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東海大学の非常勤講師ら、無期転換訴訟で敗訴…判決を批判「すべての教員が10年特例の対象になってしまう」 東京地裁
原告団長をつとめている河合紀子さん(田中圭太郎撮影)

東海大学の非常勤講師ら、無期転換訴訟で敗訴…判決を批判「すべての教員が10年特例の対象になってしまう」 東京地裁

東海大学から雇い止めを通告された非常勤講師ら8人が、無期雇用に転換できる権利があるとして地位確認を求めていた裁判で、東京地裁は1月30日、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

原告の非常勤講師らは、労働契約法に基づいて、通算5年の勤務で無期雇用への転換が認められると主張してきた。

一方の東海大学は、労働契約法の特例である「大学の教員等に関する法律(任期法)」や、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(イノベ法)」が適用されるとして、無期転換には10年が必要と主張していた。

東京地裁は、非常勤講師らに任期法が適用されると判断した。

この日の判決後に記者会見を開いた原告側は、判決は一人ひとりの雇い止め理由について検討していないとして、「任期法には非常勤講師を一律に適用対象にする規定はなく、この判決ではすべての大学教員が任期法の適用対象になり、ひいては(不当な)雇い止めが可能になってしまう」と懸念を示した。

原告側は不当判決として控訴する方向で検討している。この裁判のポイントをみていきたい。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●非常勤講師には「労働契約法」と「任期法」のどちらが適用されるのか

「任期法が適用されてしまったということで、大変残念に思います。私たち非常勤講師は、研究の仕事を命じられたこともありませんし、研究室もありません。研究費が支給されているわけでもありません。任期法が適用されるはずがないと思って2年半前に提訴したわけですけど、今日こういう結果になったことに大変不当感を持っています」

判決後の記者会見で思いを述べたのは、原告団長をつとめている河合紀子さん。東海大学静岡キャンパスで、韓国語を担当する非常勤講師として2004年から勤務している。

契約期間が1年の有期雇用契約で、毎年契約を更新してきたが、5年を超えて勤務して、労働者が申し込めば無期雇用に転換できる改正労働契約法が2013年に施行されたことから、問題なく無期転換できると考えていた。

しかし東海大学は、2023年3月末で多くの非常勤講師を雇い止めした。

その理由は、2015年に導入した無期転換規程だった。規程の根拠にしたのは、2014年に改正された任期法とイノベ法。労働契約法の特例として、無期転換の権利が得られるのは10年を超えて勤務した場合とするものだ。これらの法律に非常勤講師が該当するとして、過去にさかのぼって適用して10年を超える前に雇い止めをしていた。

原告8人のうち河合さんは、雇い止めを通告されたのちに撤回されたが、他の7人は2023年3月末で雇い止めされている。8人全員に無期雇用に転換する権利があることの地位確認を求めたのが、今回の裁判だった。

裁判では、非常勤講師に任期法が適用されるどうかが大きな争点となった。任期法の対象となるのは「教育研究組織の職」にある人で、具体的には仕事の内容が「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」などと例示されている。

「助教」も明記されているが、非常勤講師についてはされていない。そのため、語学などの授業のみを担当している非常勤講師は任期法の対象にならないと原告側は主張してきた。

●すべての大学教員が任期法の適用になる?

原告 判決後、原告は記者会見を開いた(田中圭太郎撮影)

東京地裁は、任期法の適用対象である「教員」には常勤・非常勤を問わず、講師を含むなどとして、非常勤講師は「任期法の適用になる」と結論づけ、原告の請求を棄却した。

原告代理人の田渕大輔弁護士は記者会見で、判決の問題点として、原告一人ひとりの雇い止め理由について検討がされていないことを挙げた。そのうえで「今回の判決の理屈では、すべての非常勤講師が任期法の適用対象になる結論になり、すべての大学教員が任期法の10年特例の適用対象になってしまう」と指摘。「不当判決」と断じた。

田渕弁護士が「不当判決」と表現したのは、大学教員の無期雇用をめぐる別の裁判の結果も関係している。

そのうちの一つが、専修大学の非常勤講師が「イノベ法」を理由に無期転換を拒否されたとして、大学を訴えた裁判だ。この裁判では、非常勤講師にはイノベ法が適用されないという裁判所の判断がすでに確定している。

もう一つは、羽衣国際大学の専任教員である講師が、無期雇用への転換を求めた裁判だ。大阪高裁判決では大学が主張する任期法の適用を認めず、5年での無期転換を認めた。しかし、最高裁は2024年10月、高裁判決を破棄して、任期法の適用を認める判断を示した。審理は大阪高裁に差し戻されている。

このように、任期法とイノベ法をめぐる裁判は、現時点では個々のケースによって裁判所の判断が異なっている。

今回の東海大学の裁判は、当初11月下旬に判決が言い渡される予定で日程が決まっていた。ところが2カ月延期された。そのうえ今回の判決が出たのは、羽衣国際大学をめぐる裁判の最高裁判決が影響したのではないかと弁護団は考えている。

しかも、羽衣国際大学のケースは「専任教員」で、東海大学のケースは「非常勤講師」だ。両者に任期法が適用されると、田渕弁護士が指摘した通り、すべての大学教員が10年を超えて勤務しなければ無期雇用になれないことになる。

多くの大学では5年を超えて勤務している非常勤講師の無期転換を認めていて、10年を主張する大学は少ない。10年を超えなければ認めない東海大学は、すべての非常勤講師を2025年度末にいったん雇い止めし、大学が認めた講師だけを再雇用するという方針を示している。

原告側は判決を不服として、控訴する方向で検討している。あわせて、裁判所も判断の判断も安定しない任期法やイノベ法が問題の根底にあると考えて、今後、国に10年特例の廃止を求めていくことにしている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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