身近な生活に関するさまざまな悩みが寄せられる弁護士ドットコムの法律相談コーナー。数多くある相談のなかでも、特に多いのが、不倫をめぐるトラブルだ。最近も、不倫相手の妻から訴えられたという女性が悩みを打ち明けていた。
この女性は会社の上司と半年間、不倫関係にあったということで、送られてきた訴状には「証拠写真」まで同封されていた。相手の妻には弁護士もついており、慰謝料として300万円の支払いを請求されたのだという。
このような場合、不倫をした自分が悪いとして、請求された慰謝料を全額支払わなければいけないのか。それとも、不倫は相手男性との「共同行為」だから、慰謝料を半分ずつ負担することになるのだろうか。男女関係をめぐるトラブルにくわしい堀井亜生弁護士に聞いた。
●最終的な負担は「請求額の半分」でいいのだが・・・
「不倫相手の妻からの慰謝料請求に対して、不倫した女性が負う『最終的な負担』は、『請求額の半額の負担でいい』というのが答えです。しかし、不倫相手の妻に対しては、『私は半分しか支払いません』とは言えません」
このように堀井弁護士は、結論を述べる。最終的な負担は「半分でいい」のだが、不倫相手の妻には「半分しか払わないとは言えない」という、ちょっとややこしい話だ。なぜ、こんな結論になるのか。
「それは、不倫をした場合の法律構成が、一般の方にわかりにくい構造になっているからです」
堀井弁護士はこう話しながら、「不倫の際の法律構成」について次のように説明する。
「不倫をされた場合に、不倫相手や夫に慰謝料が請求できるということは、みなさんご存じでしょう。これを法律的に説明すると、不倫した女性(A子)と夫(B男)の二人の行為が合わさって、妻(C子)を傷つけたと考えられます。これを『共同不法行為』と呼び、A子とB男は共同して、C子に慰謝料を支払う義務(損害賠償義務)を負うことになります」
この不倫における慰謝料支払い義務は、「不真正連帯債務」と呼ばれる性質をもつという。そして、不倫した女性(A子)も夫(B男)もそれぞれ、妻(C子)に対して、全額支払う義務を負うのだ。つまり、妻からみれば、不倫した女性と夫のどちらに対しても、慰謝料の全額を請求できるということだ。
●妻は、慰謝料を夫に請求してもいいし、不倫女性に請求してもいい
今回は、不倫した女性が妻から300万円を請求されているが、どう考えればいいのか。堀井弁護士は次のように説明する。
「仮に300万円の慰謝料を支払う義務があるとすると、不倫相手(A子)と夫(B男)は、妻(C子)に対して、300万円全額を支払わなくてはなりません。妻は今回、不倫相手だけに請求していますが、それも許される行為なのです。
300万円という慰謝料について、妻は、夫だけに請求してもよいし、不倫相手だけに請求してもかまいません。また、二人に同時に請求してもよいのです。ただ、不倫相手と夫からそれぞれ300万円ずつ請求できるわけではありません。どちらかが300万円を支払えば、支払義務は消滅します。
一方、請求される不倫相手は、全額を支払う義務がありますので、『夫に請求してほしい』とか、『半額の支払いにしてほしい』ということは言えません」
このような構造は、不倫された妻にとって都合がいいといえそうだ。不倫した女性にとっては辛いところだが、やむをえないのだろう。では、もし不倫した女性(A子)が、慰謝料を全額払った場合、不倫相手(B男)に対して、何か言えるのだろうか。
「もし何も言えないとなると、妻の気分しだいで支払義務の対象者が決まってしまい、不公平です。そこで、慰謝料を支払った不倫女性(A子)は、夫(B男)に対して『求償権』を行使することができます」
求償権というのは、他人の債務を弁済した人が、その他人に対して返還の請求をする権利のことだ。今回のケースでは、不倫女性(A子)が、夫(B男)の慰謝料支払い義務(債務)も含めて支払っているので、その分を「求償」できるというわけだ。
●不倫女性が慰謝料全額を払ったら、半分を不倫相手に請求できる
どれだけ求償できるかは、A子とB男の「負担割合」によって変わってくる。
「この割合は事例によって異なりますが、通常、夫のほうが妻に貞操義務を負っているため、夫のほうが負担割合が大きくなる傾向があり、夫の負担割合が50%以下になることは少ないといえます」
したがって、今回の場合、不倫女性(A子)が妻(C子)に300万円を支払ったとしても、あとで、夫(A男)に対して、半分の150万円を支払うよう請求できるというわけだ。
ただ、不倫女性がいったん慰謝料を全額支払って、そのあとで夫に半分を請求するというのは周りくどいともいえる。堀井弁護士によると、実務では、不倫女性が支払う慰謝料を「半分」にする交渉もよく行われているのだという。
「不倫をしたら慰謝料をとられる可能性がある」ということは、多くの人が知っているだろうが、その金額はケースバイケースで、不倫の期間や婚姻関係の破綻の有無などによって変わってくる。また、不倫女性と夫の慰謝料の負担割合など、複雑な問題も多い。
そんなことから、堀井弁護士は「素人同士で話し合いをしたり、示談をして、後にトラブルになるケースが散見されます。早期に弁護士に相談をすることをお勧めします」とアドバイスしている。