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「子ども苦手」を自称する私がベビーカーと半日歩いて見えた、社会のバリア
ベビーカーでバスに乗る記者と友人(千葉県流山市)

「子ども苦手」を自称する私がベビーカーと半日歩いて見えた、社会のバリア

元バレー選手大山加奈さんの投稿がきっかけで、ベビーカーの公共交通利用が話題となっている。ネット上には共感する声がある一方で、バスの乗り方を熟知すべきだとする人や、運転手に同情する人もいた。

そもそもベビーカーを使ったこともないし、独身で子どもが苦手な記者(40歳)には、いまいちピンとこない。でも、みんなが意見を言いたくなるということは、なんらかの課題があることは確からしい。

10カ月の子どもを持つ友人とベビーカーと共に、千葉県流山市から東京都内までバスと電車を乗り継いで行ってみた。

●私にとっての一歩でも、彼女は違った

午前10時30分。マンション前に駅行きのバスが到着した。友人はバスをたまにしか使わないので、運転手に「前からですか? 後ろですか?」と声を掛けると、どちらでもいいと返ってきた。早速乗ろうとすると、友人は目の前のバス方向ではなく、なぜかベビーカーをひいて横に動いた。

「ん?どこ行くの?」

バスのドア前の縁石を避けるためだった。私ならひとまたぎで済む障壁も、ベビーカーにとっては大きいらしい。彼女は慎重に持ち上げて、ステップに乗せた。

車内は高齢者や車椅子の人でほぼ満席で移動しづらい。少し空いてからベビーカー固定用の座席に座る。数分で終点の駅前に到着すると、交代の乗務員(中年男性)が待ち構えていた。介助者として私がいたこともあってか、彼女がベビーカーを降ろすのをじっと見ていたが、手を貸すことはなかった。

午前11時。つくばエクスプレスで北千住駅へ。友人は数年ぶりに来たといい「懐かしい」「服買いたいなー」と楽しそうだ。目的の洋服屋を目指して、改札から一つ下の階へ移動しようとすると、エレベーターが工事中だった。

「抱っこして、たたんで降りよう」。エスカレーターはだめなのか。「落ちたりしたら危ないじゃん」と言われて納得した。ベビーカーの取っ手には、何やら大きなトートバッグが掛かっている。重い…一人だったら大変だ。「助けてくれる人は、たまーにいる」そうだ。

ベビーカーをたたんで階段を降りる友人(東京・北千住駅)

●エレベーターで接触、無言の圧

午前11時半。買い物を終えて、ごはんを食べさせるために休憩室へ向かった。ベビーカーは私が担当。少し慣れてきたな、と思って進んでいると、エレベーターに乗り込む際、前にいた中年女性の足元にタイヤがぶつかってしまった。

「あ!ごめんなさい」

即座に謝ったが、眉間にしわを寄せた女性から、無言でじろりと厳しい目を向けられた。友人に報告すると「あー、結構先が見えないんだよね。ベビーカー批判で『突っ込んでくる』とかよく書かれてる」という。

私も若い時は、泣いている赤ちゃんや親子に「うるさいな」とあからさまに嫌な顔をしたことがある。表情や仕草だけでも、思っている以上に相手を傷つけるんだと分かった。漫然と押していた私が悪いのは確か。お互いの配慮があれば少しは状況が違ったかもしれない。

●ちょっとした一言にほろり

エレベーターの中では、おしゃぶりをなめている赤ちゃんを見て「おいしい?」と声を掛けてくれる高齢の女性がいた。階数ボタンの前に立って「何階ですか?」と聞いてくれる人もいた。ほんの一瞬の出来事でも、こんなに和むものなんだと思った。以前、骨折して松葉杖をついていた時、ドアを開けて待っててくれる人に感動したことを思い出した。

友人は言った。「服買うのもさ、子どものためだけじゃないんだよね。ラッピングされたのを見て、あーかわいいーって言うこの時間のおかげで、普段の大変な日々が吹っ飛ぶ癒やしみたいなもんよ」。大山さんも靴を買いに行きたかったのだと投稿していた。

私は子どもが苦手だと公言していたこともあって、いつしか友人たちは子どもの話をしなくなった。すっかり別の世界の人間のつもりでいたが、公共の場では空間を共有する者同士だ。ベビーカーを押してみたら、少し社会の見え方が変わった。私も少し変われそうだ。

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