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子どもの自殺者「過去最多500人超」の衝撃、省庁の「原因分析」いまだに甘く
画像はイメージです(Ushico/PIXTA)

子どもの自殺者「過去最多500人超」の衝撃、省庁の「原因分析」いまだに甘く

厚生労働省はこのほど自殺者数(確定値)を発表した。2022年の1年間で自殺した人は2万1881人、前年から874人(4.2%)増加した。このうち児童・生徒は514人で、警察庁の統計開始以降、500人を超えるのは初めて。

児童・生徒の自殺対策をめぐっては、厚労省や文科省が協力して対策をとっているが、必ずしも効果的とは言えない状況だ。実態の把握もまだまだ不十分。そのような中、今年4月から、「こども家庭庁」が鳴り物入りで発足した。(ライター・渋井哲也)

●「何があったのか?」という分析が甘い

繰り返しになるが、2022年の自殺者数(確定値・3月14日公表)によると、児童・生徒は514人で過去最多だ。このうち、小学生は17人(男子12人、女子5人)、中学生は143人(男子73人、女子69人)、高校生は354人(男子206人、146人)だった。

児童・生徒たちの自殺の「原因・動機」(4つまで計上のため複数回答)は、「学校問題」は280人(小学生8人、中学生84人、高校生188人)で54.4%。「健康問題」は129人(小学生3人、中学生25人、高校生101人)で25%。「家庭問題」は114人(小学生4人、中学生43人、高校生67人)で22.1%。

厚労省・自殺対策推進室は、取材に対して「なぜ児童・生徒の自殺者数が過去最多になったのか、十分な分析をしていません。厚労省としても、児童・生徒の自殺が多いことは問題視しています」と回答する。

画像タイトル 厚労省の資料より

NPO法人の代表としても、自殺予防教育のほか、グリーフサポート(遺族支援)をしている中央大学人文科学研究所の高橋聡美・客員研究員はこう指摘する。

「2016年に自殺対策基本法が改正され、市町村ごとに自殺対策を考えなければならなくなりました。(警察庁の『自殺統計原票』をもとに数値化した)『自殺実態プロファイル』が国から下りてきて、一般論としては参考にはなります。

しかし、プロファイルにこだわりすぎると、対策が見えなくなります。地域に根ざした細やかなヒアリングが必要です。そこから積み重ねたところから教訓を積み重ねるしかない」(高橋氏)

2020年9月、芸能人の自殺報道が相次いだことを受けて、コロナ禍に若者の自殺を誘発しかねないとして、厚労省と厚労大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」は、過度な報道を控えるようにメディア関係者に求めている。だが、高橋氏はこう指摘する。

「報道はきっかけになるかもしれません。しかし、その前に『何があったのか?』という分析が甘いと思います。一人ひとりがなぜ自殺をしたのか、細かくみていく作業をする必要があります。どのような学校で、どの学年の人が、どのような悩みで亡くなっているのかを分析できていません」(高橋氏)

●松本俊彦氏は「市販薬依存」を指摘する

10代の自殺の一因として、薬物依存、特に市販薬の依存との関連を推測するのは、精神科医の松本俊彦氏だ。

全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022年9〜10月調査、2468人)によると、10代の薬物依存患者(46人)の「主たる薬物」の65.2%が、風邪薬や鎮痛剤、咳止め薬などの「市販薬」だった。2014年調査では「市販薬」はゼロだったが、その後、少しずつ増えていった。

「2014年の調査では、10代の患者が依存していた『危険ドラッグ』が48%を占めていました。男性が主で、高校中退などドロップアウトをした人が中心でした。しかし、近年増えてきている『市販薬』に依存する患者は女性が多く、中退などしていません。通常の生活を送っている非行歴のない『良い子』が服用しています」(松本氏)

現在は廃止されている自殺予防総合対策センターが過去におこなった「心理学的剖検」(自殺既遂者の遺族から聞き取り)では、自殺時に向精神薬を過量摂取していた傾向が強いことが示されていた。

しかし、近年は、特に若年層の市販薬の乱用、過量摂取(オーバードーズ)が目立つようだ。新宿・歌舞伎町の「トー横」などに集まる若年層にも、同じような問題が起きている。

「精神科につながっている子たちは向精神薬の依存ですが、そうではない子たちは、覚せい剤でも大麻でもなく、市販薬の依存です。親にも学校の先生にも相談せずに、自分のお小遣いで薬局で簡単に買っています。アルコール度数が高いチューハイと市販薬を過量摂取することで酩酊状態になります。市販薬依存と10代の自殺者の増加との関係を考えていく必要があります」(松本氏)

画像タイトル 松本氏作成

●高橋聡美氏は「教職員の精神疾患」を一因にあげる

文科省でも、新しい「自殺総合対策大綱」(2022年10月14日閣議決定)で示されたように各省庁と連携をしながら、自殺予防教育をしている。

「自殺対策に限らないですが、心の危機が訪れた際、ストレスの対処法をどのように学んでいくのかは従来からしています。また、相談体制の整備もしています。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置もしています。ICTの活用なども組み合わせながら、ストレスや心のSOSを発信できるようにしています。またそうした発信を受け取れる体制づくりも進めています」(文科省・児童生徒課)

永岡桂子・文科大臣は今年2月28日、警察統計の速報値を受けて「本当に過去最多となってしまったことについては憂慮すべき状況と考え、大変重く受け止めている」と述べた。

そのうえで、加藤勝信・厚労大臣や小倉将信・こども政策担当大臣とともに「悩みや気持ちをきかせてください〜若い世代のみなさんへ〜」を発表した。

先ほどの高橋氏は、教職員の劣悪な労働環境も一因ではないかとみている。

「教職員たちにカウンセリング・マインドがあればいいと言われ、マルチタスクを求めすぎです。教職員の精神疾患が増加し、病休や辞める人が増えています。先生たちが多忙なことへの理解が必要です。支える人たちが支えきれない。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置がまだ不十分です。もっと身近に聞いてくれる専門家を配置すべきです。進路に関連した自殺が多いというならば、キャリアカウンセラーを置けばいいと思います」(高橋氏)

●こども家庭庁はどう動く

文科省では毎年、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の中で、児童・生徒の自殺数を公表している。

学校からの報告を集計したものだが、2021年度は368人(小学生8人、中学生109人、高校生251人)。過去最多だった415人(小学生7人、中学生103人、高校生305人)よりも減少したが、過去2番目に多い。

この調査では「自殺した児童生徒が置かれていた状況」(複数回答)も集計している。それによると、最も多いのが「不明」で、213人(小学生7人、中学生69人、高校生137人)で57.9%になっている。なぜ「不明」がこれほど多いのだろうか。

「義務ではないものの、学校が把握できたものをあげるようにお願いしていますが、遺族に配慮していることがあります。『子供の自殺が起きたときの背景調査の指針』に基づく調査をしていくことになりますが、事前に遺族への説明をお願いしています。もしそれができていないなら、こちらから確認させていくことはありました」(文科省・児童生徒課)

そんな中、2022年12月、教職員向けの生徒指導の基本書「生徒指導提要」が改訂された。「教職員等による不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになる場合もある」という文言が入ったのだ。

また、文科省の「問題行動調査」では、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の選択肢に「体罰・不適切な指導」を入れる予定だ。ちなみに、2005年度までは「教師の叱責」という項目があったが、2006年度からなくなっていた。

これまで捕捉されなかったものが入ることが予想され、児童・生徒の自殺者数は、さらに増える可能性がある。

なお、こども家庭庁の「こどもの自殺対策」を担当するのは、こども支援局の総務課だ。「どのような役割を担うのかは、まだ確定的なことは言えない」(こども家庭庁準備室)ということだった。

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