引越しの際に、不動産会社から、壁紙の張り替えや鍵の交換などで17万円を請求され、敷金も戻ってこなかったが、国交省の原状回復ガイドラインを提示したところ、すぐに請求を取り消し、敷金も全額返金となった、というエピソードがツイッターで話題になりました。
このガイドライン(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html)は、1998年に取りまとめられたもので、原状回復にかかる契約関係、費用負担等のルールのあり方を明確にして、契約の適正化を図るものです。
賃貸の退去をめぐるトラブルにおいて、このガイドラインを提示することでどのような効果が見込めるのでしょうか。どのようなポイントを押さえておけばいいのでしょうか。
●通常の使用で生じたものであれば、貸主の負担になる
原状回復ガイドラインにおいて、特に押さえておくポイントは、賃借人(借主)の通常の使用により生じる損耗等の復旧は、賃貸人(貸主)が負担すべきで、賃借人の負担とはならないということです。
もう少し詳しく説明すると、ガイドラインでは、原状回復についての有効な特約がない限り、賃借人が負担すべき原状回復とは、賃借人の故意、過失、善管注意義務違反その他通常の使用を超える使用による損耗・毀損を復旧することに限定されています。
しかも、原状回復の対象となる設備の価値は経過年数により減少するので、原状回復を賃借人が負担する場合であっても、設備によっては退去時における経過年数に応じて負担割合が減少することになります。
例えば、賃借人の故意・過失により壁紙を汚し、壁紙を交換する必要があっても、壁紙の価値は6年間で1円まで減少するとされているので、6年経過していれば、賃借人は、壁紙交換の費用について、ほぼ負担する必要がないということになります。
●ガイドラインに法的拘束力はなくても、賃貸人は従わざるをえない
では、いざ揉めた場合は、このガイドラインを突きつければいいということでしょうか。
原状回復ガイドラインは原状回復の場面において賃借人に有利となりますが、これに法的拘束力はありません。
ですから、賃貸借契約において、原状回復に関して、原状回復ガイドラインと異なる特約をすることは可能であり、内容が具体的、合理的であれば、そのような特約も有効となります。
しかし、裁判所は、有効な特約がない限りは、原状回復ガイドラインに沿った判断をします(そもそも、これまでの裁判例も参考にして考え方をまとめたものが原状回復ガイドラインになります)ので、原状回復ガイドラインを賃貸人に提示すれば、賃貸人は、裁判で争っても負けてしまいますので、それに従わざるを得なくなると考えられます。
その意味で、原状回復ガイドラインは、事実上の拘束力があるものと言えるでしょう。