南シナ海の上空で消息を絶ったマレーシア航空370便は、インド洋に墜落したという見方が強まっている。
報道によると、マレーシア航空の最高経営責任者のアフマド・ジャウハリ氏は3月下旬、「航空機はインド洋に墜落した」「生存者はいない」という認識を示した。一方で捜索は難航しており、いまのところ「これは」という情報はないようだ。
マレーシア航空370便には、乗客227人(乗員12人)が搭乗していたとされる。今後、マレーシア航空は、乗客の遺族に対して、賠償金を支払うことになりそうだ。こうした場合、賠償額はどのように決まるものなのだろうか。航空法にくわしい金子博人弁護士に聞いた。
●条約上の賠償限度額は「無制限」
「国際線の事故の場合、『モントリオール条約』(2003年発効)の適用があるかないかで、結論が大きく変わります。
出発国と到着国が条約を結んでいる国であれば、旅客や航空会社の国籍と関係なく、このモントリオール条約が適用されます。
今回は、出発国のマレーシアと到着国の中国がともに締約国なので、モントリオール条約が適用されるケースです」
では、どうなるのだろうか?
「同条約では、死亡・傷害の賠償限度額は『無制限』となっています。
生じた損害のうち、一人当たり約1800万円(4月3日時点の換算レート)までは無過失責任となっており、航空会社は過失等がなくても、賠償責任を免れることができません。
一方で、この額を超える賠償については、航空会社が事故について自らの過失等がなかったと証明できれば、賠償責任を負わない、というルールになっています」
すると、約1800万円を超える争いになった場合、航空会社がその証明に成功するかどうかがカギと言えそうだ。
●どこの国の法律が適用される?
航空会社が提示した損害賠償額に不満があり、裁判ということになれば、他にどんな点がポイントとなるのだろうか?
「最大のポイントは、旅客がどこの国で訴訟を起こすかです。これによってどこの国の法律が適用されるかが決まり、損害賠償の額にも大きな影響があります」
選択肢は、どんなものがあるのだろうか?
「モントリオール条約で定められているのは、次の4つです。(1)航空会社の住所地(2)主たる営業所の所在地(3)契約を締結した営業所の所在地(4)到着地。このいずれかのうちで、かつ、条約国の領域にある裁判所に、訴訟を提起することになります。
また、旅客の死亡・傷害によって生じた損害賠償についての裁判なら、旅客の『主要かつ恒常的居住地』でも可能です。
日本の裁判所では、死亡の場合、逸失利益と慰謝料で、成人男子では1億円近く出るのが普通です。したがって、日本に住んでいる人なら、日本で裁判を起こせばいいでしょう」
他国に住んでいる場合だと、話が変わるのだろうか?
「死亡による損害賠償額が低く算定されやすい国に住んでいる場合は、話が難しくなります。
たとえば中国などは認められる損害賠償額が非常に安いと聞きますので、他の場所で裁判を起こすほうが有利かもしれません。
ただ、外国での訴訟となれば、手間や費用はかさむことになりますね」
金子弁護士はこのように述べていた。
なお、モントリオール条約では、賠償額が世界共通の通貨単位である「SDR」(特別引出権)という単位に基づいて表記されており、日本円での価値は円相場によって常時変動している。記事中の約1800万円という額は、条約の規定(11万3100SDR)と2014年4月3日時点のレート(約160円)により算出したものだ。