社長など重役を退いた後は、相談役や顧問になるーー。そんな暗黙の人事が、あなたの会社にはないだろうか。昨年から開催されている経済産業省のコーポレートガバナンスに関する研究会でも、相談役、顧問制度について意見が交わされている。
経産省が、東証一部、二部上場の企業の2500社を対象にアンケート調査したところ、回答を寄せた871社のうち、77.6%が相談役や顧問を導入しているそうだ。
しかし、相談役や顧問をめぐっては、経営や人事への介入などの問題も起こりうるなどと、批判的な声もある。相談役や顧問は、法的にどのような位置づけにあるのか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●法的な位置づけは?
「相談役や顧問という地位は、会社法上の制度ではありません。
根拠として考えられるのは、各会社が定めた自主規範である『定款』で、その設置を認める場合があります。もちろん、相談役や顧問と、取締役の地位を兼任することは可能でしょうが、現在話題となっているのは、取締役の地位を兼任していない立場です。
法的な契約関係ですが,相談役や顧問と呼ばれる方々と会社との関係は、民法上の『委任契約』になろうかと思います」
なぜ、相談役や顧問を置くことを問題視する声があるのか。
「最高経営者が取締役を引退後も、相談役や顧問として、役員人事や経営に関して指示や指導する事例もあるようです。その関与の強弱の程度も問題ですが,何より,取締役ではないということは、会社法が定める取締役の種々の義務や責任も負っていない立場であるということです。
また、会社から報酬が支払われていても、取締役の場合のように、株主総会で就任の是非や取締役報酬額などについて審議されることも義務付けられていません。取締役ではないことから、株主に対し説明責任を果たす地位にもありません。以上のような状況が、特に海外の投資家から疑問視されているようです」
●「あまり重大視されてこなかった」
今後、どのような見直しが必要なのか。
「相談役や顧問が設置されてきたことには相応の事情があるとの見解も聞かれます。現経営者に勇退の途を示すことで世代交代を促す目的、取締役時代の報酬額が低かったことから、実質的な後払として報酬が支払われている等の事情です。しかし、会社法の視点から評価すれば、いずれも設置を進めるべき積極的な理由とはなりがたいです。
また、取締役時代の人脈を活かして会社に利益をもたらしている等のメリットも主張されていますが、十分な検証は難しいでしょう。
相談役や顧問の地位に関しては、コーポレートガバナンスに関する議論ではあまり重大視されてこなかった面があります。つまり不祥事なく、かつ、効率的に利益を上げるにはいかなる体制がベターなのかを検討する上で、論点から抜け落ちていたと言えなくもないです。今後の検証や、議論の深化が期待されます」