ジャーナリストの伊藤詩織さんが性暴力被害にあったとして起こした訴訟で、約332万円の損害賠償を命じた東京高裁の判決をうけて、元TBS記者のジャーナリスト・山口敬之さんは1月25日、都内で記者会見を開き「全体では大いに不満がある」として上告する考えを明らかにした。
一方、伊藤さんによる被害公表の一部が名誉毀損と認められたことには「高く評価」すると述べた。高裁判決は、伊藤さんがデートレイプドラッグの使用について言及した公表部分においてのみ、名誉毀損とプライバシー侵害を認定し、伊藤さんに55万円の支払いを命じた。
●山口さん「伊藤さんによるデタラメの流布を裁判所が認めた」
伊藤さんがおこなった記者会見などについて、山口さん側は名誉毀損だとして反訴していた。山口さんは会見の冒頭、判決文をまだ読んでいないことを前提として、このように語った。
「今回の判決につきまして、デートレイプドラッグなるものの主張をめぐって、伊藤さんの不法行為を認め、損害賠償を認めたことを高く評価します。
伊藤さんは日本のテレビ、ラジオにとどまらず、世界中のメディアで薬を盛られたなどと繰り返し発信していて、こうしたデタラメを世界中にばらまいたことについて、私は強い憤りをもっていました。
伊藤さんが事実でないことを事実であるかのように流布したことを裁判所が認めた事実は大きいと思います」
一方、本訴については「今回の判決には全体としておおいに不満がありますので、上告することとし、その準備に入っています」とした。
●控訴審の弁護活動がセカンドレイプにならぬように細心の注意払った
控訴審において、山口さんの代理人弁護士は一新された。1審で担当した弁護士が、伊藤さんに言及したブログ等の発信をめぐり、2021年3月、所属弁護士会から戒告の懲戒処分を発表されていた。
代理人の大西達夫弁護士は、今回のような事例において、加害者とされた男性側の弁護士の主張が「ややもするとセカンドレイプであると非難されるような反証活動がされることはこれまでの同種事案でも見掛けられるところ」であるとして、弁護団としても批判・非難を受けないように、細心の注意を払って弁護活動をおこなったと説明した。
●東京高裁判決概要
東京高裁(中山孝雄裁判長)は1月25日、1審・東京地裁判決(2019年12月18日)と同じく、「性行為の合意はなかった」として、山口さんに約332万円の支払いを命じた。1審の330万円から増額した。
一方、伊藤さんの申告によって名誉を傷つけられたとして、1億3000万円や謝罪広告を求めた山口さんの反訴も一部認め、伊藤さんに55万円の支払いを命じた。
1審では「公共性および公益目的がある」として棄却されていたが、中山裁判長は、デートレイプドラッグの使用に関する公表にのみ、真実性または真実相当性が認められず、名誉毀損とプライバシーの侵害が成立するとした。