沖縄の基地問題に取り組む音楽家で、ライターの大袈裟太郎さんが、2017年に辺野古で逮捕された際、産経新聞のネット記事に「辺野古でも暴力の限りを尽くし」などと書かれ、名誉を傷つけられたとして起こした裁判。東京地裁(飛澤知行裁判長)は12月8日、一部の記載について名誉毀損を認め、産経新聞社に22万円の損害賠償の支払いを命じた。
大袈裟さんは「記事が出て5年、裁判から1年。産経新聞という巨大なマスメディアから発せられた誤報が証明された。勝訴した」などと話した。一方で「天誅が下った」などの記載は名誉毀損と認められなかったことなどから、控訴するとしている。
●「暴力の限りを尽くし」などと書かれた
大袈裟さんは2017年11月9日、辺野古基地建設の抗議活動で、公務執行妨害などの疑いで逮捕された(不起訴)。
翌10日、産経新聞は「辺野古で逮捕された『大袈裟太郎』容疑者、基地容認派も知る”有名人”だった」というタイトルのネット記事を配信した。
原告側が、裁判で問題とした記載は3つ。
〈高江を皮切りに辺野古でも暴力の限りを尽くし、その過激さから仲間割れを起こし、善良で穏健な仲間たちの離反を招いた〉(記載1)
〈相手が無抵抗だと罵声を吐いて挑発し揚げ足をとり、いざ検挙となると急に縮み上がって主張を引っ込める小心者。こんな輩が社会を荒らしている〉(記載2)
〈『朗報』に接した良識派の県民たちはネット上で『沖縄県警はいい仕事をした』『天誅が下った』『沖縄から追放、強制送還すべき』などと声を上げた〉(記載3)
判決文によると、産経側はこれらの内容は、大袈裟さんの評価がネットに投稿されたという事実を摘示したもの過ぎないなどとして、請求棄却を求めていた。
●記載3つのうち2つについて「名誉毀損」を認めた
判決は記載1・2について、大袈裟さんの社会的評価を低下させるものと指摘し、真実性・真実相当性を認めず、名誉毀損が成立するとした。
一方、記載3は、意見・論評の域を逸脱したものといえないと判断した。
なお、損害賠償請求の時効の成立時期についても争われ、2021年10月11日の提訴より3年前(2018年10月10日)までに生じた精神的苦痛については消滅時効が完成しているが、2018年10月11日以降については時効が成立していないという考えが示されている。なお、記事は2020年6月23日に削除されたという。
●大袈裟さん「産経新聞も判決を記事にして」
大袈裟さんは判決後の記者会見で、「これを書いた記者はどうやって責任をとってくれるのかと言いたい。この判決を産経新聞さんも記事にしてほしい」と述べた。
原告代理人の神原元弁護士によると、この記事を書いた記者は退職し、証人尋問もおこなわれなかった。また、「暴力の限りを尽くし」といった記載について、宗教団体が作ったとされる動画が産経新聞側から証拠として提出されたと説明した。
神原弁護士は会見で「産経のこの記事については、新聞社の管理体制が問われないといけないと思う。退職したら、記事の信憑性は誰が担保しているのか」と批判した。
産経新聞社は「当社の主張が受け入れられなかったことは残念です。判決内容を精査し、今後の対応を検討します」とコメントした。