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台風でゴルフ練習場の鉄柱が民家直撃、「天災なので補償なし」は法的に妥当?
現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影)

台風でゴルフ練習場の鉄柱が民家直撃、「天災なので補償なし」は法的に妥当?

台風15号で倒壊した千葉県市原市にあるゴルフ練習場の鉄柱(1本30〜40mほど)。複数の近隣住宅を直撃しており、住民への補償がどうなるかに注目が集まっている。

報道によると、住民らは練習場側から「自然災害なので鉄柱の撤去以外の補償は一切しない」(9月16日、日経新聞)、「天災なので補償はない」(9月18日、日本テレビ系「スッキリ」)といった説明を受けているようだ。

「スッキリ」は解体業者に取材し、撤去費用についても概算を報じている。鉄柱は1本300万円ほどで、全部で数千万円になる見込みだという。さらに家の解体が1軒300〜350万円ほど。建て直しとなるとさらに費用がかかる。

法的に見て、住民らに対する補償はどうなるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●法的には「設置又は保存上の瑕疵」が問題になる

ゴルフ練習場の鉄柱及びネットは、「土地の工作物」(民法717条1項)に該当すると考えられます。

鉄柱及びネットに「設置又は保存上の瑕疵」があり、その結果として、台風の強風にあおられ、近隣住宅に被害を与えたと評価できる場合には、占有者または所有者が損害賠償責任を負うことになります。

土地工作物責任は無過失責任ですので、占有者または所有者の過失を被害者が立証する責任はありません。

現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影) 現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影)

●ゴルフ練習場側の対応に問題はなかったか?

読売新聞の報道(2019年9月13日)によりますと、当該ゴルフ練習場は1973年頃に開業し、倒壊した鉄柱は当時からあったということです。

運営会社は今回、台風が近づく前に天井部のネットは下ろしたものの、側面のネットは固定式のために下ろすことができなかったと説明したとのことです。

また、国土交通省と市原市が現地調査を行ったところ、鉄柱とコンクリートの基礎部分を固定するボルトが複数箇所破断していることを確認したとのことです。

上記報道が事実であると仮定しますと、▼側面のネットが固定式で、強風が予測される状況でも下ろせない状態だったという点に、「保存上の瑕疵」があったといえないか▼鉄柱とコンクリートの基礎部分の固定に老朽化による強度不足等の問題がなかったか▼定期的な点検を行っていたかーーといった点が今後議論になるように思います。

現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影) 現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影)

●記録的な台風、仕方がないとは言えない?

一方、今回の台風15号の強風は、千葉県内等の各地で、最大瞬間風速において「観測史上1位」を記録したということですが、そうなると、過去に例がないほどの強風だったということになります。

その点は、鉄柱及びネットに「設置又は保存上の瑕疵」があったといえるかの判断において、マイナスに考慮される要素になると考えられます。

過去に例がないほどの強風だったとすると、そうした強風に耐えられる強度を有していないからといって、直ちに「設置又は保存上の瑕疵」があるとは言いにくいからです。

現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影) 現場の様子(読者提供、2019年9月19日撮影)

もっとも、日本国内における過去の最大瞬間風速(沖縄県宮古島で85.3m/秒)は、今回の台風15号による千葉県内の最大瞬間風速(報道によれば、千葉市中央区で57.5m/秒)を上回っているので、全く予測できないほどの強風だったとの評価も難しいところです。

以上のような諸点を総合的に考慮した上で、「設置又は保存上の瑕疵」があったといえるかが、民法上の損害賠償責任を判断する上で重要になると思われます。

●責任が認められても支払いができない可能性も

もちろん、仮に運営会社に損害賠償責任が認められたとしても、運営会社が倒産などすれば、被害者が賠償を受けられずに泣き寝入りとなる可能性はあります。

もっとも、運営会社が賠償責任保険に加入していれば、保険会社が損害賠償義務を加害者に代わって負担することになります。

また、損害賠償請求の可否とは別に、被害者側が加入している火災保険等で、風害ということで、今回の事故による被害が保険金支払の対象になる可能性はあり、保険契約の内容次第ということになります。

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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