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「かくれんぼドッキリ」は幼稚園児への虐待にあたるか? BPOで議論
TBS(yu_photo / PIXTA)

「かくれんぼドッキリ」は幼稚園児への虐待にあたるか? BPOで議論

TBSのバラエティー『水曜日のダウンタウン』で、幼稚園児を相手にした「かくれんぼドッキリ企画」が放送倫理・番組向上機構(BPO)で議論されている。

4月25日のBPO青少年委員会で議論の対象となったのは、『幼稚園でのかくれんぼ 隠れた友達が全く見つからず 見つかるのは見ず知らずの子供ばかりだったら幼稚園児でもさすがに恐怖感じる説』(3月29日放送回)という企画。

隠れた園児らが見知らぬ子どもに入れ替わり、「鬼役」の5〜6歳の園児が困惑するという内容だった。

視聴者からは「仕掛けられた子どもの表情はとても見ていられなかった。心に傷をつけてしまったかもしれない」などの意見がBPOに寄せられたという。

委員らは、鬼役の園児が不安を覚えたようだと指摘。先生の指示によって、だますことを強制された友だちの園児にも「非常に痛々しく思う」とする。

それを踏まえて、番組が保護者や幼稚園から協力をとりつけた経緯などについて、次回の委員会で「討論」を続けることを決めた。

たしかに、SNSでも番組への批判は見受けられる。「女の子は、違う子だった時に真顔…というか蒼白に近いような顔をしていたようにも見えた」などの感想や、トラウマになりかねないという指摘がTwitterに相次いだ。

そもそも「園児に恐怖を感じさせる」ことを当然の前提としたタイトルだ。こうした企画内容をおこなったことが、園児への「虐待」にあたる可能性はあるのだろうか。保育教諭の資格をもち、幼稚園や保育園の問題に詳しい木元有香弁護士に聞いた。(解説は記事を公開した2023年5月23日時点の内容です)

●児童虐待の4分類のうち「心理的虐待」にあたりえるかもしれない

——今回の企画をどのように受けとめていますか。放送された内容は、園児への「虐待」にあたりえるのでしょうか

番組について、私自身は予告のダイジェストしか拝見しておりませんし、撮影の状況は不明です。あくまで、かくれんぼ開始後に隠れる子が見ず知らずの子に入れ替わったことにより、園児が恐怖を感じる状況が生じ、心に傷をつけてしまったかもしれない、という事案だという前提でお話しします。

この場合、鬼役の園児に恐怖を感じさせることが程度によっては「著しい心理的外傷を与える」ことにあたる可能性はあると考えます。

「著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」は、児童虐待防止法や児童福祉法が定義する4種類の「虐待」のうちのいわゆる「心理的虐待」に該当します。

(残りの3つは、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト)

児童虐待防止法は、「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」と定めているため、番組企画の実行者らや撮影を許可した保護者らの行為は、児童虐待防止法で禁止されている「虐待」に該当する可能性があります。

ただ、撮影を許可した経緯、実際の撮影の態様や園児が受けた恐怖の程度等によっても結論は左右されると考えられます。

●仮に鬼役の子に「演出」があったとしても

——虐待にあたらない場合だとしても、番組に問題はないのでしょうか

「虐待にあたらない場合」は複数考えうると思いますが、このうち、たとえば、(1)番組企画について事前に園児に対して説明がなされており、恐怖を感じたように見えた反応が実は演技であった場合と、(2)番組企画は演出のない事実で、鬼役の園児は恐怖を感じたが、「著しい心理的外傷」を受けるほどではなかった場合とを考えてみます。

(1)の場合は虐待に該当する可能性はあまりないように考えます。ただ、この場合であっても、園児の子役の年齢を考慮すれば、事前の説明を十分に理解できていない可能性や事前の説明にもかかわらず恐怖を感じる可能性があり、撮影に際して十分な配慮がなされるべきだと思います。

(2)の場合、結果として虐待とまでは評価されないとしても、心理的外傷を与える可能性があったことを考慮すると、鬼役の園児に対する適切な行為であったとはいいがたいように思います。

いずれの場合においても、保護者や幼稚園が、番組企画の実行者らからどのような説明を受けて撮影について許可を出したのかも重要です。幼稚園は、「幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする」(学校教育法22条)施設です。

幼児の健全育成という観点から、番組企画の実行者らから、事前に企画内容や撮影に際しての配慮について十分かつ正確な説明を受けていたのか、その説明内容に沿った撮影が行われたのか、によっては幼稚園が許可を出したことが問題となりうると考えます。

プロフィール

木元 有香
木元 有香(きもと ゆか)弁護士 鳥飼総合法律事務所
保育教諭の資格を持つ弁護士。保育所、幼稚園、認定こども園などの未就学児の施設を担当し、施設の設置者、運営者(法人、理事長、施設長等)や、施設で働く職員の方々のお悩みを解決してきた。著書に、「幼稚園・保育所・認定こども園のための法律ガイド」、「保育現場における困りごと相談ハンドブックー保育士・保育教諭のお悩み解決のために―」、「お答えします!マンガでわかる 保育士のための法律相談」、編著に、「事例から理解する 保育施設の個人情報取り扱いガイドブック」、その他、共著多数。

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