高市早苗首相は9月17日に内閣改造をおこない、高市内閣発足時から法務大臣をつとめてきた平口洋(ひらぐち・ひろし)氏(78)が退任した。後任には、元検察官で法務大臣の経験もある山下貴司氏が就いた。
平口氏の在任中、法務行政では大きな動きが相次いだ。1948年の刑事訴訟法制定以来初めてとなる再審制度の見直しや、死刑の執行があり、検察官の不祥事も相次いだ。
一方、国会や記者会見では、手元の紙を読み上げる姿が目立ち、議員や記者から厳しく問われる場面もあった。
東大法学部を卒業し、法務政務官、衆院法務委員長、法務副大臣を歴任してきた平口氏。約11カ月の法務大臣としての仕事を振り返る。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●初の再審見直し、批判相次ぐも「答申を尊重」
平口氏の在任中に成立した法務省提出の主な法律には、次のようなものがある。
・保護司法改正法(2025年12月3日成立) ・入管法改正法(2026年5月29日) ・成年後見や遺言の見直しを含む民法などの改正法(同6月17日) ・自動車運転死傷処罰法・道路交通法改正法(同6月25日) ・再審手続を見直す改正刑事訴訟法(同7月17日)
中でも大きな注目を集めたのが、刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しだ。
袴田巌さんらの再審無罪や、過去の冤罪事件で捜査機関による証拠開示のあり方などが問題となる中で、現行の刑事訴訟法が制定された1948年以来、初めての制度見直しにつながった。
しかし、法務省は、抜本的な法改正に慎重な姿勢を示した。
法務大臣の諮問機関である法制審議会が答申した内容について、冤罪被害者や刑事法の研究者などから強い反対の声が上がったが、平口氏は「諮問をした立場にある法務大臣として、答申を尊重したい」と述べた。
●自民党内でも批判噴出、異例の3度の修正
その後、自民党の事前審査でも批判が噴出した。
当初予定していた期限までに法案を閣議決定できない事態となり、平口氏は「さらなる調整が必要であると認識しています」と説明した。
法案は自民党内で3度にわたって修正される異例の展開となった。最終的には、法制審の答申になかった検察官の不服申立ての「原則禁止」が刑事訴訟法の本則に盛り込まれた。
この変更について、平口氏は参院本会議でこう説明した。
「与党審査における議論を踏まえ、法制的観点から検討を尽くした結果、刑事訴訟法の本則に置くことが適当であると考えた」
法案成立後の会見では、「間違いなく再審制度を大きく前進させるものであって、重要な意義を有する」と評価した。
●検察官の不祥事相次ぐも…踏み込んだ対応策示さず
在任中には、検察の不祥事が相次いだ。
元東京地検特捜部の検事が、自ら捜査を担当した事件の被疑者だった女性と不適切な関係を続けたなどとして、今年7月に懲戒免職となった。
平口氏は「検察に対する信用を著しく損なわせる」と述べた。一方、検察組織の問題を外部から調査・検証する第三者委員会の設置などには踏み込まなかった。
●死刑執行を命令、当日は「自宅におりました」
再審法改正の成立から35日後の8月21日には、大阪拘置所に収容されていた高見素直死刑囚の死刑が執行された。
高市政権としても、平口氏にとっても初めての死刑執行だった。
直後に開かれた臨時会見で、平口氏は「慎重な上にも慎重な検討を加えた上で、死刑の執行を命令した」と述べ、これまでの法務大臣と同様の表現で説明した。
執行への立ち会いについて問われると、「死刑の執行には立ち会っていません。自宅におりました」と答えた。
平口氏は、衆参の法務委員会の答弁で下を向いて紙を読み上げることが多かった(衆議院インターネット審議中継より)
●記者会見でも「いつものメモ読み上げずに答えて」
平口氏の会見や国会答弁でたびたび目立ったのが、手元の紙を読み上げる姿だった。記者から、その姿勢を直接指摘されることもあった。
5月の閣議後会見で、再審制度に対する批判への受け止めを問われ、「そういう指摘があることは承知していますが、それに対するお答えは差し控えたいと思います」と答えた。
これに対し、記者からは「お答えを差し控えるという、官僚のサイドからの紙ばかりが来てそれだけを読み上げている感じがします」と指摘され、さらに「大臣として、検察組織のメンツと、無実を救済していくことと、どちらを優先していきたい考えか」と追及された。
9月の会見でも、死刑制度に関する質問にあたり、記者から「いつものメモを読み上げずに答えていただけますか」と釘を刺された。
●鈴木宗男氏「大臣としての矜持を持って」
国会でも、答弁姿勢を厳しく批判される場面があった。
7月9日の参院法務委員会で、元特捜部検事の不祥事が取り上げられたときのことだ。
「お答えは差し控えたい」と答弁する平口氏に対し、自民党の鈴木宗男議員はこう迫った。
「大臣、事の中身を聞いているんじゃないんだよ。事実関係で、あなたはいつ検察から報告を受けたかということを聞いているんですよ。それを端的に答えろと言っているんです」
そして質疑の最後には、こう語気を強めた。
「大臣、言わせてもらいますけどね、あなたも政治家ならば、せっかく大臣になったんだから、大臣としての矜持持って答えてくださいよ」
●退任直前「大局的な見地でリーダーシップを発揮」
内閣改造を目前に控えた9月15日の会見で、平口氏は自身の仕事をこう振り返った。
「私は、法務大臣として法務行政の諸課題に取り組むに当たり、大局的な見地に立ってリーダーシップを発揮するよう努めてきた」
再審制度の見直し、検察官の不祥事、死刑執行──。法務行政の根幹にかかわる課題が相次いだ約11カ月だった。
その中で、平口氏自身がどのような考えで法務行政を動かそうとしたのか。表舞台では、その「リーダーシップ」が最後まで具体的に見えてこなかった。