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<日本の難民3>「難民と立証するのが難しい」弁護士でも越えにくい「高いハードル」
法務省の入国管理局が、難民かどうかの判断にかかわっている

<日本の難民3>「難民と立証するのが難しい」弁護士でも越えにくい「高いハードル」

生まれ育った祖国を追われて、命からがら日本にたどりついたけども、なかなか「難民」として認められない外国人がいる。いつ出身国に強制送還されるかわからず、もし送還となれば命の危険さえある。光が見えないまま、異国の地で不安がつのる。

来日から7年かかって難民として認められたコンゴ人男性は、それまで働くことができず、苦悩に満ちた日々を過ごしていた。ミャンマーのイスラム少数民族ロヒンギャの男性は、全額負担の医療費に頭を悩ませながら、10年近くも難民認定を待ち続けている。

日本の難民認定数は、世界的に見て圧倒的に少ない。難民かどうかの判断にかかわるのは、法務省の入国管理局だ。その審査のあり方は適切なのだろうか。弁護士ドットコムニュースの連載企画「日本の難民」の3回目では、難民申請にかかわる弁護士たちの声を聞きながら、日本の制度が抱える問題について考える。(取材・構成/山下真史)

●難民申請の制度が「乱用」されている?

2005年に384人だった難民申請者は、この10年で急増し、2014年には5000人に膨れ上がった。だが、認定されたのは11人。認定率はわずか0.2%だ。

なぜ、申請数と認定数の間にこれほど大きな開きがあるのか。難民行政を司る法務省があげるのは、「乱用的申請が多いから」という理由だ。母国で迫害されているわけでなく、本来は「難民」とはいえないのに、「日本で働いてお金を稼ぎたい」といった理由で来日し、難民申請する外国人が多数いる。法務省のロジックはそういうものだ。

特に最近の難民申請者の急増は、国内で2010年から正規滞在者が難民申請すると、申請から6カ月たてば「就労」ができるようになったことが背景にあるのだ――法務省の入国管理局はそう主張する。

全国難民弁護団連絡会議で代表をつとめる渡邉彰悟弁護士も「本当は難民ではないのに、難民申請制度を利用して働こうとしている人たちがいる。そういう申請者がいることも否定はしません」と語る。

だが、「根本的な問題は、保護されるべき難民が適正に保護されていない現実です。『乱用』を強調するあまり、難民保護とは異なる動きにばかり目が向いてしまうことには賛同できません」と渡邉弁護士は言う。「本当の難民が、日本で働きたいと考えて、難民申請をすることには何の問題もありません。『難民性(=迫害のおそれ)』と『働くこと』は、決して矛盾するものではないのです」と強調する。

たとえば、技能実習生として日本に来て、難民認定や人道配慮による在留を認められた人もいるという。「迫害のおそれから逃れた後の生活を考えて、避難先の国を選ぶことは不自然なことではありません。『難民』をネガティブな存在ととらえたり、『乱用』を強調することで、適正な難民認定手続の実現に向けた動きが煮詰まらないようでは、日本の難民認定制度に横たわる問題の本質は覆い隠されたままです」

渡邉弁護士は「何よりもまず、適正な難民認定基準の確立が必要です。そのことをあいまいにして、『乱用』問題を論じることは本末転倒で耐えがたいことです。適正な基準の確立は乱用防止の前提です。このことを忘れてはなりません」と語る。

●矛盾をつく「取調べ」のような難民申請者インタビュー

国内で、2014年に難民認定を受けた人はたったの11人だった。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の資料などによると、米国の約2万1000人、ドイツの約1万1000人など、他の先進国に比べて、極めて少ない数字だ。

難民認定が少ない要因の一つとして、難民問題に取り組む弁護士たちが指摘するのが、政府が認定するかどうかを決める手続きの問題だ。

「入国管理局が難民申請した人に対しておこなうインタビューにも問題があります。申請者はまるで、刑事事件の被告人のように扱われています」。コンゴ人難民の代理人をつとめた神原元弁護士はこのように語るが、そもそも、難民申請者のインタビューはどのようにしておこなわれているのだろうか。

日本に逃れてきた外国人は難民申請をすると、入国管理局で難民調査官と呼ばれる職員から、通訳を介したインタビューを受けることになる。あるミャンマー出身の男性は「どこの国からきたのか、家族は何人いるのか、パスポートをどうやって手に入れたのか、日本でどんな暮らしをしたいかという質問をされました」と話す。この男性の場合、申請から不認定を受けるまでに3~4回のインタビューを受けたという。

インタビューの回数があがるほど、どんどん細かい質問をされるようになった。「申請書に書いてあることと違う」などと、矛盾をつくような「取調べ」で、難民の調査というよりも退去強制のためのインタビューのようだったという。男性は弁護士などの立会い人もなく、一人でインタビューを受けた。「通訳と職員がどんな話をしているのかもわかりせん。うまく自分の考えが伝えられるのか、とても不安でした」と振り返る。

法務省によると、インタビューで申請者から聞き取った内容は、書類にまとめたうえで、霞が関にある法務省本省に送る。そこの職員が書類を見ながら、難民として認めるべきかどうか、判断するという。

だが、インタビューの通訳や証拠の翻訳が、かならずしも正確だとは限らない。裁判を通して難民認定を勝ち取ったコンゴ人男性の場合、提出した証拠の翻訳にいくつかの「誤訳」があった。代理人をつとめた神原弁護士によると、この誤訳が見つかったのがきっかけで、裁判の流れが大きく変わり、最終的に、国に難民認定を義務づける判決が下されることにつながったという。

●「難民認定基準に非常に高いハードルを設けている」

渡邉弁護士は、難民認定が少ない最大の理由として「入国管理局の難民認定基準のハードルが高すぎること」をあげる。

「少し専門的になりますが、難民条約には、難民の要件として、『迫害のおそれがあること』をあげられています。一般的に、条約締結国では『迫害のおそれがあること』について、『現実的な見込みがあれば足りる』という解釈で、『同じような立場にある人がどのような状況におかれているか』が重要な指標であるといわれています」(渡邉弁護士)

だが、日本の入国管理局は『申請者本人が、迫害の対象として、本国政府に個別的に把握されていること』まで求めているという。こうした独自の解釈が、難民認定基準のハードルを高くしていることにつながっているという。

もう一つ、難民認定の大きな壁となっているのが「立証」の問題だ。難民であることを証明する責任は、原則として申請者側にある。しかし、外国人が着の身着のままで日本へ逃げてきた場合、証拠となるような資料を持ちあわせていないことが多い。法務省に取材すると、「本人の供述だけで認定するケースもある」ということだったが、はたして問題はないのだろうか。

神原弁護士は「『難民であること』の完全な証明が求められますが、非常に難しいです。一方で、国際基準では、難民認定機関の側にも責任があると考えられていますし、『どちらかわからない場合は難民認定する』というのが一般的です。こちらにあわせるべきでしょう」と述べた。

●「世界から取り残されている感覚がない」

渡邉弁護士によれば、問題なのは、法務省入国管理局という行政庁にとどまらない。「司法府である裁判所の責任も大きい」と指摘する。

渡邉弁護士が所属する「在日ビルマ人難民申請弁護団」では、1990年代からビルマ(ミャンマー)出身者を支援してきた。20年以上の期間に延べ約600人が難民申請をして、約200人が認定を受けた。そのうち2割以上は、裁判を通して、難民不認定の処分が取り消されたケースだった。

しかし、渡邉弁護士は「ミャンマーで迫害を受けた少数民族ロヒンギャの裁判では、いくつか負けています。『なぜ、ロヒンギャの裁判で負けないといけないのか』というのが、正直な気持ちです。彼らは国籍も認められず、人間としての尊厳を奪われています。最近では、ほとんどジェノサイドの様相を呈しているのに、保護しないというのは不思議でなりません」と話す。

裁判所は、難民問題について適切に判断できていない――。渡邉弁護士はそう考えている。背景には、難民について専門性のある裁判官が日本にほとんどいないことがあるという。世界の約60カ国から裁判官が集まり、難民認定の水準を統一していくことを目的としたネットワーク『難民法裁判官国際会議』に、これまで日本から正式参加した裁判官は一人もいないとされる。

「裁判所には異動の問題もあって、難民法の理解に関する蓄積がされていきません。結果として、世界から日本が取り残されています。信ぴょう性に関しては、行政よりも良い判断を下してくれますが、『迫害』の定義や『迫害のおそれ』の解釈など、やはり国際的に調和のある解釈適用がされているとはいい難い状況です」(渡邉弁護士)

渡邉弁護士はさらに、「国際基準から乖離(かいり)した判断をしても、自分たちの判断の見直しを迫られるプレッシャーがないこともあります。調和的な判断をしない結果として、難民に冷たい国を作り出していることに、司法も加担していることを認識して、裁判官にも難民問題に対して目を見開いてもらいたいと思います。そして、司法が変われば、ひいては行政判断にも大きく影響していきます」と付け加えていた。

<日本の難民1>「イモトに元気づけられた」 難民認定まで「7年」コンゴ人男性の苦悩

https://www.bengo4.com/kokusai/n_4178/{target=_blank}

<日本の難民2>健康保険に入れず医療費は全額負担「仮放免」に苦しむロヒンギャ男性

https://www.bengo4.com/kokusai/n_4184/{target=_blank}

(弁護士ドットコムニュース)

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