英科学誌『ネイチャー』掲載の論文をめぐって、理化学研究所(理研)の調査委員会は、筆頭著者である小保方晴子研究ユニットリーダーの「研究不正」を認定した。それを受け、理研は小保方リーダーに論文の撤回を勧告した。
そこで気になるのが、共著者の存在だ。学術論文は、複数の研究者が協力して作り上げることが少なくない。もし、自分の担当部分はまじめにこなしたのに、他の著者が行った不正のおかげで論文撤回となったら、「とばっちり」を受けたともいえそうだ。
このような場合、他の著者たちは、研究不正を行った著者に対して、損害賠償を求めることができるのだろうか。小保方氏と同じ早稲田大学理工学部出身の三平聡史弁護士に聞いた。
●共著者にも責任がある
「仮に、次のようなケースを想定してみましょう。
(1)論文の著者のうちの1人が、研究不正を行った
(2)他の共著者は、自ら不正行為を行っていない
(3)他の共著者は、不正を見逃した
こうした場合、信用が傷ついたり、懲戒処分を受けたりといった『損害』が、不正を実行した本人だけではなく、共著者全員に発生することになります」
――元をたどれば、研究不正を行った人の責任なのではないか。
「もちろんその人の責任が最も大きいですね。とはいえ、『すべて1人の責任』とすることはできません。他の共著者も不正に気付き、阻止する機会があったはずだからです」
●権限が大きい人ほど、責任も重い
――それぞれの共著者が、どれぐらいの責任を負うべき?
「似たような事例が問題になった裁判で、裁判所は次のような考え方を示しています。
権限が大きい人ほど、不正を阻止できる可能性が大きい。したがって、権限が大きい人ほど、その『責任』(非難可能性)も重い。
一方で、権限が大きい、上の役職の人ほど、信用、名誉が傷付く程度、つまり『損害』も大きい。
この責任の大きさと損害の大きさは正比例する」
――そう考えると、どういう結論になる?
「共著者の『責任』と『損害』が正比例するなら、それぞれの共著者は『自分の責任に応じた損害を受けている』ということになります。
ひとりひとりの共著者が、相応の責任に応じた損害を受けているとすれば、他の共著者に損害賠償を請求することはできないということになります」
●損害賠償を請求できるケースもある
――著者同士の損害賠償請求はできないということだが、共著者が不正研究に気づくのが難しいケースもあるのでは?
「そうですね。たとえば研究不正をした人が『不正発覚を防ぐ工作』を行っていた場合は話が別です。
先ほどの考えを当てはめると、他の共著者に『不正防止をする機会』がなければ、責任(非難可能性)も発生しないということになります。
つまり、そうした場合なら、『研究不正をした人』が全責任を負うため、他の共著者が不正研究をした人に対して、自分が被った損害の賠償請求をすることができます」
三平弁護士はこのように結論付けていた。
なお、三平弁護士の事務所ページ(http://www.mc-law.jp/rodo/12612/)では、より詳細な説明がされている。