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「海賊版サイト対策」検討会はじまる…各分野勢ぞろい、ブロッキングめぐり議論
「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の様子

「海賊版サイト対策」検討会はじまる…各分野勢ぞろい、ブロッキングめぐり議論

政府・知的財産本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)の第1回会合が6月22日、東京都内で開かれた。委員は、事業者やプロバイダ、法学者、弁護士など、関係分野の専門家たち。いわゆる「海賊版サイト」の対策として、「ブロッキングありきではない」という声がそろう中で、「ブロッキングでしか解決できない」という意見もあがるなど、議論は一部白熱した。

このタスクフォースは、「海賊版サイト」による著作権侵害のさらなる被害拡大を食い止めつつ、安全なインターネット環境を実現するため、インターネット事業者とコンテンツ産業事業者、有識者があつまって、「海賊版サイト対策」を検討するために、知財本部の委員会のもとに設置された。

タスクフォースの座長には、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏と、同大学院政策・メディア研究科委員長の村井純氏がついた。8月末までにかけて、これまでの海賊版対策の実効性や、海外での取り組みなどを検討し、9月中旬ごろに中間案をとりまとめたうえで、パブリックコメントにかける予定だ。

●中村伊知哉氏「政府の決定は一定の効果があった」

違法アップロードされた漫画などが無料で読めてしまう「海賊版サイト」をめぐっては、その対策が大きな課題となっている。政府は4月13日、特に悪質な海賊版サイトとして「漫画村」など3サイトを名指し。法制度の整備まで緊急的な措置として、民間の事業者(プロバイダ)が自主的にブロッキング(遮断)することが適当とする決定をおこなった。

この決定を受けて、NTTグループ3社が、準備が整い次第、ブロッキングをおこなうと発表した。一方で、法律家やプロバイダなどから、(1)ブロッキングが、憲法で定められた「通信の秘密」や「表現の自由」を侵害する、(2)3サイトを特定したことが、「検閲」にあたる――といった批判があがっていた。

NTTグループ3社によるブロッキングはまだ実施されていないが、名指しされた3サイトのうち、「漫画村」「Anitube」は政府決定以降に閲覧できなくなっており、閉鎖されたとみられている。「Miomio」は、サイト自体は残っているが、一時的にほとんどの動画が視聴できなくなっていた(現在は視聴できる動画も残っているようだ)。

このような経緯を踏まえて、中村氏は冒頭「政府の決定は一定の効果があった」「(4月13日以降)状況は変化している。国民の問題意識も非常に高まった。この状況を踏まえて、建設的な議論をしていきたい。みなさんの意見を聞きながら正しい道を探りたい」と述べた。

●カドカワ・川上社長「ブロッキングに類する技術だけでしか解決できない」

海賊版サイト対策のブロッキングに賛成している出版大手「カドカワ」社長の川上量生委員は「ブロッキングという言葉は非常に刺激的だが、これに類する技術だけでしか、基本的にこの問題は解決できない」と口火を切った。

「日本の法律が及ぶのは日本国内の中だけというのが問題だ。本当にグローバルで海賊版サイト対策のルールができるのであれば、ブロッキングが有効ではないという議論は成立する可能性があるが、現実的にはない。これまでの歴史・現状を踏まえて、非現実的な話だ。ブロッキングに類するようなアクセス制限の方法でしか、この問題は解決できない」

「4月13日の政府発表までは、『漫画村』をはじめとした海賊版サイトはまったく手の出しようがなかった。政府発表で、結果的に(漫画村の)サービスがほぼ停止した。これは今までなかったことだ。そのこと自体を認識していただきたい。出版社などコンテンツ会社の売上が大幅に改善したことも事実だ」

●「立法化やるべきかどうか」「国民の納得が得られるかどうか」の問題が残る

一方、ブロッキングについて否定的な見解を示している弁護士で、かつて児童ポルノに関するブロッキングの議論にも加わっていた森亮二委員は「川上さんを除いた委員のみなさんは『ブロッキングありきではない』と言っていて、安心している。私もそうあるべきだと思っている」と釘を差した。

「法律を作れば適法にできるようになるわけでが、その前に『通信の秘密』を侵害しつつ、権利侵害を救済することは、良いのかどうか。今回でいえば、海賊版サイトの著作権侵害と、すべてのユーザーの『通信の秘密』を侵害することと、どちらを優先するべきかという議論は、法制度化するときどうしても避けて通れない。ブロッキングの立法化はそもそもやるべきかどうかという問題がある。

インターネット上には権利侵害情報がたくさんある。裁判所にも非常に多くの事件がかかっている。削除請求や発信者情報開示や損害賠償請求など、権利侵害救済をはかってきた。著作権侵害以外のプライバシーや名誉毀損のときに救済手段として検討されなかったブロッキングで、国民の納得が得られるのかという問題がある」

「4月13日の緊急対策で、法律のない状態で『臨時的・緊急的な措置』として、ブロッキングが言及された。その後、いろいろな議論の深化というか、さまざまなところで調査・発表があった結果として、法律系の先生方の意見は『不適合』ということで、ほぼ一致している。したがって、『緊急的な対策はやるべきでない』ということは早い段階で確認しておくべきだ」

●検討会議構成員(敬称略、五十音順)

有木節二(一般社団法人 電気通信事業者協会専務理事)

石川和子(一般社団法人 日本動画協会理事長 日本アニメーション株式会社代表取締役社長)

上野達弘(早稲田大学大学院法務研究科教授)

川上量生(カドカワ株式会社代表取締役社長)

後藤健郎(一般社団法人 コンテンツ海外流通促進機構代表理事)

宍戸常寿(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

瀬尾太一(一般社団法人 日本写真著作権協会常務理事 公益社団法人 日本複製権センター代表理事)

立石聡明(一般社団法人 日本インターネットプロバイダー協会副会長)

中村伊知哉(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

長田三紀(全国地域婦人団体連絡協議会事務局長)

野間省伸(株式会社講談社代表取締役社長)

林いづみ(弁護士)

福井健策(弁護士)

堀内浩規(一般社団法人 日本ケーブルテレビ連盟理事・通信制度部長)

前村昌紀(一般社団法人 日本ネットワークインフォメーションセンター インターネット推進部部長)

丸橋透(一般社団法人 テレコムサービス協会サービス倫理委員長)

村井純(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長)

森亮二(弁護士)

山本和彦(一橋大学大学院法学研究科教授)

吉田奨(一般社団法人 インターネットコンテンツセーフティ協会理事)

(弁護士ドットコムニュース)

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