安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件をめぐり、奈良地裁は今年1月、山上徹也被告人に無期懲役の判決を言い渡しました。山上被告人側は控訴し、裁判はなお続いています。
この事件をきっかけに「宗教2世」の問題が社会的に大きく注目されましたが、関心は次第に薄れつつあるとの指摘もあります。一方で、信仰に関する悩みは、いまも多くの人の日常に残ったままです。
そこで弁護士ドットコムニュースは今回、宗教をめぐって苦しみや葛藤を抱える人たちの体験談を募集しました。
寄せられた声から浮かび上がったのは、「家族関係の崩壊」や「人生への過度な干渉」など、信仰の自由の陰で見えにくくなっている現実でした。
●「夢も希望もない」親の宗教が原因で破談続き
多く寄せられたのは、進学、就職、そして結婚といった人生の節目が、親の信仰によって影響を受けてきたという声です。
埼玉県草加市の50代女性は、ある宗教の2世として生まれたことで、人生の選択肢を狭められてきたといいます。
「そのせいで、彼氏ができても結婚には至らず。親がこの宗教だとわかると会えない日が続き、関係が終わります。5人ほど付き合いましたが、全員それでした。
結婚したとしても、この宗教に入ってほしいとは思っていないことを伝えても、相手の親などが『親戚になるのがイヤ』と反対したとかで、全部破談になりました。
おかげでいまも独身です…もう夢も希望もありませんよ。宗教のない家に生まれてきたかった…」
親の信仰が、子どもの人間関係や将来設計に影響を及ぼすケースは少なくありません。
北海道の60代女性は「日本で一番」とされる宗教団体に祖父母の時代から属しているといいます。
「孫の結婚相手の宗教に口を挟んできます。私は宗教の前に、人としての自由や主観を大事にしてほしい。その考えも私が甘いと言われます。宗教だけが人生なのでしょうか?
どんなにいい宗教にすがっても、自分が頑張らなければ意味がないと私は思います。妹とは疎遠になり、家族が崩壊しかけています。私の息子も、私の妹には結婚式に来てほしくないと言う始末です。そこまで宗教は大事なのか疑問です」
札幌市に住む50代の女性は、自身が結婚する際、「相手を入信させてからでないと結婚は上手くいかない」と言われたことを明かしました。
●「月20万の会費」「140万円自腹で奉仕」 搾取される財産と労働
信仰心につけ込まれたと感じる金銭的・労働的搾取の訴えも目立ちました。
宗教2世だという群馬県の50代女性は、「会費」と称して経済的に追い詰められたといいます。
「社会人になったら『2万5000円を払わないとまともな結婚ができない』と言われ、結婚してからは『5万円を払わないと離婚になってしまう』と言われました。子どもが成長するごとに増え、ついには毎月20万円を払ってきました」
金銭だけでなく、労働力の提供を求められるケースもあります。
千葉県に本山がある宗教団体で活動してきたという大阪府の50代男性によると、専門の技術職になると、旅費交通費や食費などをすべて自腹で奉仕労働させられたといいます。
仕事を休むなどして奉仕作業に従事した結果、年間で140万円ほどを自腹で負担することになり、怒りのあまり、この宗教団体から脱会したようです。
宗教4世として、寺の世話をせざるを得なくなった静岡県の40代男性は、次のように嘆きます。
「僧侶を辞めたいのだけど、檀家さんとの関係や、寺から追い出されると実家が消滅してしまうという事情からやむなく、二足のわらじです。宗教活動に興味がないうえ、本業も忙しく、持ち出しもあり、金にならない仕事がほとんどで辞めたくても辞められない」
●山上被告人への複雑な視線 「救われた」VS「断罪すべき」
1審で無期懲役の判決を受けた山上被告人への評価は、回答者の間でも大きく分かれました。
「山上氏が控訴して良かったと思っています。私の知り合いの高齢女性は、統一教会の人からいろんな物を買って何十万円も支払っていました。安倍元首相の事件が起きて、初めて統一教会の被害にあっていたことに気付きました」(高知県・70代女性)
「山上被告の判決は、重すぎると思う。安倍元総理が統一教会の広告塔の役割を務めていたこと、統一教会と自民党の関係が判決に反映されていない。山上被告の事件で結果的に統一教会に解散命令を出すことになり、社会貢献した部分も判決に反映されるべき」(愛知県・50代女性)
極右カルト組織に母を洗脳されたという大阪府の20代女性は「私はただ、極右カルトの被害者である山上徹也さんの裁判を陰ながら応援するのみです。彼に対して温情ある判決が下るように願っています」とつづりました。
一方で、殺害という手段に対する厳しい批判は少なくありません。
かつて裁判員裁判に参加したことがあるという大阪府の60代男性は「自分の不遇を直接の対象者でないところに行使するのは、説明がつかないと考えます」と述べます。
「日本国の行く末を左右する人物を殺害したこと」などを挙げたうえで、「死刑にすべき。情状酌量の余地なし」と主張する意見もありました。
事件を起こした山上被告人の刑事責任は、司法の場で引き続き問われていきます。
一方で、宗教をめぐる家庭環境の中で生きづらさを抱える人たちの声は、事件とは別に存在し続けています。
「信仰の自由」は憲法で保障された重要な権利ですが、その陰で見えにくくなっている葛藤や人権の問題について、社会として目を向け続ける必要があるのかもしれません。