「うちのおじいちゃん、ノートの特許とってた…宣伝費用がないから宣伝できないみたい。Twitterの力を借りる!」。ある女子専門学校生が元日にツイッターに投稿したことで、東京都北区の中村印刷所が手作りしている「方眼ノート」が大きな注目を集めている。
ネットメディア「withnews」によると、この印刷所で働く女子専門学校生の祖父が、社長ととともに2年間かけて試行錯誤の末に方眼ノートを完成させた。コピーやスキャンした時に真ん中に黒塗り部分が入らないようにして、製造方法に関する特許をとったという。
2014年10月に発売したものの、あまり注文には結びつかず、数千冊の在庫を抱えていたそうだが、今回のツイートが3万リツイートもされたことで、一気に注文が入るようになった。特許のポイントはどこにあるのだろうか。特許問題に詳しい岩永利彦弁護士に聞いた。
●ノートそのものではなく、製本の方法の発明
「本件特許の番号は、特許第5743362号で、平成26年11月27日に出願され、平成27年5月15日に登録されました。早期審査により、非常に早い登録となったようです。
特許請求の範囲(クレーム)は以下のとおりです。全部で8つのクレームがあるようですが、請求項1のみ示します」
岩永弁護士はそう述べて、この方眼ノートの特許請求の「請求項1」の内容を示した。それは、専門用語で書かれた難解な記述だが、次のようなものだ。
【請求項1】
複数の紙材の束からなる本文と、これをくるむ表紙材とを前記本文の背面に塗布した接着剤によって接着させてなる無線綴じ冊子の製本方法であって、前記表紙材の裏面中央領域に該表紙材を表表紙部、背部及び裏表紙部に区画するように所定の間隔だけ離して設けた2本のスジ又は折り目のうちの一方を反対側に折り曲げて2つに折り、当該一方の折り目を前記本文の背面の側縁に揃えて当該表紙材を前記本文に沿わせて積層配置する工程と、当該表紙材の折り目を含み前記本文の背面全面にコールドグルー接着剤である第1の接着剤を層状に塗布する工程と、前記第1の接着剤層表面の固化が認められたところで、当該表面の全面に当該第1の接着剤よりも相対的に高粘度の第2の接着剤を層状に塗布する工程と、前記第2の接着剤塗布後に前記表紙材で前記本文をくるみ、当該本文の背面を押圧状態に保持したまま乾燥させる工程とを含むことを特徴とする無線綴じ冊子の製本方法。
「慣れていないと読みにくいのですが、このクレームからしますと、まず、ポイントは、ノートそのものではなく、ノート等の製本の方法の発明だということです。
そして、次のポイントは、ノートだけではなく、通常の本についても適用できる広い発明だということです(クレーム上、ノートだけの限定などありません)」
●長年に渡る試行錯誤の賜物
では、この発明の優れている点はどのようなところにあるのだろうか。
「『優れた見開き性』、つまり『略(ほぼ)180度開くこと』になると思います。
皆さんも近くにある本を取って、開いてみるとわかるのですが、180度開くもものなどほぼないことがわかると思います。各ページの糊(接着剤)や糸などの綴じ具の強さが強すぎるのかもしれませんが、180度まで開かないのです。そのため、このような本をコピーやスキャンすると、見開き真ん中の綴じ部に光が当たらず、黒くなってしまいます。他方、綴じ具が弱すぎるとすぐに落丁してしまいます。
ところが、この特許では、2種類の接着剤を使い、最初の接着剤の粘性を次の接着剤の粘性より低くしたことから(つまり、最初の接着剤の方がよりサラサラ、シャバシャバしています)、最初の接着剤での接着層の弾性・柔軟性が向上し、その結果、各ページの自由度も増し、落丁を防止しながら見開きが良くなったようですね。
後で言われると、何だそんなことなのかと思うかもしれません。しかし、この分野の技術者だからこそ気づいたのであり、長年に渡る試行錯誤の賜物と言えるでしょう。
なお、本件特許については、上記の技術的な点以外にも、実に注目すべき点があります。しかし、今回は、特許のポイントということですので、技術的な点に絞っています」
岩永弁護士はこのように話していた。