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あの「マジックミラー号」の商標出願が話題、その背景に透ける「マジックミラーカー」の存在…ソフト・オン・デマンドの狙いは?
SODが入る東京都中野区のビル(2022年11月/弁護士ドットコムニュース)

あの「マジックミラー号」の商標出願が話題、その背景に透ける「マジックミラーカー」の存在…ソフト・オン・デマンドの狙いは?

成人動画業界で異色を放つ存在の「マジックミラー号」。ソフト・オン・デマンド(SOD)が1996年に作ったスタジオ車両だ。そんなマジックミラー号の文字商標が突如として出願されているとして、SNS上で話題になっている。

実はすでに、SODは別の3区分で約20年前に登録済みだ。SODの狙いはどこにあるのか。

●昨年は25周年を祝った

「AV史上最大の発明品」とSODが誇る「マジックミラー号」の文字が商標出願されているとして、10月にツイッター上で話題になった。

たしかに、商標の検索サイト「J-platpat」で調べると、10月17日付で39類(車両による輸送,自動車の貸与など)区分の出願が確認できる(商標出願2022-118686)。

ただ、SODはすでに「マジックミラー号」を別の3つの区分(09類、12類、41類)で2003年に出願し、翌年登録されている(商標登録第4746722号)。

別区分での出願の背景にあるのではないかとネット上で指摘されているのが、似た名前の「マジックミラーカー」の存在だ。

「マジックミラー号をパロディ化した軽トラックカスタムカー(マジックミラーカー)のレンタルサービス」(「MMカー」の公式サイトから)として、すでに事業をおこなっており、MMカー側は今年5月、「マジックミラーカー」を39類で商標出願している。

この動きを受けて、SODが自社のマジックミラー号を守るため、同じ区分で改めて出願したのではないかと考えられているわけだ。

弁護士ドットコムニュースは、商標出願の理由や狙いについて取材を申し込んだが、ソフト・オン・デマンドグループは11月3日、回答差し控えとした。

知的財産権にくわしい岩永利彦弁護士にSODの狙いはどのように考えられるのか聞いた。

●マジックミラーカーを見た人が「SOD」のものだと勘違いしてしまう可能性も

——「マジックミラーカー」の商標が39類で出願され、登録が認められた場合、SOD側にはどのような影響が生じるでしょうか。

まず、9類は一般的な機械器具(商品)のカテゴリーで、コンピューター用のソフトウェアもここに入ります。12類は乗り物(商品)で、陸海空すべてを含みます。41類は教育訓練関連(サービス)で、放送番組の制作なども含まれます。

今回の39類は輸送関連(サービス)のもので、12類と混同しそうになります。

しかし、12類は乗り物そのもの、つまりは、トヨタ自動車や今治造船などのメーカーが必要とするカテゴリーであるのに対し、39類は乗り物を用いたサービス、つまりヤマト運輸や商船三井などのサービス提供者が必要とするカテゴリーだという違いがあります。

SOD側にとって、39類のサービス、つまり輸送関連のサービスは重要なものではないとは思います。実際に事業として、おこなっているかどうかも怪しいと思います。

しかし、だからと言って、「マジックミラー号」と類似と言ってよい「マジックミラーカー」が登録されてしまうと、本家の「マジックミラー号」で類似のサービスをSOD側がやろうと思ってもやれなくなってしまう可能性が出てきます。

影響はそれだけではなく、一般の消費者は、「マジックミラーカー」の標章等を見て、「あ、あのSODがついにそういう商売も始めたか」と勘違いすると思います。いわゆる「出所の混同」の問題となります。

そのような問題を防ぐため、SOD側はあまり使用していないと思われる39類での出願を余儀なくされたのではないでしょうか。

●マジックミラーカーは拒絶通知をうけていた。その理由は3つ

ただ、「マジックミラーカー」の商標出願については、10月27日に「拒絶理由通知書」が出されています。

通知書によれば、拒絶理由は大きく3つあります。

1つ目は品質等表示の理由(商標法3条1項3号)です。これは要するに、「マジックミラーカー」というのは、マジックミラーを用いた自動車という品質などを説明しているだけに過ぎないから、識別標識としての商標にはそぐわないというものです。

2つ目と3つ目は、役務等の出所の混同(同法4条第1項第15号)と、他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標との理由(同法第4条第1項第19号)です。

簡単に言えば、SODの著名商標「マジックミラー号」と類似するので、出所の混同が生じるからダメであるし、さらに「マジックミラー号」にタダ乗りしているだろうからダメだとストレートに指摘されているものです。

——MMカー側はもはや「マジックミラーカー」を商標登録できないのでしょうか。

上記の3つの理由のうち、後半の2つは、結局「マジックミラー号」と類似しているという理由と言えますので、これらを回避するのは非常に難しいと思います。しかし、まだ単に拒絶理由を通知されただけの段階ですので、完全に白黒がついたわけではありません。

——SOD側には、39類での登録見込みはあるでしょうか。

すでに他の類での「マジックミラー号」の登録がありますから、39類での登録はさほど問題にはならないと思います。

ただし、登録できてもきちんと(継続して3年以上)使用しないと、今回の「マジックミラーカー」側から、不使用取消の審判請求(商標法50条)をくらう可能性も考えられるところです。

ですので、個人的には、使用を問題にしない「防護標章登録」(商標法64条以下)を並行して手続きしても良かったのではないかと思います。

防護標章として登録された場合、商標権と同様に、他人の使用を排除できますし(商標法67条)、損害賠償も請求できます。また、登録防護標章と同一の他人の商標の出願を阻むこともできます(商標法4条1項12号)。さらに、防護標章として登録されると、著名商標としてのお墨付きを国からもらったことになりますので、波及効果も絶大です。防護標章制度は、あまりメジャーではありませんが、使用を前提としない商域の存在する著名商標の保護にはもってこいの仕組みです。

登録には著名性が必要ですが、他の出願(「マジックミラーカー」)の拒絶理由中とは言え、特許庁自体が「マジックミラー号」の著名性を認めていますので、十分認められると思います。

プロフィール

岩永 利彦
岩永 利彦(いわなが としひこ)弁護士 岩永総合法律事務所
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。

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