「放置子を児童相談所に通報してよいのでしょうか」ーー。公園などで、夜遅い時間や休日に1人で遊んでいる「放置子」の対応に悩んでいる人は少なくないようです。
神奈川県のアオイさん(仮名・30代)もその1人。小学1年生の子どもと公園に行くと、同じクラスの男児がいつも1人で遊んでいるといいます。
「18時過ぎに公園の前を通った時にも、男児はいました。家に遊びに行かせてなどといわれることもあり、困っています」(アオイさん)
また、男児が大怪我をして泣いているのを近隣に住む女性がみつけ、学校に連絡したことも。男児の保護者は、担任の先生に「こっちは家事も仕事もしているから、仕方ないでしょ。公園に付き添うのはムリ」といったそうです。
アオイさんは「ネグレクトなのでは」と心配しています。「放置子」にはどのように対応するべきなのでしょうか。児童虐待に詳しい三村雅一弁護士に聞きました。
●児童虐待にあたる可能性も
ーーこのような「放置子」は虐待にあたるのでしょうか
「児童虐待の防止等に関する法律(以下『児童虐待防止法』)は、2条で『児童虐待』とはなにかを定義しており、『児童虐待』とは身体的暴行や性的暴行だけでなく、心理的虐待やネグレクトも含むことが明確にされています(同条3号)。
今回の事例にあるような『放置子』が『児童虐待』にあたるかどうかは、児童虐待防止法2条3号に該当するかどうかによることとなります。
厚生労働省の『子ども虐待対応の手引き』によると、『個別事例において虐待であるかどうかの判断は、児童虐待防止法の定義に基づき行われるのは当然であるが、子どもの状況、保護者の状況、生活環境等から総合的に判断するべきである。その際留意すべきは子どもの側に立って判断すべきである』とされています。
したがって、少なくとも、小学校1年生の子どもが大怪我をして泣いているにもかかわらず保護者が対応しないというケースにおいては『児童虐待』にあたると考えるべきでしょう」
●児童相談所への通報「秘密は守られる」
ーー児童相談所に通報(通告)すべきか悩んでいる人も少なくないようです
「児童虐待防止法6条には、『児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者』に児童相談所などへの通告義務を定めています。そのため、『児童虐待』にあたるのかどうか明らかでなくても、一般人の目から見て『児童虐待』があったと思う場合であれば、通告をしなければならないこととなります」
ーー通報することで、なんらかの不利益があるのではないかと心配する声もあるようです。もし、児童虐待にあたらないと判断された場合はどうなるのでしょうか
「上記の『子ども虐待対応の手引き』によると、『こうした通告については、児童虐待防止法の趣旨に基づくものであれば、それが結果として誤りであったとしても、そのことによって刑事上、民事上の責任を問われることは基本的には想定されないものと考えられる』とされています。
また、児童相談所への通告・相談は匿名でおこなうこともできますし、通告・相談をした人やその内容に関する秘密は守られます。虐待かもと思ったときなどに、すぐに児童相談所に通告・相談ができる全国共通の電話番号は『189』(いちはやく)という3桁の番号です」
●「子どもの側に立って」判断・行動できる社会を
ーーアメリカでは、公園に子どもを放置した場合は逮捕されると聞きます。日本と大きくちがうのは、なぜなのでしょうか
「たしかに、日本はネグレクトなどの『児童虐待』そのものへの刑罰を設けておらず、厳しい措置がとられる欧米諸国と比較すると不十分なようにも思えます。
日本では『子どもの養育やしつけについては親に決定権限がある』という伝統的な家族観の考え方が強い一方で、欧米では『子どもは社会のもの』であり、子どもについても1人の人間として尊重するという考え方が強いことが挙げられるかもしれません。
どちらが良いかは一概には言えませんが、虐待であるかどうかの判断は『子どもの側に立って判断すべきである』という考え方は社会に浸透すべきであると考えます。
今回の事例においても、『他人の家の子だから放っておこう』ではなく、『子どもの側に立って』判断して行動する社会になればよいと考えます」
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