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「離婚後の養育費を1.5倍に」日弁連の新算定表をどう見る?弁護士16人の意見
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「離婚後の養育費を1.5倍に」日弁連の新算定表をどう見る?弁護士16人の意見

離婚後に、子どもを育てる親が、相手から受け取る養育費について、日弁連は11月30日、新しい算定表・算定方式を発表した。新方式では、従来に比べて金額が1.5倍程度増える見込みだ。

新方式では、住居関係費や保険料などを経費として控除せず、父母双方の総収入の約6~7割をベースに算定するとともに、世帯人数や子どもの年齢に即して、必要な生活費を細かく分けて計算するよう改めている。これによって、養育費の支払い額が1.5倍ほど増額するということだ。

養育費算定には現在、2003年に裁判官の研究グループが発表した「簡易算定表」が実務で定着しているが、「金額が低すぎる」として、見直しを求める声が上がっていた。日弁連は、新しい算定表・算定方式を定着させるため、裁判所などに利用を呼びかけていくという。

新方式によって養育費の金額が従来の1.5倍になることは、妥当と言えるのか。弁護士ドットコムに登録する弁護士たちに意見を聞いた。

●「現状でも多すぎる」「個別事情をもとに算出を」

以下の4つの選択肢から回答を求めたところ、16人の弁護士から回答が寄せられた。

(1)養育費の1.5倍増額は妥当→3票

(2)1.5倍増額では足りない→0票

(3)1.5倍増額では多すぎる→5票

(4)いずれでもない→8票

回答は、<いずれでもない>が8票で最も多く、次いで、<1.5倍増額では多すぎる>が5票、<1.5倍増額は妥当>が3票、<1.5倍増額では足りない>は0票だった。

1.5倍増額では多すぎると答えた弁護士からは、「現状でも多すぎる」「義務者には払いきれないだけになる」といった意見があがった。いずれでもないと答えた弁護士からは、「ある程度は個別事情をもとにパターン分けをして算出する必要がある」と、算定表だけをもとに算出すること自体を疑問視する意見や、「公的給付の充実が必要」という意見があがった。

回答の自由記述欄で意見を表明した弁護士12人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、<養育費の1.5倍増額は妥当>→<1.5倍増額では多すぎる>→<いずれでもない>の順)

●養育費の1.5倍増額は妥当

【居林 次雄弁護士】

生活水準の向上、教育費の高騰、高学歴という先進国の尖端を行く日本としては、家庭の生活水準を上げる必要があり、これまでの算定表では、その目的が達成されません。従って、今回日弁連が、算定表の大幅改定をしたのは、妥当であると思われます。ただし、若年層の所得の水準は、長引く景気の低迷で、賃金があまり上がらず、算定表を引き上げても、必ずしも若年所帯層の生活水準の向上につながらない面もあります。

●養育費の1.5倍増額は多すぎる

【青木 亮祐弁護士】

全くありえません。現状でも多すぎるくらいです。支払う側の親は、子供と共に生活をしているわけでもなく、支払いの対価がないことにもっと注目をすべきです。ただ単に義務を重くすれば良いという考えは一刻も早く辞めるべきでしょう。共同親権の法整備や面会交流条件・環境の劇的な改善がない限り、支払う側の親の納得は得られないと思います。むしろ国レベルでの経済的援助の充実を図るよう運動すべきです。

【南部 秀一郎弁護士】

DVや不貞行為などに隠れて見えにくいですが、低賃金や職場の子育て支援の不足のため子育て世帯の世帯収入が少ないことも、離婚の原因となっている現状があります。そして、離婚をすると今まで一つの世帯だったのが2つになるわけですから様々な費用が二重になってしまいます。その状況で養育費だけを増額しても、不満が出るどころか、義務者には払いきれないだけになるのではないでしょうか。子育て世帯に対する公的支援が先だと思います。

【中村 晃基弁護士】

現状で十分です。養育費は、もらう側からは少なく、払う側からは多く感じるわけですが、これは別居にして住宅費等が増えることによるもので、その負担を前面的に払う側にかけてしまっては妥当でないでしょう。ほかの方の指摘どおり、大事なことは義務を履行している者に、さらに過重な負担をかけることではなく、義務を免れている者にきちんと義務を履行させる、強制執行制度を充実させることでしょう。財産開示制度の強化・23条照会制度の強化・戸籍等の職務上請求時の通知制度の廃止など、先に解決すべき問題があります。

【岡田 晃朝弁護士】

養育費は子供の費用です。監護親の家に住むわけですから、家賃は掛かりませんし光熱費もさして増えるわけではありません。あくまで、その人の生活水準で2つの家計に分けた際に子供に掛けれる食費と衣類代と公立学校の学費分なのですから、現状で相当だと思います。

足りない少ないとおっしゃる方は、監護親の生活費や居住費も混同していたり、その夫の収入ではなく相当に収入がある家庭と比較していることがほとんどではないでしょうか。

【川面 武弁護士】

現状でも多すぎるというべきです。この回答項目がない本調査自体が偏向ともいえます。厚労省平成23年統計では,母子家庭のみを抽出しても,養育費の取り決めは4割を切り,さらにその中できちんと履行されているのは,半分以下のようです。大事なことは全体の2割以下に過ぎないまじめに養育費の支払い義務を履行している者に,さらに過重な負担をかけることではなく,義務を免れている者にきちんと義務を履行させることでしょう。現実から遊離した日弁連の提言など他の左翼的提言と同様,まともに相手にすべき類のものではありません。

●いずれでもない

【関川 信也弁護士】

養育費を増額させればよいという問題ではない。現在の算定表では、例えば、実家に住んでいて家賃が要らない人と自分で家賃を負担している人の養育費が同じであり、均衡がとれていない。個別事情をあまりに考慮しすぎると、簡易迅速な算定ができなくなってしまうが、ある程度は個別事情をもとにパターン分けをして算出する必要があるのではないか。

【中尾田 隆弁護士】

個別事情により差が大きすぎる為、「適正な養育費」は個別計算するしかありません。それが難しいために簡易算定表を用いているのですが、現状一つの算定表しかないため不都合があるということは事実です。なお養育費が少ないと問題となるケースは、養育費が子供の生活費だけでなく親権者の生活費にも使われる実態もあり(子供と家計を区別すること自体不適切ですが)、不公平感はいずれにしろ無くなりません。

【濵門 俊也弁護士】

裁判所の算定表は、批判はありましたが、税制や社会状況の変化を受けて改訂されることもなく,判例タイムズ1111号で発表されて以来、そのままでした。その意味において、日弁連の挑戦には敬意を表したいと思います。しかし、実際は長期的な不況、経済格差の拡大等の事情があり、結局権利者と義務者が小さいパイを取り合うことになってしまわないかと感じます。やはり公的給付の充実が必要ではないでしょうか。

【近藤 公人弁護士】

子供を監護している者からすると、1.5倍増額でも足りないであろう。しかし、支払う者からすると1.5倍増額は多すぎる。離婚後、住宅ローンを支払っていく場合、親子で実家に帰って生活する場合、親子で賃貸で暮らし家賃を支払っている場合など、いろいろなパターンがある。夫側で事件も受けるし、妻側で事件も受けることがある。どちらの立場で考えるかによるので、結論が異なると思うので、「いずれでもない」とした。

【荒川 和美弁護士】

現状では、払う側は多すぎると言い、受け取る側は少なすぎると言う。先進国中、日本は、子育てに金がかかりすぎる。子供の貧困対策、少子化対策における国の無策によるものである。「保育園落ちた、日本死ね」はその象徴である。背景に自己責任論がある。高所得層は、自己責任として、増額はあってよいが、中低所得層には、むしろ下げて、国レベルでの経済的援助の充実を図るよう運動すべきである。

【石井 政治弁護士】

新算定表を直ちに施行することには賛成できない。母子家庭の多くの貧困等を考慮した今回の日弁連報告の方向性は是認できる。しかし、背景には、経済の低迷で労働者層の所得が伸びていないという事情がある。算定表を修正したからとて、義務者の所得が改善されるわけではない。現行算定表を作成した裁判官らは運用が定着したとの認識を示しており、養育費を1.5倍とする扱いを了解しまい。また、権利者側に過剰な期待感を持たれかねない。したがって、当面は各界で議論を積み重ね、施行の時期を探るべきものと考える。

●編集後記

回答は、<いずれでもない>が8票で最も多く、次いで、<1.5倍増額では多すぎる>が5票、<1.5倍増額は妥当>が3票、<1.5倍増額では足りない>は0票だった。

1.5倍増額では多すぎると答えた弁護士からは、「現状でも多すぎる」「義務者には払いきれないだけになる」といった意見があがった。いずれでもないと答えた弁護士からは、「ある程度は個別事情をもとにパターン分けをして算出する必要がある」と、算定表だけをもとに算出すること自体を疑問視する意見や、「公的給付の充実が必要」という意見があがった。

養育費をめぐっては、「決められた金額を支払ってもらえない」など権利者と義務者の間でトラブルが起きることが少なくない。そうした状況の中で、1.5倍増額の新算定表が普及していくのか、動向に注目したい。

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