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首をしめ、家族に金銭を要求する「未成年の息子」…家庭内暴力、どう対応したらいい?
最終的なゴールをどこに置くかが肝心だ(【IWJ】Image Works Japan / PIXTA)

首をしめ、家族に金銭を要求する「未成年の息子」…家庭内暴力、どう対応したらいい?

未成年の息子からの暴行、暴言、金銭の要求といった家庭内暴力に苦しんでいる場合、警察に被害届を出せば息子を逮捕してもらえるのでしょうか。そういった質問が弁護士ドットコムに寄せられています。

ある人は、18歳の息子からの家庭内暴力に悩んでいます。何度か警察に相談しましたが、「親子喧嘩では何もできない」と言われてしまったそうです。

この相談者は「1度逮捕されれば、住み込みでも探して家を出てく事を考えるだろう」と思っています。そのため、息子でも診断書を取得して被害届を出せば逮捕してもらえるのか不安を抱えているようです。

また「18歳の息子に首を絞められたり金銭を要求されたりしている」という知人を助け出したいと考えている人からの相談もありました。この知人女性は「息子が怖くて仕方ない」と話しているものの、息子を見放すことで「保護責任者遺棄罪に問われる可能性があるのではないか」と心配しています。

未成年の息子からの家庭内暴力から逃れるためには、どのように対処すればいいのでしょうか。久保田仁弁護士に聞きました。

●警察が「介入が必要」と判断するタイミングは

——「親子喧嘩に警察は介入しない」と言われたそうです。

「法は家庭に入らず」というローマ法時代からの法諺(ほうげん)があり、日本の刑法等にも、この格言を反映した規定があります(親族相盗例等)。

かつては、警察が捜査を進めるにあたっても、このような考え方が強く根底にあり、家庭内の事件に関しては、警察は介入を控える傾向がありました。

しかし、DV事案や家庭内暴力の増加や、それら事件の結果が重大なものになることも多いという状況から、警察も事案によっては家庭内の事件にも積極的に介入するようになってきています。

とりわけ、昨今、子どもの虐待に関して重大事件が立て続けに発生した影響で、子ども(特に乳幼児)への虐待事案に関しては、警察は積極的に介入する傾向があります。

それでも、警察が家庭内への介入を控える傾向は残っていますが、警察が介入するかどうかは、その事案を総合的にみて、緊急性や重大性が高く、家庭内の事案でも介入すべきと判断するかどうかということになります。

相談者のケースでも、子どもからの暴力が続き、警察に何度も相談したり、怪我をした診断書を提出したり、正式に被害届を出したりしていれば、どこかの段階で、警察が介入が必要と判断することになるのではないかと思います。

●必ずしも「身柄拘束するとは限らない」

——警察が介入するとして、どのような介入の仕方になるのでしょうか

必ずしも、最初の段階で逮捕・勾留して身柄拘束するとは限りません。警察が被疑者を逮捕・勾留するには、逮捕勾留することの必要性と相当性が必要です(正確には他にも要件が必要ですが、ここでは簡単な説明にとどめます)。

重大事件でなければ、最初は任意で事情を聴くなどしてから、事案の軽重や本人の言動をみて、その後身柄を拘束して捜査をするかどうか方針を決めることになります。

相談者さんの場合も、警察が介入するなどしても、最初は本人から事情を聴き、反省を促すなどして、それでも暴力が止まない(もしくはその恐れが大きい)場合には逮捕することもありうるかと思います。

逆に、警察から事情聴取を受けた段階で、本人が反省し、事の重大性に気づき、暴力を控えるようになれば、警察としても強いて身柄を拘束しようとまでは思わないかもしれません。そのあたりはケースバイケースと言わざるを得ません。

●子どもが暴力をふるう理由がどこにあるのか?

——相談者は逮捕によって子どもが自立し、物理的な距離をとれると考えているようです。

相談者さんの目的が、子どもを逮捕などしてもらうことで、子どもと距離をおくきっかけとしたいということだけであれば、相談する機関は警察だけでもいいでしょう。

しかし「子どもに最終的に立ち直ってほしい」ということが目的なのであれば、子どもが暴力をふるう原因がどこにあるのかを考え、それらの解決に必要な機関への相談もするべきではないかと思います。

子どもさんからの暴力に悩んでいるお母さんに、このような指摘をすることは気が引けますが、親からの通報によって警察に逮捕されたということは、子どもにとっては非常にショックな出来事です。

留置場や鑑別所に身柄拘束されること自体かなりショックな体験でしょうし、それが親からの通報によるとなると、ショックはより大きいのではないかと思います。

それは、今後、親子関係の再統合を目指す場合には障害になるかもしれませんし、逮捕されたということは子どもにとっては前歴として残ります。

よって、それを一つの便利な手段のように軽く考えてはいけない事柄です。

警察は逮捕するかどうかについては、被害者であるお母さんの意思を尊重しますので、相談すると必ず逮捕されると思って警察への相談自体をためらう必要はありませんし、警察への相談自体は必ずするべきと思います。

また、今回の事案がどの程度の事案なのかは質問文からは分からないのですが、暴力の程度の進行具合によっては、逮捕勾留をためらっている場合ではなく、一刻も早く警察の介入が必要な場合もあります。

しかし、時間が許すのであれば、警察がどのように介入するかどうかも、以下のような関係機関と協議したうえで決めるべきと思います。

今回の事案の子どもは18歳になっているので、原則として児童相談所の保護の対象外ですが、仮に18歳未満の子どもであれば、児童相談所への相談がまず考えられます。県や市町村の子ども担当部署には相談窓口もあります。

子どもの問題行動の根底に、発達障害など精神的な面での問題があるのであれば、それらを専門とした医療機関への受診・相談が必要かもしれません。

子どもの問題行動の原因が薬物やお酒等であれば、それらへの依存症治療を専門とする医療機関への相談、ダルクや断酒会などの活動(これらには家族会があります)への参加も考えられます。

いずれにしても子ども自身の将来だけでなく、今後の親子関係について大きなターニングポイントとなると思いますので、警察だけでなく様々な関係機関に相談して、ケース会議を行うなどして方針を慎重に決めた上で、各機関と連携して対応する必要があると思います。

●「一緒に暮らすことは難しい」そんな場合には?

——仮に家族に対する暴力で逮捕された場合、どのような刑事手続となりますか

子どもが逮捕・勾留された場合、最初は大人と同様の取り扱いを受けますが、未成年者の事件はその後、家庭裁判所に送られて少年審判を受けることになります。当然ですが、審判の結果によっては子どもは少年院に行くことになります。

逮捕勾留を経て家裁に送られた少年は、通常、鑑別所に送られて、そこで審判を待つことになります。審判までの間に、家裁調査官や鑑別所の職員や付添人弁護士等が少年に関わり、その更生にとって、どのような処遇が望ましいのかということを考えていくことになります。

少年審判は大人の刑事裁判とは異なり、少年を処罰するということが主たる目的ではなく、少年の更生のためにどのような処遇が適切かを考える手続です。そのため、どのような環境に少年を戻せばいいのかといったことが重視されます。

今回のケースは家庭内暴力の事案ということですので、少年がそのまま元の家庭に戻ることが可能なのか、それが少年自身にとって望ましいのかということは、審判を担当する裁判官も悩むのではないかと思います。

もし、相談者さんが、母親として子どもに少年院等には行ってほしくないが、家庭で引き取って一緒に暮らすことは難しいというなら、どこか適切な帰住先を探す必要があるのではないかと思います(最近は各地に自立援助ホームなどもできています)。

いずれにしても、今回の一つ目の相談事案は多くの問題をはらんでおり、簡単に解決できる事案ではありません。警察はもちろん、子ども関係の事案を手掛けている弁護士や、医療機関、行政機関、福祉機関など、様々な機関に相談してみることをお勧めします。

●暴力をふるう息子を追い出したら犯罪か?

——2つめの相談事例では、暴力をふるう息子を追い出すことが「保護責任者遺棄罪」にあたるのではないか心配なようです。実際に該当する可能性はあるのでしょうか

結論から言うと、この事案で保護責任者遺棄罪に問われることはないと思います。

保護責任者遺棄罪は、保護が必要な人(例えば幼年者、老人、病気・怪我で動けない人等)を、保護が必要な状況下で保護しない場合に成立します。

18歳で健康状態に問題が無ければ、普通は自分で行動できますし、保護責任者遺棄罪の定義する保護が必要な状況にはないのではないかと思われます。

また仮にそれが保護責任者遺棄罪に該当するとしても、自分が首を絞められるなどの暴行を受けている状況で、そこから離れるということは、 緊急避難等に当たるのではないかと思います。

プロフィール

久保田 仁
久保田 仁(くぼた じん)弁護士 丸亀みらい法律事務所
香川県弁護士会所属。平成20年弁護士登録。香川県出身。平成25年丸亀市において丸亀みらい法律事務所開設。香川県弁護士会副会長(平成29年度)、日弁連子どもの権利委員会委員(幹事)、日弁連家事法制委員会委員,香川県弁護士会刑事弁護センター運営委員会委員長(平成26年~平成28年)、高松家庭裁判所家事調停官(非常勤裁判官)など。

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