真っ赤なソールの靴といえば、「クリスチャン・ルブタン」(以下ルブタン)のハイヒールを想起する人も多いのではないだろうか。高級ブランド靴としても知られ、値段は1足10万円を超える。
ルブタンがこの「レッドソール」とも言われるソールの赤色を「色彩商標」(色彩のみからなる商標)として商標登録を求めた裁判で、知財高裁は1月31日、ルブタンの請求を退けた。
色彩商標は2014年の商標法改正によって新たに登録の対象となった。これまでにセブンイレブン・ジャパンが看板などで使用している「白地にオレンジ・緑・赤」の色彩と、トンボ鉛筆が消しゴムカバーで使用している「青・白・黒」の色彩などが認められている。
なぜ、「レッドソール」の商標登録は、認められなかったのだろうか。
●裁判所はどう判断した?
ルブタンは2015年4月、特許庁に商標登録出願をしたが拒絶された。これを不服として審判請求をしたが、2022年5月にも「審判の請求は成り立たない」との審決が出されていた。それを受け、知財高裁に対して審決の取り消しを求める訴訟を起こしていたというのがこれまでの経緯だ。
「レッドソール」は表示位置(靴底)は特定されているものの、文字や図形と組み合わせたものではなく、輪郭のない単一の赤色のみで構成されている。さらに、赤色は色彩としてはありふれたものであり、靴底を赤色にするのは、多くの事業者で使用されているデザイン手法でもある。
そこで、裁判所は以下を満たした場合に、商標登録を受けることができるとした。
・「レッドソール」を使用することで、ルブタンの商品であることが需要者の間に広く認識されているか
・「レッドソール」を商品に使用した場合に、他社商品と区別できるか
・「レッドソール」の独占使用を認めることは公益上許容されるか
ルブタン側は、ブランドの店舗がある東京都、大阪府、愛知県在住でファッションアイテムなどを購入し、ハイヒールを履く習慣のある女性を対象に、「レッドソール」を見せて想起するブランドを尋ねるネット調査を実施した。自由回答と選択式回答を補正した結果、約50%がルブタンを認識しており、「ブランド認知度は極めて高い」とした。
色についても「一般人は100万色を識別でき、似たような色彩が使用されても、識別可能だ」などと主張していた。
しかし、裁判所は、ブランド店舗がある在住者を対象とした調査でもブランド認知できるのは50%に満たない程度で、「広く認識されるに至っているとまでは認められない」と判断した。
「レッドソール」の靴は多くの事業者で製造、販売されており、自由に使用が認められていた赤色について、第三者による使用を不当に制限することになるので、「公益上も支障がある」などとして、請求を棄却した。
●弁護士「安易に認めると特定の色彩を特定の商品に使用できなくなる可能性」
商標の問題に詳しい冨宅恵弁護士によると、そもそも商標というのは、特定の事業者の出所を表示するもので、商標権は、特定の事業者が特定の出所表示の使用を独占することができる権利のこと。
色彩のみからなる商標の登録を認めるということは、特定の色彩を特定の事業者にのみ、出所表示として使用することを認めることを意味する。そのため、認定のハードルは高いということだ。
「商標というのは、商品に直接付して使用されることがありますので、色彩のみからなる商標の登録を安易に認めると、特定の色彩を特定の商品に使用することができなくなる可能性があるわけです。これが、今回の判決でいうところの『公益上の支障』です」(冨宅弁護士)
色彩のみからなる商標が認められたのは2014年になってからだが、裁判では以前から扱われてきた問題だという。
「色彩のみからなる出所表示が保護されるかという問題は、裁判所では、昭和40年には取り上げられていました。 商標登録していなくても、不正競争防止法がありますので、他人の周知な出所表示を使用して、自他の区別ができないおそれがある場合には不正競争行為となり、差止めや損害賠償の対象になります。 そして、裁判所では、古くから色彩のみからなるものを、不正競争防止法上の出所表示として認めてきたのですが、一貫して、単色の色彩からなるものは出所表示として認めないというスタンスをとってきました。 ちなみに、1997年の大阪高裁の判決では、その理由を、商品には色彩とのマッチングというものがあり、ある商品に採用できる色彩には制限があるから、最後に参入する業者は、選択する色彩がなくなるからだと言っています」(冨宅弁護士)
今後、単一の色による商標登録が認められることはあるのだろうか。冨宅弁護士は「今後も商標の登録が認められることはないと思う」と話す。
「これからも、裁判所や特許庁は、この考え方を変えることはないと思いますので、商品の特定部位に単一の色彩を用いることを前提にした商標の登録が認められることはなく、不正競争防止法によっても保護されることはないと思います」(冨宅弁護士)
ただ、複数の色を組み合わせたり、文字や図形があったりする場合には、認められる可能性も出てくるようだ。
「たとえば、色彩を三色にストライプにする(特定の国の国旗と同一のものはダメです)とか、ロゴを付した場合には全く話が変わり、商標登録が認められるでしょう。商標登録していなくても一定の要件が満たされれば不正競争防止法によって保護されることになります」(冨宅弁護士)