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アベノマスク単価開示命令「500億円の巨額事業の闇、これからが本丸だ」、原告側弁護士の手応え
全世帯に配られたアベノマスク(弁護士ドットコム撮影)

アベノマスク単価開示命令「500億円の巨額事業の闇、これからが本丸だ」、原告側弁護士の手応え

政府が全世帯に配った布マスク調達をめぐる国の対応を問うた「アベノマスク訴訟」で、大阪地裁は2月28日、国に対し、単価や枚数の開示を命じる判決を出した。

徳地淳裁判長は「開示しても企業の営業ノウハウが明らかになるとはいえず、価格交渉に支障を与えるものではない」とし、税金の使途への説明責任という観点からも、国が不開示としていた措置は不当と断じた。

原告側弁護団の谷真介弁護士は、ほぼ全面勝訴となった結果に対し「500億円という巨額の税金が投じられた政策について、まずはデータがないと是非を検討すらできません。2年半かかって長いトンネルの入口にやっと立てた。これからが本丸です」と意気込む。

●問題相次いだ「珍政策」、訴訟戦術もずさん

2020年4月に安倍晋三首相(当時)の肝いりで約500億円が投じられたアベノマスク事業。「小さい」「効果に疑問」などの批判や虫混入、あげくに大量の在庫問題が発覚するという新型コロナの“珍政策”として、国民の記憶に残った。

原告の上脇博之・神戸学院大教授らが業者選定や発注の経過、価格などを明らかにするため情報公開請求したものの、黒塗りの回答だったため2020年9月に提訴していた。

国は情報公開法5条に基づき、不開示の理由について「企業の競争上の利益を害する」(2号)「国の事務に支障がある」(6号)と主張。今後、衛生用品の需給逼迫など同様の事態が起きた時に、不当な価格つり上げがなされる可能性を訴えたが、いずれも大阪地裁は退けた。

判決まで約2年半。単価は会計検査院の調査でも明らかにしているため、すぐ決着するだろうと弁護団は踏んでいた。しかし長期化したのは、国の訴訟戦術がずさんだったことも影響している。2022年9月の結審時には、国側が期限を過ぎて準備書面を提出しようとしたが、裁判所は認めなかった。

谷弁護士は「国側は通常期限を守るのに、異例です。後述の別件訴訟では、『調査中』『国会対応で忙しい』などの弁明を繰り返し、書面が出てこない。裁判所も『心証に影響する』とまで言ったほどでした」と経過を明かした。

今回の訴訟で原告側は、情報公開請求の経過での国による2カ月の“遅延行為”も国家賠償法上の違法性があると主張したが、認められなかった。他にも情報公開請求が急増していたことや国会対応などの繁忙を理由にした国の対応について、地裁は「漫然と遅れさせ、原告の受忍限度を超えて人格権を侵害するほどではない」とした。

「情報公開法の法定期限(60日)からさらに2カ月遅れるのは前代未聞。認められれば、初の判断になったはずだが、残念です」(谷弁護士)

●業者選定はいかに、国の説明は二転三転…

アベノマスク訴訟は、もう一つ係争中の案件がある。厚労省が契約締結に至った経過についての文書を「不存在」とした決定の是非を問うて、2021年2月に提訴している。

国は当初、調達業者との電子メール「やりとり文書」は存在したが、メールを「1年未満文書」と位置付けていたため、その都度廃棄したと主張。情報公開請求の際には残っていなかったと説明した。

谷弁護士は、違和感を禁じ得なかった。「情報公開請求した2020年3月時点は、まだ取引中のはず。自動で消えるわけでもないのに、ひた隠しにすれば、余計に気にかかるし、疑惑も高まります」

原告らの申し立てにより、業者側から裁判所にメールのやりとりが提出されると一転、2022年になって「再調査したところ、請求書や誓約書等の紙文書や厚労省職員2名のパソコンからメール100通以上が発見」されたとした。ただ、内容が「組織としての意思表示、意思決定が記載」されているため、不開示は妥当だったと主張した。

「ころころと主張が変わり、開示しないという結論ありきの『その場しのぎ』を繰り返す。あまりの態度に2023年2月に請求の趣旨を変更し、110万円の国賠請求を追加しました。公文書に対する国の姿勢に愕然とします」

新型コロナが感染症法上の第5類に移行される方針となり、国もマスク着用について緩和を始めた。マスクを巡って大騒ぎした約3年前、官邸主導で巨額の税金を使った事業で何があったのか。検証が待たれる。

プロフィール

谷 真介
谷 真介(たに しんすけ)弁護士 北大阪総合法律事務所
2007年弁護士登録(大阪弁護士会)。大阪弁護士会労働問題特別委員会副委員長、日本労働弁護団全国常任幹事。労働事件、アスベスト被害事件を多数担当。その他、内閣官房機密費情報公開訴訟弁護団。

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