弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 原発避難者の退去確定、最高裁判決をどう見る? 井戸謙一弁護士「影響は極めて大きい」「司法の役割問われる」
原発避難者の退去確定、最高裁判決をどう見る? 井戸謙一弁護士「影響は極めて大きい」「司法の役割問われる」
最高裁判所(natsukusa-ya / PIXTA)

原発避難者の退去確定、最高裁判決をどう見る? 井戸謙一弁護士「影響は極めて大きい」「司法の役割問われる」

東京電力福島第一原発事故の影響で、都内の国家公務員宿舎で避難生活を送っていた女性に対し、福島県が無償提供の終了を理由に住居の明け渡しと損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が1月9日、最高裁第二小法廷であった。

最高裁は、女性側の上告を棄却し、避難者側敗訴が確定した。一方で、三浦守裁判長による「反対意見」は、避難者側の主張の多くに理解を示す内容となっている。原発関連訴訟を手掛ける井戸謙一弁護士に、同種の訴訟への影響などを聞いた。(浜田奈美)

●原発事故で自主避難した人たちが退去を迫られた

福島原発事故後、各地に避難した人々への支援策として、国は「災害救助法」を適用し、各自治体の判断で公営住宅などを無償供与してきた。

しかし、福島県の内堀雅雄知事は2015年6月、避難指示区域外からの避難者(自主避難者)に対する住宅の無償提供を2017年3月末で打ち切ると決定した(いわゆる「内堀決定」)。

首都圏の国家公務員宿舎に暮らす避難者に対しては、2年間に限り有償での延長を認める「セーフティネット契約」を結ぶか、退去するかの選択が迫られた。

その後、セーフティネット契約を締結せず、退去しなかった世帯について、福島県は2020年3月、明け渡しなどを求めて福島地裁に提訴した。

●最高裁は避難者の上告を退けた

今回の訴訟で、避難者側は「内堀決定」の違法性や、国際人権規約に基づく居住権を主張したが、一審、二審はいずれも敗訴。

さらに一審判決には、判決確定前でも強制執行を可能にする「仮執行宣言」が付され、二審判決後の2024年4月、最後まで明け渡しを拒んだ女性が強制退去となっていた。

最高裁判決は、災害救助法に基づく一時使用許可が終了した時点で国家公務員宿舎に居住する理由がなくなったと判断した一審、二審判決を支持し、避難者の上告を退けた。

●三浦裁判長の「反対意見」の主な内容

三浦裁判長は反対意見で、次のような指摘をしている。

・福島県には「原告適格」を有さないため、一審判決を取り消し、県の請求を棄却すべき

・「内堀決定」は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱している

・原審は「災害救助法」の法解釈を誤った状態で審理がなされた。住居明け渡しの部分を棄却し、高裁に差し戻すべきである

・原発事故被災者の保護に関する法令解釈は、国際人権規約などを踏まえておこなう必要がある

・避難指示区域の「内外」によって住宅供与を区別する理由は認められない

●「結論としての影響は極めて大きい」

──今回の判決内容をどのように受け止めていますか。

井戸:反対意見がついたとはいえ、最高裁が住居明け渡しを是認したという結論自体は、今後の下級審に与える影響が大きいと見ています。私は現在、東京地裁で係争中の「原発事故避難者住まいの権利裁判」の代理人も務めていて、そちらへの影響も心配しています。

今回の判決は、「内堀決定」が違法かどうかにかかわらず、女性には占有権限がないとした原審の判断を「正当」と評価しました。避難者側は、災害救助法の上位規範として国際人権規約や憲法に基づく居住権を主張していましたが、判決はこれを事実上否定した形です。

しかし、「避難者は国内避難民にあたるのか否か」「国際人権法上の権利がなぜ避難者に認められないのか」について、具体的な理由を示していません。この点は重要なポイントだと思います。

●類似訴訟への波及は避けられない

──自主避難者に対する追い出し訴訟は35件、このうち国家公務員宿舎関連が28件あるとされています。今回の判断は、類似訴訟にも影響しそうです。

「国際人権規約に基づく居住権などを否定した原審は正当だ」と評価した今回の最高裁判決は、現在東京地裁で争っている「原発事故避難者住まいの権利裁判」における私たちの主張とは正面から対立します。

日本の法律には明文の「居住権」がありません。災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与の仕組みは、短期の避難しか想定しておらず、避難が長期に及ぶ原発事故避難者に対する救助の仕組みとしてはまったく不十分です。そのため、私たちは、国際人権規約や国内避難民に関する指導原則などから、「住まいの権利」を導き出す主張をしています。原発事故被災者を包括的に救済する立法がない以上、国際法や憲法から権利を引き出す必要があるという立場です。

●反対意見は「大きな手がかり」

── 一方で三浦裁判長の「反対意見」は、避難者側の主張に沿う内容が多く含まれます。

今後、下級審の裁判官が無難に、「最高裁の多数意見に従っておこう」と考えるのか、それとも「反対意見を手がかりに判例変更を迫っていくべきだ」と考えるのかで、流れは大きく変わるでしょう。

私は、本来下級審の裁判官には、必要であれば最高裁に判例変更を迫るだけの気概があって当然だと思っています。ただ、2022年のいわゆる「6.17最高裁判決」(国の賠償責任を否定)以降の下級審を見ると、「右へならえ」で、気概など見えてきません。今後も下級審の裁判官が同じ姿勢なら、非常に厳しくなります。

それでも反対意見の内容は、今後の裁判で重要な手がかりになります。国際人権規約を踏まえる必要性を正面から受け止めた点や、避難指示を受けた被災者と受けなかった被災者を区別せず、避難を続ける合理性を評価した点は大きいと思います。

●「内堀決定」へ厳しい評価

──反対意見では「内堀決定」についても、「裁量権の濫用」「社会通念上著しく妥当性を欠く」と厳しく批判しています。

反対意見は、住宅支援の打ち切りを一律に判断すべきではなく、個々の事情を見るべきだとも述べています。原発事故による避難の特質を踏まえ、避難者に寄り添った指摘だと言えるでしょう。

今後、「内堀決定」の違法性を争ううえで、大きな追い風になる可能性があります。多数意見は「内堀決定」の違法性については判断していません。内堀決定の違法性についての最高裁の判断は、これを違法だとした三浦裁判官の少数意見があるだけなのです。

●多数決では救えない権利を守る最後の砦

──最後に司法の役割に期待することを教えてください。

裁判官が、被災者や避難者の視点に立って判断しているのか。それとも国や自治体といった為政者の視点に引き寄せられているのか。三浦裁判官の反対意見と多数意見には、そうした視点の差が色濃く表れているように見えます。

少数者の権利侵害を救済することこそ司法の役割であり、多数者の意向を追認したり、尻拭いすることではないはずです。多数決では救えない権利を守る最後の砦としての司法のあり方が改めて問われているといえるでしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする