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新型コロナ対策で広がるカウンターの「仕切り」、ラーメン「一蘭」の特許を侵害する?
都内のラーメン店(2020年5月/読者提供)

新型コロナ対策で広がるカウンターの「仕切り」、ラーメン「一蘭」の特許を侵害する?

新型コロナウイルス対策のため、飲食店の中には、板などの「仕切り」をカウンター席に設けるところが広がっている。

客席の仕切りといえば、人気ラーメン店「一蘭」(福岡市)の「味集中カウンター」が有名だろう。周りの客を気にせず、ラーメンを集中して食べることができるものだ。

一蘭は「味集中カウンター」の特許も取得しているが、ほかの飲食店が、新型コロナの予防のために設置している仕切りは、特許侵害とならないのだろうか。唐津真美弁護士に聞いた。

●一蘭特許のポイントは?

「一蘭というと、あのカウンター席の仕切りが頭に思い浮かぶ方が多いと思います。

しかし、以前別の記事(https://www.bengo4.com/c_23/n_7147/)でも指摘したように、一蘭は、カウンター席の『仕切り』について特許を持っているわけではありません。

一蘭の特許は『一蘭の店舗システム全体』を保護している特許だからです。

具体的には、客席が個別に間仕切りされて、店側と暖簾で仕切されている接客スペースの形状、カウンターの客側に設置されたセンサーや連絡スイッチなどの機器と、店側に設置された出力機などの機器、さらにこれらの機器とスピーカーとの連動などを含めた店舗全体のシステムが特許の内容となっています」

●一蘭特許の存続期間はいつまで?

「特許権の存続期間は20年です。ただ、実際の存続期間の規定はもう少し複雑です。特許権の存続期間は、特許料が納付されて、特許原簿に設定登録された日にはじまり、毎年特許庁に特許料を支払うことを条件として、原則として『特許出願の日から20年』で終了します。

公開されている情報によると、一蘭の特許の出願日は2003年8月8日、設定登録日が2009年2月27日なので、特許の存続期間は『2009年2月27日から2023年8月8日』ということになります。『存続期間=20年』ではないことに注意が必要です。

更新することが可能な商標権と異なって、存続期間が満了すると、特許権は消滅し、誰でもその特許発明を自由に実施することができるようになります」

●カウンターに仕切りを設けることが特許侵害にあたるか?

「上で述べたように、一蘭の特許は、店舗システムを対象としています。

原則として、特許請求に記載されている要素がすべて利用されていなければ、特許権侵害とはなりません。いくら『カウンターの仕切り』というわかりやすい外観が共通していても、それだけでは特許権侵害にあたるとはいえません。

一方、特許で保護されている店舗システム全体の要素を無断で使うと、仕切りの形や暖簾のデザインというような外見上の特徴が異なっていても、特許権侵害になります。一蘭の特許は対象をラーメン店に限定していないので、ラーメン店以外の飲食店でも同じことがいえます。

コロナウイルス対策であれば、おそらく仕切りの設置以外には一蘭の店舗との共通点はないと思われますので、特許権侵害は心配しなくてもよいでしょう」

●公共の利益のために「強制利用」できる制度がある

「もしコロナウイルス対策として有益な発明が存在して、それが特許権で保護されている場合、現在のような緊急事態だからといって、無断で特許発明を実施することはできません。利用したい人は、特許権者から許諾を得る必要があります。

ただし、例外として、特許法には裁定という制度があります。これは、特許権者の意志にかかわらず、特許庁長官または経済産業大臣の裁定によって、強制的に第三者に実施権を与える制度です。

財産権の保護という意味でも、特許権者が許諾することが大原則であり、今まで日本で裁定によって実施権が設定された例はないと思います。ただ、コロナウイルス対策として極めて有用な特許があり、特許権者が実施の許諾を不当に拒絶するような場合には、公共の利益のための裁定(特許法93条)を利用できるかもしれません。

なお、今年4月1日に施行された改正意匠法により、店舗の内装デザインを意匠権で保護することが可能になりました。『内装全体として統一的な美感を起こさせるものである』などの要件はありますが、仮に、一蘭の特徴的な内装デザインが意匠登録された場合、そのデザインをそっくり真似すると意匠権侵害にあたる可能性があります。

さらに、意匠登録されていない店舗デザインの模倣であっても不正競争防止法上問題になる可能性は残るので、気を付けてください」

プロフィール

唐津 真美
唐津 真美(からつ まみ)弁護士 高樹町法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会専門委員も務める。

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