「愛人契約」。なんだか昼ドラに出てきそうな言葉だが、どうやら実在するようだ。「愛人契約をやめたら、『渡した金を一括で返せ』と言われて困っている」という悩みが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられている。
相談者はお金に困っていたとき、ある未婚の男性と、ひと月30万円で愛人契約を結んだという。契約の内容は、「男性が相談者に月30万円あげるかわりに、ひと月4回、肉体関係を結ぶ」という内容だ。女性はお金を受け取ったものの体調を崩してしまい、結局一度も肉体関係を結ぶことはなかった。すると、この男性は「どこかに借りてでも、すぐに金を返すよう」に要求してきたそうだ。
このような場合、契約の内容が果たせなかった以上、お金を返さないといけないのだろうか。また、そもそも「愛人契約」を結ぶことは、許されるのだろうか。佐々木未緒弁護士に聞いた。
●愛人契約は法律に違反して「無効」
「こうした『愛人契約』は、公の秩序、良い風俗を守るという民法の『公序良俗』規定に反し、違法です」
ということは、愛人契約は法的に「無効」ということだろうか。
「はい。愛人契約そのものが、無効です。さらに、そうした社会のルールに反するような目的で支払われたお金は、『不法原因給付』といって、返還請求が認められません。したがって、肉体関係を結ばなかったとしても、相談者は30万円を返す義務はありません」
男性のほうからすると不満が残りそうだ。男性が訴えてくる可能性はないだろうか?
「もし男性が裁判に訴えても、愛人契約は法律で保護されないので、裁判所は男性を助けてくれません。男性の敗訴は目に見えています。
もしかすると、男性に『訴えるぞ』と脅されたりすることもあるかもしれません。でも、男性が弁護士を頼もうとしても、『無理ですよ』と言われるだけです。
勝ち負けにかかわらず裁判を起こすことは可能ですが、負け試合と分かっていて訴える人はあまりいませんよね」
なるほど、相談者はホッとしたことだろう。それでも、なんだかふたりの関係に遺恨が残りそうだ。
「そうですね。心理的に嫌な感じは残るでしょう。ですから、できれば、相談者のほうも、返済しておいたほうがスッキリとすると思います」
愛人契約はそもそも、お金で自分の体を売ることだ。法的な問題以前に、知らず知らずの間に自分の心身を傷つけることになりかねない。決して、気軽に足を踏み入れるような世界ではない。