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迷惑な大量「商標出願」、すぐに却下できず後願者に実害…背景にある国際条約の壁
特許庁による条約の説明ページ

迷惑な大量「商標出願」、すぐに却下できず後願者に実害…背景にある国際条約の壁

「PPAP」「ラブライブ」など、無関係の第三者が大量の商標登録出願を行なっている問題で、特許庁が手を焼いている。出願のほとんどは、(1)手数料の未払い、(2)無関係の第三者であることを理由に却下されているが、当事者の商標登録完了が数カ月遅れる事態が生じている。

特許庁は6月21日、制度を広く知ってもらおうと、商標登録における審査の流れをHP上で公開した。これによると、悪意ある第三者が先に出願(先願)してしまうと、その出願が却下される4〜6カ月の間、正規の権利者が商標登録できなくなってしまう。先願の手続きに不備があれば、その段階から後願の審査がスタートするが、無駄な待ち時間が生じてしまう。

ネットでは、却下までの期間を短縮したり、手数料がないと受理できなくしたりすれば良いのではという意見もある。しかし、特許庁によると国際条約の関係でできないという。「4〜6カ月というのは、可能な範囲で最速の期間なんです」(担当者)

●「手続きの不備に2カ月以上の救済期間」という国際潮流

その条約とは、出願人の手続き不備に対する救済などを目的にした「商標法に関するシンガポール条約」(STLT)。アメリカ、イギリス、フランスなど40カ国以上が加盟しており、日本でも2016年に発効した。

この条約では、「手続期間を守れなかった場合の救済」(14条)として、手続き期間が満了しても2カ月以上の救済期間を設けることなどを求めている。特許庁によると、グローバル化を念頭に、国際社会では手続きの不備を救済する流れがあるのだという。

「通常、出願後30日以内に、手続きに不備がないかの審査(方式審査)が始まります。不備があれば、その旨の通知を送り、さらに1カ月待ちます。ここまでで、およそ2カ月。ここに条約の2カ月を加えたのが、『却下まで4カ月』の根拠です。案件によっては、やりとりが生じて合計6カ月ほどかかる場合もあります」(担当者)

ただし、似たような運用は条約加盟前からも行われていたという。「元々は却下前にも通知を送るなど、時間がかかっていた。条約という根拠ができて速くできるようになった部分もある」と担当者は語る。

第三者からの大量出願をめぐっては昨年1月、愛称として「おおたBITO」の使用を検討していた群馬県の太田市美術館・図書館が、「BITO」が先に出願されていたため、開館スケジュールを考慮して使用を断念したという事例もある。こうした実害がある一方、特許庁としては、商標登録希望者に対して、審査の流れを説明し、「諦めないで」というメッセージを発することしかできないのが現状のようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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