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トー横や大久保公園に異変? 師走の「歌舞伎町」を"元ホス狂"の女性と歩く
歌舞伎町のホスト看板の前に立つ希咲さん(富岡悠希撮影)

トー横や大久保公園に異変? 師走の「歌舞伎町」を"元ホス狂"の女性と歩く

「不夜城」とも称される新宿・歌舞伎町は2023年、売春客待ち女性や多額の売掛を背負わせる悪質ホストで注目を集め続けた。10年ほど前からこの町に足を運び、性的搾取や「ホス狂」を経験してきた女性(23)と師走の歓楽街を歩き、路上から見える社会問題を共に考えた。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●スカウトからしょっちゅう声をかけられる

JR新宿駅東口から約5分のディスカウントストア前で落ち合ったのは、希咲未來(きさらぎ・みらい)さん。両親から虐待を受けて14歳で家出し、ストリートチルドレンとして生きた過去を持つ。現在は、「顔出ししないアクティビスト」として、政策提言や取材対応をしている。

12月22日、金曜夕刻の歌舞伎町には警察官が大挙していた。年末年始の特別警戒の一環として、警視総監が巡視を始める少し前のタイミングだった。

画像タイトル 師走の歌舞伎町には警察官が集まった(富岡悠希撮影)

――制服姿の警察官が目立ちます。

希咲さん:こんなとき、制服姿の男性がずらりと並びますよね。すごい威圧的なのに、「困ったことがあったら相談して」と同時に呼びかけるのに違和感を持ちます。

新宿駅から5分歩くだけで、スカウトの男性を10人ほど目撃しました。客引き禁止条例があるけど、まったく守られていません。私自身も、しょっちゅう声を掛けられます。

スカウトは今、女性に「(コーヒーチェーンの)スタバのLINEギフトをあげるよ!」「ペイペイいらない?」と声をかけています。そこから個別のやり取りを始めて、ホストクラブなどに連れ込みます。

スカウトは「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)との関係を指摘されています。形だけの巡視ではなく、こちらの対策をしてほしいです。

――吉住健一新宿区長は12月19日、「歌舞伎町には自分のお小遣いで遊べない人は絶対に来ないこと。歌舞伎町の危うさ、安全なところの区別がつかない方には歌舞伎町に来ないでいただきたい」などと訴えました。

希咲さん:家出をした14歳の私が歌舞伎町に来たのも、性売買でお金を稼ぐためでした。同じように、ここに来る子どもたちは、親からお小遣いをもらえていません。「危うさ」をわかっていて、怖い街だと知っているけど、それでもやって来る。

また、子どもたちがやっている「パパ活」でもらうお金も、「お小遣い」「お手当」と呼ばれます。区長が「お小遣い」という言葉を使ったのも、残念でした。

●トー横キッズの「排除アート」が置かれていた

歌舞伎町を北上して、東急歌舞伎町タワー前の「シネシティ広場」に向かう。たむろする「トー横キッズ」が薬を大量摂取する「オーバードーズ」(OD)をおこない、今年は特に話題となった。警視庁は8回も一斉補導を実施し、127人が補導されている。

しかし、訪問時には、キッズたちの姿は広場になかった。彼らの「指定席」には、代わりに大きな青いビニールシートで覆われた資材があった。

画像タイトル シネシティ広場を眺める希咲さん(富岡悠希撮影)

――いつも目にするキッズたちの姿が今日はないです。

希咲さん:このビニールシートに包まれた資材、明らかにそこに置かなくてもいいですね。広場は大きいのに、あえてトー横キッズたちの居場所を奪っている。

新宿区は昨年11月、「ここは、公共の場所です。荷物置き場ではありません」との「警告」を赤いコーンに貼っていました。その効果がなかったからでしょうか。

各地で凸凹した突起のあるオブジェや、仕切りのあるベンチが増えています。ホームレスが滞在できないようにする目的があるとされ、「排除アート」や「排除ベンチ」と呼ばれます。

私にはこの資材がキッズに向けた「排除アート」に見えます。

――ネットニュースによると、新宿区はキッズを「締め出す意図ではない」という見解を示しているとのことです。

希咲さん:子どもたちは、そう感じないですよ。社会から排除されたと捉えてしまう。

むしろ、キッズたちが利用できる、安心安全なテントでも立ててほしい。ODとかは注意せざるを得ないけど、基本的には何もいわない民間支援団体の大人が黙って一緒にいる。彼らからコンタクトがあったら、「私たちで良ければ話を聞くよ」というスタンスで待ちます。

私も施設に保護されたことがありますが、窮屈すぎてダメでした。保護と野放しの中間ぐらいのアプローチの仕方がいい。トー横キッズのような子どもの場合だと、親もしんどいことがある。保護者が入院したときなどに使える、子ども向けの「ショートステイ事業」などを転用していくことも考えられます。

●大久保公園から女性はいなくなったわけではない

さらに北に足を向けると大久保公園に出る。秋口には、売春目的の女性がずらりと並んでいたが、この日は皆無。警察の取り締まり強化が効果を上げたかに見えるが、希咲さんは異なる見解を示す。

画像タイトル 大久保公園周辺(富岡悠希撮影)

――今日は、売春目的の女性の姿がないです。

希咲さん:周辺に散らばり、見えなくなっているだけ。女性が、いなくなったわけではありません。今の公園周辺は、冷やかしや「社会見学」と言ってやってくる男性の姿が目立ちます。

そもそも、ここで起きていることを女性の「売春」問題という文脈だけで捉えてほしくない。男性の「買春」こそ問題なのです。

私は10代の一時期、履歴書に書ける学歴がないどころか、身分証もなかった。他にできる仕事がなく、生きるために性売買をしていた。それ以外の選択肢があったら、そうしたけど仕方がなかった。

当時の苦しさを振り返ると、体験してきた性売買は「ペイレイプ」(pay-rape)という表現が一番当てはまります。「お金を払ったレイプ」です。男性が言う「俺らは女性を救っている」「彼女は望んでやっている」という意見は受け入れられません。

●「ホス狂」時代を振り返る

希咲さんの重い言葉をかみしめつつ、陽が落ちてきた街を歩き、ホストクラブが密集するエリアに向かう。18、19歳の2年間、彼女は、男性ホストSにハマっていた。いわゆる「ホス狂」として、少なく見積もって500万円以上も貢いだ。

――今秋以降、悪質ホスト問題は国会でも取り上げられるなど大きな注目を集めました。

希咲さん:当時、私は「ホストが居場所だ」と言っていました。本当ならば、ホストじゃない居場所がなければいけないのに。

「ホス狂」だったころ、管理売春をさせられました。売春してホストクラブに行くと、ホストや内勤が「お帰り」と出迎えてくれる。今ではおかしいとわかるのですが、当時は、その言葉が支えとなっていた。ホスト以外との社会的な関係性の貧困に陥っていたのです。

――最近は、ホスト被害について発信されています。

希咲さん:この前、私の報道を見た元担当ホストが「悪質ホスト商法してないし被害者出してないんだけど」「被害妄想ハンパない子だなー」とX(旧ツイッター)に書き込んでいました。

民法が改正され18歳が成人になったのは、2022年4月から。4、5年前に18、19歳だった私は「未成年」なのに、ホストに契約書を書かされました。そもそも私が成人だったとしても、管理売春させるのは違法です。

これだけ報道されても、彼はまったく罪の認識がないのに驚きます。

●欲望丸出しの宣伝文句が踊る街

希咲さんは、民間支援団体とつながり、ホストの元を離れることができた。こうした経験から、彼女は東京都や新宿区が女性支援団体の支援に力を入れることを来年への希望とした。

陽が落ち切ったあと、再度、歌舞伎町を1人で歩く。ホストクラブ街はネオンが点灯し、人通りも増えていた。老舗ホストクラブの入口では、コート姿の男性がブラシ3本を駆使し、入念に掃除をしていた。

シネシティ広場では音楽イベントが開かれ賑わいを見せていたが、大久保公園周辺は夕刻と変わらぬ様子のままだ。

大通りに出ると、ホストクラブのラッピングバスが2台。「2023年度売上 1億4200万突破!」「伝説、復活。」。欲望丸出しの宣伝文句が踊っていた。

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