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炎天下の高校野球、熱中症で倒れたら「誰の責任」になる? 主催者の"法的義務"を弁護士が解説
甲子園球場(LOCO / PIXTA)

炎天下の高校野球、熱中症で倒れたら「誰の責任」になる? 主催者の"法的義務"を弁護士が解説

夏の全国高校野球が開幕する中、気象庁が発表する「熱中症警戒アラート」や、さらに上位の「熱中症特別警戒アラート」に注目が集まっている。

甲子園のある兵庫県では、7月30日に丹波市で国内観測史上最高となる41.2℃を記録。真昼間に試合がおこなわれるスケジュールについて「日陰もないから熱中症リスクが膨大」「死者が出るまでやめないつもりか」など、選手の健康を憂慮する声も相次いでいる。

こうした中、大会中に熱中症で選手や観客が深刻な健康被害を受けた場合、主催者にはどのような法的責任が問われるのか。スポーツ事故と法律にくわしい高橋駿弁護士に聞いた。

●暑い、即「中止」すべきか

──熱中症警戒アラートや特別警戒アラートが出る中で試合を実施し、健康被害が出た場合、主催者に法的責任(損害賠償責任)は発生するのでしょうか。

甲子園に限らず、一般論として、スポーツイベントの主催者には、選手や観客、スタッフの生命・身体を守る「安全配慮義務」が課されています。

中でも、競技がおこなわれる「環境」は、安全配慮義務の履行状況を判断するうえで重要な要素です。熱中症警戒アラートや特別警戒アラートが出ているということは、暑さ指数(WBGT)が高く、健康被害のリスクが極めて高いことを意味します。

そのような状況下で、特段の対策を講じることなく試合を実施し、実際に被害が出た場合には、主催者に安全配慮義務違反が認められる可能性があります。過去の裁判例を踏まえても、一定の法的責任が問われる余地は十分にあるといえるでしょう。

ただし、暑いという状況のみで、一概に中止・制限しなければ法的責任が必ず生じるとまでは言い切れません。たとえば、名古屋地裁一宮支部の平成19年9月26日判決では、「乾球温31℃以上の暑熱環境下の激しい運動であっても、暑熱馴化、休憩の取り方、水分補給、個々の体調などに十分配慮すれば熱中症は予防可能であり、暑熱環境というだけで直ちに過失が認められるわけではない」とされています。

したがって、実際に責任が認められるかどうかは、暑さ指数(WBGT)の値を前提として、主催者がどれだけ適切な対策を講じていたか、が大きなポイントになると考えられます。また、JSPO(日本スポーツ協会)が公表している「熱中症予防運動指針」等も、中止・制限の判断の際には考慮要素とすべきです。

●「2部制」「クーリングタイム」が有効な対策に

──主催者が「安全配慮義務を尽くしていた」と評価されるには、どのような対応が必要でしょうか。

裁判例においては、WBGTや、気温・湿度といった環境要因に加え、給水の頻度や服装なども考慮されます。

たとえば、今大会で導入されている2部制(午前と午後に分けた日程)は、気温や湿度が高い危険な時間帯を避ける点で有効です。また、クーリングタイムの導入や、水分・飲料の提供、審判や選手のユニフォーム・シューズの色の規定緩和も、リスク軽減につながる対策といえるでしょう。

これらの工夫がされていれば、仮に被害が出た場合でも、主催者の責任を否定する事情になりえます。

●観客への責任は相対的に低い

──観客が熱中症で被害を受けた場合、主催者の責任はどうなりますか。

選手と同様に、観客についても、主催者が何ら有効な対策を取らず、高リスクの環境に招き入れた結果、被害が生じたようなケースでは、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

ただし、観客は選手と異なり、服装や移動、休憩のタイミングを自分で調整できる立場です。そのため、主催者の責任が認められるハードルは相対的に高くなると考えられます。

たとえば、水分補給や休憩の場内アナウンスがおこなわれていたにもかかわらず、観客側がそれに従わなかった場合などは、「過失相殺」によって損害賠償額が減額される可能性があります。

●「何もしない」はあり得ない

──SNSではさまざまな対策案が出ています。実効性のある対策とは?

朝の早い時間帯やナイターでの開催は、暑さ対策として有効です。ただし、早朝は準備や移動、ナイターは終了時間が遅くなりすぎるなど、学生スポーツならではの課題があります。

また、「7回制」の導入など、試合時間の短縮も検討されていますが、野球のルールそのものに関わるため、賛否が分かれるところです。高野連もアンケート調査をおこなうなど、現場の声を踏まえた丁寧な議論が求められます。

会場をドーム球場に変更するという案もありますが、「甲子園=高校野球の聖地」という歴史的・象徴的な意義をどう考えるかという問題にもつながるため、慎重な判断が必要でしょう。

いずれにせよ、熱中症は生命にも関わる重大なリスクであり、「何もしない」という選択肢はありえません。主催者には、抜本的な制度設計の見直しに加えて即効性のある対策も強く求められます。

・熱中症の兆候を早期に察知できる専門スタッフの配置
・被害発生時の救護体制・プロトコルの整備
・観客へのリスク周知と注意喚起(場内アナウンス、掲示など)

こうした対策を講じることこそが、大会運営者の責任であり、選手・観客の生命を守るうえで欠かせません。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

高橋 駿
高橋 駿(たかはし しゅん)弁護士 Field-R 法律事務所
2018年早稲田大学法科大学院修了、2019年12月弁護士登録。第二東京弁護士会。日本プロ野球選手会顧問弁護士、日本スポーツ法学会スポーツ契約等研究専門委員会副委員長。スポーツ界における誹謗中傷抑止のための弁護士による団体「COAS」を設立。共著に「これで防げる! 学校体育・スポーツ事故: 科学的視点で考える実践へのヒント」(中央法規出版、2023年)

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