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「産む人」「育てる人」の分業は定着するか…注目集まる「特別養子縁組」制度
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「産む人」「育てる人」の分業は定着するか…注目集まる「特別養子縁組」制度

思いがけない妊娠などが理由で、実の親が育てられない赤ちゃんを養父母が「実の子」として育てる「特別養子縁組」制度が注目されている。厚生労働省によれば、2014年度中に虐待で亡くなったと確認された18歳未満の子どもは71人。0歳児は27人と6割を超え、その内の15人は、生後24時間以内に死亡していた。

子どもたちを救い、育てていくために、私たち社会はどんな対応をするべきなのか。

女性や子どもの問題を長年、取材してきたルポライターの樋田敦子さんは、「乳幼児虐待や虐待死を防ぐためのセーフティネット」として、「特別養子縁組」制度を活用すべきだという。特別養子縁組制度はどうあるべきなのか。樋田さんが寄稿した。

●「産む人、育てる人という分業の時代が来ている」

警察庁の発表によると、今年上半期(1~6月)に、虐待の疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した児童数は2万4511人で、過去最多を記録した。これは前年同時期に比べ42%増。国民に虐待の通報が徹底してきたとはいえ、日本には社会的養護が必要な子どもは、約4万6000人もいる。

一般的にこうした子どもたちは、乳児院や児童養護施設など、施設や里親のもとで育てられる仕組みになっている。平成27年の厚生労働省の調査では、社会的養護を必要とする子どもの約85%が乳児院や養護施設で育っており、里親やファミリーホームで暮らす子どもは、わずか15%なのである。

乳児院や児童養護施設では、職員の交替などで、子どもとの1対1の関係が築きにくく、できるだけ早い時期に親子の愛着関係を形成するためにも、早い時期からの里親委託や養子縁組が望ましいとされている。

現在、里親ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)『ひろせホーム』(千葉県)を運営している廣瀬タカ子さんは「産む人、育てる人という分業の時代が来ていると思う。少しでも虐待をなくし、子どもたちの命を守るためにも児童相談所と施設、里親、養子縁組の制度の拡充をしていかなければいけない」と話す。廣瀬さんは、乳児の緊急保護に対応して約30年間里親を続けてきた。

今年5月に改正された児童福祉法は(来年4月施行)、原則として施設ではなく、里親などの家庭養育で育てられることが望ましいとし、厚生労働省は、15年間で家庭での養育を3分の1まで増やしていく方針だ。

●「特別養子縁組」とは?

その中で注目されているのが、「特別養子縁組」だ。思いがけない妊娠をして中絶したり、貧困で子どもが育てられない、などの理由で、乳幼児虐待や虐待死を防ぐためのセーフティネットとして今後推進が期待されている。

おさらいしておこう。特別養子縁組は、養親と養子の契約によって成立する「普通養子縁組」とは違い、国(家庭裁判所)が養親と養子を「親子とする」という審判によって成立する。実親が親権を放棄して、親子関係が消滅するのが条件。

また養親は法律婚をしている夫婦で、おおむね25歳以上の者。子どもは、6歳未満。ただし6歳以前から同居している場合は8歳未満であれば養子縁組を申し立てられる。縁組の成立要件としては、実の両親による監護が、虐待や育児放棄により著しく困難であるなど、要保護要件が必要で、6か月以上、養親が養育していることなど、細かい要件が規定されている。

生まれたときに実親の監護が望めないならば、乳幼児のときから養親のもとで育てられれば、子どもにとって最善だと誰もが思うだろう。しかし前述の通り、日本では大半の子どもがいまだに施設で暮らし、残りの15%前後が里親委託。特別養子縁組につながるのは、わずか1%なのだ。

対して、児童福祉先進国のオーストラリアでは、施設にいる子の90%以上が養子縁組されている。オーストラリア以外の海外でも同様で、子どもの代替養育は、特別養子縁組や里親家庭でというのが主流なのだ。

●先駆的だった「愛知方式」

特別養子縁組は、児童相談所を通す場合と民間の団体を通して行なわれる場合と二通りの方法がある。前者は、養子縁組を前提とした里親登録をする必要がある。ただしそのほとんどが幼児になってからのケースで、新生児や乳児の里親委託はほとんどない。

例外として愛知県の児童相談所が1982年から、新生児の養子縁組を行ってきた。妊娠中から子どもが育てられないという女性たちの相談にのり養親を探す「赤ちゃん縁組」を進めてきたのだ。すでに2013年までに10の児童相談所で171人以上が赤ちゃん縁組を行なっている。

残念ながら、赤ちゃん縁組という方法は、愛知県以外ではあまり定着しておらず、東京都の場合、2012年に乳児院に措置された0歳児は18人だったが、里親に委託された0歳児は、わずかに2人だった。虐待への対応に追われる児童相談所は、養子縁組まで手を回らない現状が見える。それでも名古屋市、福岡市、大分県、和歌山県でも徐々に始まりつつある。

また、厚労省児童家庭局によると、後者の民間団体はこれまで22団体が設立されている(2015年10月時点)。自治体に第2種社会福祉事業として届を出すことになっていて、あっせんの際には、交通費などの実費も含めて約100~200万円を養親から受け取るケースが多い。

日本での特別養子縁組は、司法統計によると、ここ十数年、年間300~400件にとどまっていたが、2014年にやっと513件に増加、2015年は544件だった。

特別養子縁組が進まない理由について、養子縁組のあっせんをする一般社団法人『ベアホープ』の代表理事、ロング朋子さんは次のように分析する。

「第1の理由は、日本人が血縁を重んじる傾向にあるということです。自分とは血がつながらない子どもをあえて育てようとしないこと。第2に特別養子縁組の制度が知られていないこともあって、浸透してこなかったのだと思います。

また特別養子縁組の場合、どんな子ども、障がいや病気があってもそれを受け入れて育てることが必要になりますが、やはりその覚悟ができていない養親さんも多く、スムーズには進みません。進まない多くの理由は大人側の理由なのです」

ロングさんの団体でも相談を受けるが、家庭訪問や面接、個別指導などの研修を経て実際に養子縁組につなげられたのは2年間で30組ほどにとどまる。

●「養子縁組が不妊治療の代替法」なのも問題

2016年、日本財団が実施した調査によると、特別養子縁組を認知している人は、45.9%、里親を知っていた人は58.0%となっていて、半数近くの人が、その制度や役割を理解していないという現状がある。

「さらに、養子縁組が不妊治療の代替法としか考えられていない点にも問題があります。海外のように、養子を迎えた側も本人も幸せそうな状況を見て、私も養子がほしい。実子もいるけれど養子もほしいとなれば、特別養子縁組は進んでいくのではないかと思います」(ロングさん)

来年の施行(改正児童福祉法)に向け、さまざまな動きもみられる。

兵庫県は思いがけない妊娠で生まれた新生児を里親委託する事業を始める。試験養育後、家庭裁判所が認めれば特別養子縁組させる方針だ。医療機関や母子保健センターで出産をためらう妊婦を見つけ児童相談所につなぐ方法をとるのだという。

一方で、今年9月、千葉県の特別養子縁組をあっせんする民間団体が、全国で初めて、事業停止命令を受けたと報じられた。同団体は、金銭を支払えば優先的にあっせんすると東京都の夫婦に伝え、実費よりも多い費用225万円を受け取った。また、実母の最終的な意向を確認せずに、乳児をこの夫婦に引き渡していた。

児童福祉法では、営利目的でのあっせんを禁止しているほか、厚労省も、金品の支払いを優先条件にすることを認めていない。

このような事態を防ぐためにも、法整備を含めた養子縁組あっせんの適正なルールづくりも必要だ。妊婦の時からの支援、出産、養子縁組まで、そしてその後まで支える仕組みを構築していければ、虐待で命を落とす子どもを救うことができるだろう。

【著者プロフィール】

樋田敦子(ひだ・あつこ)ルポライター。1958年、東京生まれ。明治大学法学部卒業後、新聞記者として、ロス疑惑、日航機墜落、阪神大震災など主に事件事故の取材を担当。フリーランスとして独立し、女性と子供たちの問題をテーマに取材、執筆を続けてきた。著書に「女性と子どもの貧困」(大和書房)、「僕らの大きな夢の絵本」(竹書房)など多数。

(弁護士ドットコムニュース)

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