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乃木坂「公式ライバル」メンバー、男性との〝親密写真〟流出で謝罪 アイドルの「恋愛禁止」ルール、どうあるべき?
「僕が見たかった青空」の宮腰友里亜さん(公式ブログより)

乃木坂「公式ライバル」メンバー、男性との〝親密写真〟流出で謝罪 アイドルの「恋愛禁止」ルール、どうあるべき?

乃木坂46の公式ライバルグループ「僕が見たかった青空」のメンバー、宮腰友里亜さんが 3月27日、自身の公式ブログを更新。SNS上に男性と親密そうにしている写真が流出したことについて謝罪しました。

宮腰さんはブログで「Xでポストされた写真の方2名は、知人の男性の方です。誤解を与えるような行動をしてしまった事を深く反省しています」とした上で、「今後、自分の置かれている立場をしっかりと考え、行動に責任を持ちたいと思います。そして今まで以上に僕青に向き合っていきたいと思います。」と決意をつづりました。

しばしばネット上で議論になるアイドルの「恋愛禁止論」。今回、宮越さんは恋愛関係であったことは否定していますが、ネットでは「例えプライベートでも男の影は隠すべき」「アイドルとはいえ、生きる活力として必要」など様々な意見が集まっています。

アイドル、そして応援するファンは「恋愛禁止」というルールにどう向き合うべきなのでしょうか。芸能問題に詳しい河西邦剛弁護士に聞きました。

⚫︎アイドルに「恋愛禁止」を強いることは困難

結論から言うと、芸能事務所がアイドルに契約で恋愛禁止を強いることは困難です。

まずは、アイドルや芸能界から一旦離れて、考えてみましょう。

例えば、会社が社員や業務委託の個人に対して、契約でどこまでプライベートを規制できるかという視点でみたとき、契約書に明記されていてもプライベートまで規制はできないという結論になるかと思います。

アイドルも一つの事業でもあり、法的に特別扱いされることもなく、プライベート規制の一類型である恋愛禁止条項も無効になるということです。

過去には、恋愛禁止条項が有効とされた裁判例もありましたが、2016年には「異性との交際は人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権」であることを理由に、損害賠償を認めない判決が出ており、その後も無効とする傾向が続いています。

⚫︎自分たちで恋愛禁止ルールを設けることは可能だけれど…

そもそも、恋愛禁止ルールが設けられる理由は、アイドルに対して疑似恋愛を求め、その延長として自分以外との恋愛をネガティブに捉えるファンがいるからです。

恋愛が発覚すればファンは減る傾向にあります。そのため、芸能事務所は「恋愛禁止」を設けて、一部のニーズに応えようとします。

また、アイドル側が自主的なルールとして、恋愛禁止を設けるケースもあります。ですが、あくまでもルールなので、違反者に対して損害賠償等の法的請求をすることはできないということです。

⚫︎「恋愛禁止」ルールはどうあるべきか

芸能事務所側としては主に3つの選択があります。(1)恋愛禁止を明言する。(2)恋愛禁止でないことを明言する。そして、(3)特に何も触れず、ファンの想像に任せる。

一番使いやすいのは3つ目の「ファンの想像に任せる」ファンタジー方式で、大手事務所が採用している印象があります。

なので、大手事務所では、アイドル側に恋愛が発覚したとしても、公式な不利益な処分や発表はしていません。アイドル本人がSNSで謝罪したり、活動自粛したりすることはありますが、事務所としては異性交遊でペナルティーを科すことができないことが前提にあります。

しかも昨今の社会背景のもと、仮に大手事務所が恋愛禁止を理由に処分やその発表をしてしまうと、人権やコンプライアンス上の問題になり、テレビ局やスポンサーなどの関係にも影響する可能性があります。

⚫︎理想の押し付けからくる誹謗中傷

ここで逆にストレスを溜め込んでしまうのが一部のファンです。

つまり「推しメン」に恋愛は望まないのに、事務所がそれに応じた動きをしてくれないと不満が募り、結果、SNSでの誹謗中傷に繋がります。

例えば「グループの一員として自覚が欠けている。」「グループの価値を下げるな」「他のメンバーに迷惑をかけるな」という感じです。

ファン側の「好き」という気持ちが強くなってくると、次第に「こうあるべきだ」という理想の押し付けに変わっていきます。

特に自己肯定感が不足した状態にいる中年男性やアイドルへの依存体質が強い人に多い印象ですが、「異性交遊をしている=活動を疎かにしている」と置き換えて認知するタイプもいます。

⚫︎誹謗中傷への対応はどうするべき?

SNSの誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪に該当するケースもあるので、事務所としては毅然と対応するべきですが、いくら対応しても根絶することは現実的に困難かと思います。

アイドル側も認識を変えることも一つの方法かと思います。発覚直後はネットを見れば自分に対する誹謗中傷ばかりが目につきます。まるで「日本中から否定されている」とさえ思ってしまうケースもあるでしょう。

ただ、実際はそんなことは全くありません。一部のファンの声がSNSの増幅機能により、一時的にそう見えているだけです。元はただの異性交遊に過ぎず、「誤解」されているケースもあるかと思います。

多くの同じようなケースでも、数週間もすれば何事もなかったように元の状況に戻っていくことができます。アイドルの異性交遊のニュースはその時は盛り上がるかもしれませんが、いずれ風化し忘れ去られますし、新たな活動によりファンの記憶も上書きされていきます。

誹謗中傷を許容することはできませんが、アイドルであり人前に立つ以上は、どうしても評価されたり比較されたりすることを避けることはできません。

一部の偏ったファンの声に飲み込まれない気持ちを持つことは自分自身と変わらず応援し続ける大多数のファンを守ることになります。 異性交遊が発覚したとしても、変わらず応援し続けるファンも沢山いるという事実にも目を向けると良いかと思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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