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「元理事長は製茶業」送迎バス園児死亡事件でデマ拡散…誤情報の発信、法的責任は?
川崎幼稚園(Googleストリートビューより)

「元理事長は製茶業」送迎バス園児死亡事件でデマ拡散…誤情報の発信、法的責任は?

静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、送迎バスに取り残された園児(3)が死亡した事件をめぐり、同園の元理事長と間違えられた事件と無関係の第三者がデマによる被害にあっている。

共同通信(9月14日)によると、SNSで「父親が製茶工場やってたみたいです」と幼稚園名や元理事長の名前などのハッシュタグつきで投稿されたという。

同市内で製茶業を営む男性が元理事長と間違えられ、ネット上で男性の個人情報をさらされたほか、いわゆる「まとめサイト」に製茶工場の写真が掲載されたという。「理事長ですか」と尋ねる不審な電話もあったようだ。

事件とまったく関係のない人物に関するデマ拡散や勘違いに基づく誹謗中傷等は過去にも発生している。

2019年8月に茨城県守谷市の高速道路で起きたあおり運転事件で、事件と無関係なのに「同乗の女」というデマが流されたケースがあった。また、同年9月に茨城県境町の住宅で夫婦が殺害された事件でも、社長が逮捕された被疑者と同姓という理由で、無関係の三郷市の建設会社が誹謗中傷被害にあった。

間違われた側としては、何の落ち度もないのにデマを拡散されることとなる。その結果業務上の支障などが発生すればたまったものではないだろう。このような場合、デマを拡散した人物はどのような法的責任を問われるのだろうか。小沢一仁弁護士に聞いた。

●名誉毀損罪や偽計業務妨害罪が成立する可能性

——今回のようなデマ拡散行為は、何か罪に問われることはあるのでしょうか。

名誉毀損罪(刑法230条1項)ないし偽計業務妨害罪(刑法233条)に問われる可能性があると思います。

まず、名誉毀損罪の成立要件は、(1)公然と、(2)事実を摘示し、(3)人の名誉を毀損すること(社会的評価を低下させること)です。

報道記事で引用されている問題のツイートはツイッター上で公開されていたようですので、(1)公然性はあります。また、当該ツイートを読むと、(2)被害にあった製茶工場は、元理事長の父親が経営していたとの事実を摘示していると言えます。

他方で、(3)元理事長の父親が営んでいた製茶工場だということが、当該製茶工場の社会的評価を低下させるかについては、評価が分かれるのではないかと思います。個人的には、親族関係があるというだけで、社会的評価を低下させるとまでいえるかは疑問です。なお、社会的評価を低下させるか否かは、あくまでも記事を読んで解釈した事実が社会的評価を低下させるかという観点から判断されるもので、内容が真実かは関係ありません。

上記(1)~(3)の要件を満たす場合でも、ツイートの内容が、(4)公共の利害に関する事実に係り、(5)その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、(6)事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときにはこれを処罰されないとされています(刑法230条の2第1項)。

本件では、少なくとも(6)の要件を満たさないので、(1)~(3)の要件を満たすときは名誉毀損罪で処罰される可能性があります。

——偽計業務妨害罪についてはどうでしょうか。

偽計業務妨害罪の成立要件は、(ア)虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、(イ)業務を妨害することです。本件では、(ア)元理事長の父親が営んでいた製茶工場だとの虚偽の情報を流され、(イ)まとめサイト等で製茶工場の写真が公表され、不審な電話がかかってくるなどして業務を妨害されたようなので、偽計業務妨害罪が成立すると思います。

——民事上の責任についてはいかがでしょうか。

前述のように、少なくとも業務妨害については成立すると思われますので、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになると思います。

●デマ拡散は「責任追及しやすい類型」

——デマを拡散させた人物の責任を問おうとした場合、まずはその人物の特定をする必要があるかと思います。どのように特定して、責任追及をおこなうことになるのでしょうか。

まず、(a)ツイッターに対して、投稿をしたアカウントがログインしたときに接続した通信に関するIPアドレスやログイン日時の開示を求める仮処分の申立てを行います。

次に、(b)ツイッターから得られたIPアドレスのうち、通常は、問題とするツイートの直前のログイン時に接続した通信に関するIPアドレスから、プロバイダを割り出し、そのプロバイダに対し、発信者情報開示請求をします。

プロバイダは、早いところでは3カ月程度でアクセスログを削除してしまい、削除後は開示請求をしても特定できなくなりますから、必要に応じて情報の消去を禁じる仮処分の申立てを行います。

そして最後に、(c)プロバイダに対し、発信者情報請求訴訟を起こして、勝訴すればプロバイダから、発信者情報(氏名、住所、メールアドレス、電話番号)の開示がされます。

なお、近く改正プロバイダ責任制限法が施行されますが、改正後は上記の従来の特定方法に加え、(a)~(c)の各手続を1つの手続で行うことができる新たな制度が創設されます。

発信者情報の開示が得られたら、発信者に対し、まずは通知書(内容証明)を送ることで損害賠償請求をします。期限までに支払いがされなかったり、話し合いによっても解決できなかったりした場合は、民事訴訟を起こして判決を得ます。

今回のケースについては、デマである以上、元のツイートをした人だけではなく、これに便乗して情報を拡散したり、製茶工場やその経営者を中傷した人も賠償責任を負う可能性が高いと思います。

——複数人の責任を問いたい場合はどうなるのでしょうか。

過去に規模の大きいデマ事件を扱ったことがありますが、デマであることが前提となり情報が拡散されたり中傷がされたりすることが通常です。

そのため、デマがデマであることの立証さえできれば、中傷をする投稿全部について同じ理由で開示請求することができるため、一度に大量の開示請求をすることができ、高確率で開示請求が通ります。

デマ拡散というのは、被害者がその気になれば、責任追及しやすい類型であることも特徴的だと思います。

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