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浜崎あゆみ「公演の当日中止」、ホテル代など「遠征費」まで補償してもらえるか? 弁護士解説
浜崎あゆみさんのインスタグラムから(https://www.instagram.com/a.you/?hl=ja)

浜崎あゆみ「公演の当日中止」、ホテル代など「遠征費」まで補償してもらえるか? 弁護士解説

歌手の浜崎あゆみさんの公式サイトは9月11日、同日開催予定だった「TA LIMITED Thank U tour 2024」の福岡公演中止を発表した。

中止するのは、11日18時開場、19時開演が予定されていた「Zepp Fukuoka」の公演。公式サイトでは遅くとも同日13時ころにはアナウンスがあった。

中止の理由は、前日10日の公演中に発覚した「音響並びに演出機材の技術的なトラブル」だとしている。

「本日ただ今まで復旧に向けて調整対応を続けてまいりましたが、現時点でその目処が立たず、浜崎あゆみ及びスタッフ一同協議の末、直前でのご案内となり誠に申し訳ございませんが、本日の公演の開催を中止させていただくことにいたしました」(公式サイトから)

また、振替公演やチケット払い戻しに向けた調整をしているという。

とはいえ、チケットをすでに買ったファンの中には、この公演を目的としてホテルを用意したり、遠方から移動した人もいただろう。

今回のように「直前中止」の事態が発生した場合、宿泊費や移動費まで主催側に求められるのだろうか。エンターテインメント業界の問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。

●免責条項は一応有効

——チケットを買った人は宿泊費や交通費などの費用まで主催者側に求められるのでしょうか

チケットには、通常、契約内容として公演中止の場合の免責事項が記載されています。そして、公演中止時の宿泊費や交通費については損害賠償責任を負わないとする免責条項は法律上も一応有効と考えられます。

消費者契約法により、消費者の利益を一方的に害するような条項、たとえば事業者は一切責任を負わないという条項はそもそも無効になります。ただし、チケット代金すら返金しないとなると話は別ですが、諸費用の免責条項については一定の合理性はあり、免責条項が一律無効になることはないと思われます。

しかし、本件でどのような免責条項が規定されているのかは具体的にはわかりませんが、公演中止について、もっぱら主催者側に責任がある場合には、免責条項は適用されないでしょう。なので、実際に宿泊費や交通費を求めて裁判になった場合には、中止の具体的原因、つまりどの程度、主催者側に責任があるかが争点になると思われます。

●トラブルの具体的理由は何か?

——今回は「音響並びに演出機材の技術的なトラブル」が理由だとされています。どんなトラブルだったと考えられるでしょうか

ツアー中に2日間連続で同じ会場で福岡公演が予定されていて、その福岡公演1日目の開演後に発覚した「音響並びに演出機材の技術的なトラブル」が中止の原因とのことです。

コンサート中止で多いのが、台風などの自然現象、次に出演者の体調不良であり、機材関係のトラブルというのは珍しい印象です。

もう少しトラブルの詳細を検討してみると、まず、トラブルが発覚したタイミングが1日目の公演開始後であり、そうすると設営中にスタッフが機材を落としたとか、ぶつけたといったトラブルではないと考えられます。

また、「技術的なトラブル」の発覚という表現が使用されています。仮に、スピーカーの音が出なくなったとか機材そのもののトラブルであれば「機材の故障」や「機材のトラブル」などと表現されると思われます。

さらに、「音響並びに演出機材の技術的なトラブル」ということですから、今回は音響と演出が連動するような演出機材についてのトラブルと思われます。「技術的なトラブル」ということから、単純な機材の故障ではなく、何らかの人為的な要素も伴うトラブルの可能性も考えられます。

そうすると、音響と演出がリンクするような演出機材についてのトラブルであり、かつ人為的な要素も伴うトラブルである可能性が推測されます。

●裁判所が宿泊費まで支払いを認める可能性も考えられる

——仮に裁判になった場合には、どのように判断されるでしょうか

公演中止が当日となれば、交通費や距離によっては宿泊費が来場者に発生することはほぼ確実です。

仮に、今回の当日キャンセルを受けて、来場者が交通費や宿泊費を求めて裁判を起こした場合、裁判所は公演中止について主催者側の故意や過失の有無や程度について検討し、免責条項は適用せず、主催者側の支払い義務を認めるかどうかを判断すると思われます。

過失というのは、トラブルが十分予見可能であり、かつ、そのトラブルを回避する義務を怠った場合です。天候や出演者の体調不良に伴う中止については基本的にはそもそも予見することは難しいから主催者側の過失は認められないでしょう。

しかし、今回のケースについて、仮に人為的な要素が高く、そして事前準備や対策を怠ったことが原因で公演中止ということになれば、主催者側の過失が認められ、交通費や宿泊費にまで拡大して損害賠償が認められる可能性はありえると思います 。

ただし、逆に損害賠償の範囲が無限定に拡大していくのを防ぐため、民法は、基本的に相当な範囲での損害に賠償義務を限定しています。つまり、公演中止に伴う相当な範囲の諸費用が損害の範囲となり、どこから会場に来たか、どのホテルに宿泊したかの個別的事情によらずに、"だいたいこれくらい"という感じで賠償額が定められると思われます。

しかし、実際、海外から来た場合や高級なホテルに宿泊しているケースもあると思います。この場合には、主催者側がその特別事情を予見できたという場合には損害の範囲に含まれますが、基本的には、予見困難な特別事情として損害として認められるのは難しいと思われます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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