいいのですが、「自営」で「203」のところを見ると、「給与」では「275」となっています。

すなわち、自営業者での203万円は、給与所得者での275万円に相当するということになります。そのため、会社からの給与の額面収入が600万円、不動産収入(個人事業主)が203万円(給与所得だと275万円に相当)の場合は、給与所得者として875万円(=600万円+275万円)として扱う、ということになります。

・ケース3「失業している場合」
失業していて、まだ転職先が決まっていない場合はどうなるでしょうか。これはケースにより様々な計算方法がありえます。

まず、失業していても、近いうちに同程度の収入を得られる転職先が見つかる見込みであれば、その見込み収入で扱うということが考えられます。一定の国家資格を有していたり、技術職の人に当てはまる可能性があります。

また、特殊な技能などはなくても、若くて健康であるため、再就職がある程度見込める場合は、統計上の平均賃金を用いることもあります。具体的には、賃金センサスを用います。賃金センサスは、年齢別、男女別、学歴別、企業規模別、雇用形態別(正規か非正規かなど)に細かく分かれているので、どの表を用いるべきかは、事案により様々です。

これに対して、再就職が難しかったり、見通しが全くない場合は、賃金センサスから一定割合を減らした額としたり、一定期間までは失業手当を収入として扱うなどが考えられます。

・ケース4「特段の事情がないのに低収入に甘んじている場合」
さらに、相手方の収入として、特段の事情がないのに、低収入に甘んじている場合は、上記同様、賃金センサスを用いた金額で算出することもあります。例えば、若く健康で子どももいないのに、全く働かない場合には、一定の収入があるものとみなした上で、婚姻費用を算定するなどです。

ただ、これは、特に義務者側(養育費を支払う側)からよく主張されるのですが、これが認められるハードルは相当高いものとお考え下さい。未就学児がいる場合は、あまり認められないことが多いですし、アルバイト程度の収入しか得ていない場合でも、同年代の正社員と同程度の収入があるものとみなされるケースはほとんどなく、ほとんどの場合は実際の収入額をベースに算定されます。

ただし、自営業者や、会社の代表で、自らの収入を容易に調整できるような人の場合、調整される前の金額を推計することはあり得ます。

・ケース5「収入の変動が激しい場合」   特に、個人事業主や、歩合給の割合が高い営業職の人などで見られますが、年によって収入が大きく異なるケースがあります。私が今まで見ていたケースでも、直近の収入が、その前の年と2倍以上(または半分以下)の差があるというケースがありました。

その場合でも、原則としては、直近の収入をベースに算定しますが、あまりにも特殊事情があって変動が大きい場合は、数年の平均値を使用することもあります。

・ケース6「育児休業中の場合」
育児休業中の場合は、様々なケースが考えられます。

まず、育児休業中は、会社から給与が支払われないのが一般的ですので、会社の給与収入は原則として考慮されませんが、会社独自の制度で何かしら支払われるものがあれば、それは収入に算入するのが一般的でしょう。

また、育児休業中に、一定の給付金がもらえるケースがあります。雇用保険の被保険者であれば、一定の要件を満たせば、育児休業給付金が支払われ、公務員のケースでも、何かしらの規定で育児休業期間中の収入補償がなされることが多いです。このようなものが支払われる場合は、収入として扱うことが多いと思います。

ただ、これらの給付金は一定期間で終了することも多いので、その後も育児休業を取得し続けている場合は、収入を0とするケースもあれば、働くことができるとみなされれば、上記ケース4と同様、賃金センサスをベースに、一定の収入があるものとみなすこともあります。

その他、収入が年金収入であった場合は、少し通常の計算式と異なります。また、その年だけ特別に支給されるもの(例えば、転勤に伴う引越費用が会社から支給された場合など)があった場合に、それを差し引くこともあります。

その他にも、様々な収入・支出があり、それが算定表上、考慮されることもあり得ますので、詳しくは弁護士にご相談されることをお勧めします。

●算定表機械的に適用できない個別事情(4)「特別な医療関係費の支出がある場合」

次に、「医療関係費」が問題となるケースがあります。

算定表でも、一定の「医療関係費」は考慮されているのですが、通常より多くの医療費がかかっている場合には、その費用が特別支出として加算されることがあります。多いのは、子や配偶者が何らかの障害を負っているケースなどです。

子どもの場合、15歳までは各自治体の制度によって医療費がかからないことも多いと思いますが、中学を卒業した後は、各種介護費用がかかることもあります。また、過去には、子の歯の矯正治療費や、眼鏡代が考慮された例もありました(大阪高決平成18年12月28日)。介護のために、家屋を改造する必要があれば、その費用が考慮されることもあります。

なお、障害を持っている場合は、障害年金や傷病手当金などを受給することもあり、その場合は、その点も考慮される可能性があります。

●算定表機械的に適用できない個別事情(5)「高額の所得がある場合」

算定表は、表を見ていただければわかりますが、収入の上限の値があります。縦軸(養育費・婚姻費用を支払う側)の上限は、給与所得の場合は2000万円、自営業の場合は1567万円です。また、横軸(養育費・婚姻費用を受け取る側)の上限は、給与所得の場合は1000万円、自営業の場合は763万円です。

これを超える収入があった場合はどうなるのでしょうか。この点について、明確に決まった基準はなく、事案や裁判所によって異なることがありますが、実は、婚姻費用(=離婚前)と、養育費(=離婚後)で、考え方が異なるのが一般的です。

すなわち、婚姻費用は夫婦の生活費を含みますが、婚姻費用の場合、収入が高くなればなるほど、夫婦の生活水準は上がり、交友関係などから支出する費用も増えるのが一般的という考え方から、算定表の上限を超えて、婚姻費用の額も増えていくという考え方が主流です。

​​これとは逆に、算定表の上限を超える部分は資産形成に充てられる(簡単に言えば、預貯金などに回る)から、夫婦の生活費には上限があり、婚姻費用も算定表の上限額で算出すべきとする裁判例もありますが(大阪高裁平成17年12月19日決定)、そうではなく、算定表の上限を超えた婚姻費用額を認める裁判例の方が多い状況です(福岡高裁平成26年6月30日決定では、年収6200万円のケースでしたが、算定表の上限以上の金額が認められました)。

もちろん、年収が上がれば、その分税金なども上がることも考慮されるので、計算方法は若干変わってきますが、修正された計算式であったとしても、婚姻費用に上限額はないという考え方が主流です。

これに対し、養育費に関しては、基本的に算定表に記載されている金額が上限であるという考え方が主流です。養育費を支払う側が高額所得者であるからといって、育児にかかる費用が無制限に上がるわけではない、と考えられているからです。

もっとも、私立学校の費用や、海外留学の費用が特別支出として加算されることはあり得ますので、その意味では、算定表の上限額以上の養育費が認められることはあり得ますが、婚姻費用のように、無制限に上がっていくというものではありません。

このような違いが出ることに、疑問がないわけではありませんが、現在の家庭裁判所の実務では、そのような考え方が主流であることを知っておいても損はありません。

いかがでしたでしょうか。ここではご紹介し切れなかった算定表を修正する事情はまだまだあります。算定表は、一般の方にも見やすくて使いやすい優れたものであるとは思いますが、かといって盲信しすぎず、自分に当てはまる修正される個別事情がないかどうかは、きちんと弁護士に相談されることをお勧めします。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

プロフィール

中村 剛
中村 剛(なかむら たけし)弁護士 中村総合法律事務所
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。

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