「野球場でお酒の売り子さんにお酒をひっくり返されて、頭からかぶってしまいました」。そんな不運なトラブルに遭遇したという相談が、弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者は恋人と野球場で試合の観戦中、売り子が近くの人にお酒を渡そうとして、ひっくり返してしまいました。
相談者たちは頭からお酒をかぶりずぶ濡れに…。恋人が持っていた仕事用のリュックも濡れてしまったとのことです。売り子はすぐに謝罪してくれましたが、責任者に「とりあえず服のクリーニング代をお願いします」と言ったところ、お金の入った封筒を渡してきたそうです。
中には2000円が入っていましたが、相談者は「私たちがどれくらい濡れているかよく確認せず、2000円だけ渡してきました。2人分にしては少ないですし、クリーニング代だけ出したらそれで解決という態度が非常に不快でした」といいます。
また、相談者は全身が濡れてお酒くさくなり、そのまま試合を見る気になれずに帰宅したとのことで、相談者はクリーニング代の追加分や、見られなかった試合のチケットを請求したいと考えているそうです。
こうした請求は可能なのでしょうか。大橋賢也弁護士に聞きました。
●「クリーニング代」の増額請求は可能
——相談者は一旦、2000円を受け取ってしまっていますが、もしクリーニング代が足りなかった場合、「クリーニング代の増額請求」は可能なのでしょうか。
当事者が、どのような趣旨で2000円の授受をしたかによって、結論は変わってくると思います。
まず、正確なクリーニング代が分からないので、2000円で足りないときは、後日追加で請求するという趣旨であれば、クリーニング代の増額請求をすることはできると思います。
これに対し、実際にかかったクリーニング代がいくらであるかにかかわらず、今回の問題を2000円で解決するという趣旨であれば、増額請求をすることはできないと思います。
●チケット代の請求が認められる可能性は?
——お酒をかぶったことで、相談者は試合観戦をあきらめてしまいましたが、チケット代相当額の請求は可能でしょうか。
先ほど述べたように、今回の問題を2000円で解決するという趣旨で、2000円の授受が行われたのであれば、チケット代相当額の請求をすることはできないと思います。
これに対し、2000円は、一時的な見舞金であるという趣旨で授受が行われた場合は、請求できる可能性はあると思います。チケット代相当額の請求は、売り子の過失によって発生した損害の請求なので、不法行為に基づく損害賠償請求になります(民法709条、715条)。
被害者が請求することができるのは、加害者の過失と相当因果関係の範囲内にある損害に限られると考えられています。
したがって、観戦が続けられないほどに衣服を濡らされてしまった場合には、観戦を諦めざるを得ないので、チケット代は、加害者の過失と相当因果関係の範囲内にある損害と認められる可能性があると思います。もっとも、既に試合が始まっていて、被害者が途中まで観戦している場合は、既に観戦した分は損害から除外される可能性があるでしょう。
●後でトラブルにならないためには?
——こうした突然の災難の場合、後でトラブルとならないために、その場ではどういった行動をとることが望ましいでしょうか。
後日のトラブルを防止するためには、その場で現金を受け取るとしても、どのような趣旨で受け取るのかを明らかにして、加害者側との間で合意をすることです。そのような合意ができないのであれば、現金を受け取るべきではないと思います。また、合意をすることができるのであれば、できればメモ書きでも良いので簡単な書面を作成しておいた方が良いでしょう。