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「コスプレお断り」漫画を愛するカフェの決断に反響、「切り取られた手」持ち込んだ客のトラブルとは
女性の手のイメージ写真(IYO / PIXTA)

「コスプレお断り」漫画を愛するカフェの決断に反響、「切り取られた手」持ち込んだ客のトラブルとは

「コスプレでのご来店は今まで一度も無かった為明確なルールは設けていませんでしたが 本日をもってお断りさせて頂きます」

「切り取られた手のオブジェ等、子供が見て怖がるような物の持込みもご遠慮下さい」

埼玉県にあるカフェが、ツイッター上で「コスプレ来店禁止」を表明した。漫画やゲーム好きのオーナーが営む店には、おいしいメニューを楽しむ一般客のほか、「ジョジョの奇妙な冒険」を含むさまざまな作品を愛する人も集まることで知られている。

突如見舞われたトラブルの詳細と、発信するに至った苦しい胸のうち、そして公共の場におけるコスプレのありかたをオーナーに聞いた。(編集部・塚田賢慎)

●コスプレと誤認されるバウンドコーデもお断り

大きな反響があったのは、カフェが2月26日にしたツイートだ。冒頭のツイートのほかにも、以下の投稿をおこなった。

「当店ご近所のお客様や、お子様連れのご家族も多く利用します トラブル防止の為コスプレと認識される過度なバウンドコーデはご遠慮ください 何卒御協力をお願い致します」

「【お願い】 このツイートは今後のトラブル防止の為にしたツイートで『晒し』や『攻撃』が目的ではありません 当事者を特定して晒したりしない様にお願い致します」

詳しい背景の記載はなかったが、事情を察した人たちから「自分たちの楽しい場所がなくなっちゃうよ」と迷惑行為を批判する反応が目立った。

●なにがあった?

カフェに取材を申し込むと、「大事にしたくない。また、決して当事者への攻撃などは望まない」として、店名非公表で応じてくれた。また公共の場におけるコスプレにはさまざまな意見があるが、「店の考えは、ひとつの考え」であることを強調した(以下、特に断りがない限り、コメントはオーナーのもの)。

その出来事があったのは、2月下旬のことだったという。

予約客の3人組のうち、2人の格好が店側の認識では「コスプレ」だったが、客は「バウンドコーデ」だと主張したという。

「バウンドコーデ」とは、アニメやゲームなどのキャラクターをイメージしたもので、街歩きできる程度のファッションのことを指すと言われている。

「当店では、キャラクターグッズの持ち込みや、キャラクターのイメージアクセサリーやイメージカラーの服などのバウンドコーデは全く問題ありませんが、当事者の2人はキャラクターに限りなく近い服装や髪型、毛染め、小道具の持ち込みなどをして、我々からすると『コスプレ』でした。さらに、それらを集団で行うと、どうしても『コスプレ』に見えてしまいます」

また、予約時点でコスプレの許可に関する確認がなかったという。

「公共の場における無許可でのコスプレは、コスプレ界隈ではトラブル防止の為に基本的にタブーとされています。かなり驚いたし、困惑しました」

このような事態は開店から6年で初めてのことで、居合わせた他の客の手前、退店をお願いしたいと考えたが、できない事情もあった。

コスプレや、コスプレと誤認される過度なバウンドコーデの禁止を示していなかったことや、市販の日常着を用いた「コスプレ」だったことから、当事者から『私服です!バウンドコーデです!』と主張されてしまっては、退店をもとめる明確な根拠が見つからなかったのだ。

「強く退店をもとめて、問答になれば他のお客様のご迷惑になるため、お店にお通しして、帰られるのを待つしかない状況でした」

●テーブルに置かれたのは「殺人鬼が殺した女性(マネキン)の手首」だった

店に通した3人組は、テーブル席で食事を始めた。そのうち1人の服装は「殺した相手の手を持ち歩いてるという殺人鬼のキャラクター」のものだったという。見る人が見れば、「ジョジョ」シリーズ屈指の敵役「吉良吉影」だとわかるものだ。事実、ツイートの少ない情報からだけでも、吉良を指摘するものも少なくなかった。

「そのうち、マネキンの手首をテーブルに取り出して撮影や歓談を始めました。その後もテーブルに手首を置いたままです。ご近所の女性客も多いので、奇抜な服装の男がマネキンの手首を出して愛でたり、記念撮影したりしている光景は、『変質者』や『異常者』に誤解されてしまいます。スタッフが慌てて手首をしまう様にお願いしました」

当事者はそれに応じ、「手首」を片付けたという。

●当事者がSNSにアップする前に、店側がツイートする必要があった

当事者の退店後、ほかの複数の客に対して、不快な思いをしなかったか、スタッフが謝罪などのフォローにあたった。

「2次創作やコスプレに理解があるお客様は、『公共の場での無許可コスプレはタブー』とわかっているので、店内で浮いた存在に見て見ぬふりで関わらないようにしていました。

そうではないかたは、タブーと認識していないので、興味を示して、ジロジロと見ていました」

ここまでが店内で起きた出来事となるが、店側はこの後も頭を悩ませることになる。当事者らが撮影した店での様子をSNSにアップすることを懸念したのだ。

SNSを見た人が、『コスプレ入店可能な店・コスプレバー』や『公共でのコスプレを良しとする店』などと誤解するおそれがあるからだ。

「我々は何時間も相談しながら、『コスプレやコスプレと誤認されるレベルの過度なバウンドコーデ禁止』のツイートをすることにしました。当事者が特定されて攻撃をうけないように、コスプレやバウンドコーデを楽しむ方々の偏見を助長しないようにと慎重に検討を重ねたのが今回のツイートです」

結果的に、当事者らが自ら特定されやすいツイートをしてしまったこともあり、特定された1人から謝罪のメッセージが届いた。

カフェ側からは、公共の場だということや、漫画を知らない人や子どもなどが手首を見たら恐怖や不快感を感じる場合があること、そして、3人中2人がもはやコスプレだったことなどの問題を説明したという。

●これはアウト?セーフ? 難しい「線引き」

カフェにはこれまでも良識の範囲内の「バウンドコーデ」の客はたくさん訪れていたし、店側としても歓迎していた。

「バウンドコーデとして、ココからがアウトで、ココまではセーフという明確な定義はありません。

今回のケースのように、『コスプレ』との区別が付きにくい域になると、『コスプレ』と判断されトラブルになる場合があると思います」

コスプレイベントなど、許可された場におけるコスプレはひとつのカルチャーとして愛されている。大多数の人は理解しているのが現状だが、一部で今回のようにトラブルも起こり得る。

公共の場での『コスプレ』が禁止とされる理由について、オーナーはこのような問題を指摘する。

・作品によっては衣装の露出やグロテスクさから不審者として通報されるおそれがある。
・刀や銃を持ち歩くキャラクターの場合、トラブルになったり、恐怖を与えることもある。
・コスプレした人のトラブルが、同じ作品のファンやコスプレイヤーを悲しませてしまう場合がある。

●カフェの願い。良識をもってコスプレや推し活を楽しんでほしい

カフェはさまざまな客層から愛され、そうした良識ある客のおかげもあって、特にルールを設けずともうまく成立してきた。「コスプレお断り」を明言することは、決して喜ばしいことではない。

「ハッキリさせなくても問題なかったことをハッキリさせることになるとは想像もしていませんでした。この騒動でバウンドコーデや推し活を楽しみにくく感じてしまう人が出るのではないかと、とても悲しく思いました」

一方で、カフェの決定を支持する声も寄せられたことで少し救われた面もある。

「ツイートを好意的に受け止めてくださったのは、公共の場におけるトラブルでコスプレのイメージが低下することを危惧し、コスプレという文化を大切にしている方々だと思っております」

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