新型コロナで欠席した授業について救済措置が受けられず留年したのは不当だとして、東京大理科3類2年生の学生が大学に取り消しを求めていた訴訟で、東京高裁(渡部勇次裁判長)は1月26日、東京地裁に差し戻す判決をした。地裁は昨年9月、司法審査の対象ではないと却下して"門前払い"したが、高裁はこれを取り消した。提訴から約5カ月でようやく裁判が動き出す見通しとなった。
原告の杉浦蒼大(そうた)さん(20)と代理人の井上清成弁護士らが1月30日、都内で会見し、井上弁護士は「弁論も開かず拙速な却下をして5カ月も無駄にした。年度末までに迅速な進行をしてほしい」と話した。
また、杉浦さんが問題を提起した会見後に東京大がホームページで公開した抗議文で「重篤だったとは認めがたい」などと記したことについて侮辱罪で刑事告訴したことも明らかにした。杉浦さんは「『抗議をしたら制裁を受ける』ことがまかり通ってはいけない。学生の立場に立った大学教育のために議論が進むことを望んでいます」と訴えた。
●「裁判所は3月までの決着見据えている」
杉浦さんは降年処分を受け、現在は1年生。医学部選択をするはずだったが、後期で取る講義はないため、論文を書いたり、病院でボランティアをしたりして暮らしてきたという。「同級生たちは授業で忙しそうです。一刻も早く大学に戻って学びたい」
昨年8月に東大の処分取り消しを求めた提訴から約1カ月後、東京地裁(岡田幸人裁判長)は「進学選択不可(留年)処分」などは行政事件訴訟法上の「行政処分」に当たらないため、訴訟の要件を満たさないとして却下する判決を出した。
原告側が控訴し、高裁では一転、差し戻しとなった。手続き上、東大側は不服なら上告できるが、高裁は双方に上訴権を放棄するよう勧告もしているという。
井上弁護士は、年度末までに結論を出すことを見据えているとし「現時点でまだ東大は放棄の報告をしていないようです。迅速な手続きに協力してほしい」と強調。また「単位の不認定で裁判はできないと考える学生がほとんどで、実務上も定着していた。高裁は、過去の判例(富山大事件など)をきちんと検討し、前向きに判断してくれた」と評価した。
●告訴断念させようと? 警察が直電
杉浦さんが、留年に加えて心を痛めたのは大学が公表した抗議文だった。2週間ほどで大学側は削除したが、SNSなどで拡散され「詐病だ」などの誹謗中傷にも遭った。名誉毀損で損害賠償請求もしているが刑事告訴までしたのは、大学に変わってほしいからだ。
「学生と対話するという姿勢について、改めて考えてほしい。コロナだけでなく疾患を持つ学生の対応にも通じます。僕が矢面に立つことで、議論が進むことを望んでいます」(杉浦さん)
誰が主体的に文章を作ったかなど特定できないため、「被告訴人は不詳」とした。警視庁本富士署に受理されたのは1月27日だが、道のりは平坦ではなかった。25日に担当警察官から杉浦さんの携帯電話に直接「何のメリットがあって、こんなことをやっているんだ」と電話があった。井上弁護士は即座に署長あてに「逸脱した言動だ」などと抗議する要求書を提出したという。