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ミスチル歌詞「パクリ騒動」 平浩二さんが歌う「ぬくもり」は著作権侵害なのか?
歌詞の比較(抜粋)

ミスチル歌詞「パクリ騒動」 平浩二さんが歌う「ぬくもり」は著作権侵害なのか?

歌手の平浩二さんが今年5月に出したCD「愛・佐世保」の収録曲「ぬくもり」(作詞・沢久美さん)の歌詞が、Mr.Childrenの代表曲「抱きしめたい」に酷似していると指摘されていた問題で、発売した徳間ジャパンコミュニケーションズはCDの出荷停止と自主回収を決めた。購入者には商品代金を返金する。

平さんは12月14日、徳間ジャパンのウェブサイトでコメントを発表。「全く寝耳に水のことであり、本当にそのようなことがあるのか信じられませんでした」と歌詞の類似について知らなかったとしつつも、歌詞が酷似していることは認め、「Mr.Children様、ファンの皆様、及びその関係者の皆様に対して、ご心配、ご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」と謝罪した。

一方、スポーツ報知によると、「ぬくもり」を作詞した作詞家の沢久美さんは「ご迷惑をおかけして申し訳ない。曲は知らなかった」と話しているという。

今回の歌詞の類似は、法的にはどういった問題があるのだろうか。エンタメ法務に取り組み、自らも音楽活動を行っている高木啓成弁護士に聞いた。

●「類似性」は認められる

「どのくらい似ていたら著作権侵害になるかという『類似性』について、法律上、明確な基準があるわけではありません」

高木弁護士はこのように切り出した。では、どのように判断すればいいのだろうか。

「裁判では、問題となっている著作物(ここでいう『ぬくもり』)が、既存の著作物(ここでいう『抱きしめたい』)の『本質的な特徴を直接感得できるかどうか』というのがひとつの基準とされていますが、やはり明確な基準とはいいにくいものです。

このように基準は明確ではありませんが、今回の『ぬくもり』の歌詞は、『抱きしめたい』の1番の歌詞をそのままコピーした箇所や、文字を少し変更したにすぎない箇所が多くみられます。たとえば、次の部分です。

(「ぬくもり」)

『出会った日と 同じように

霧雨の降る かがやく夜』

(「抱きしめたい」)

『出会った日と 同じように

霧雨けむる 静かな夜』

細かな言い回しは異なりますが、フレーズが極めて類似しています。

また、次の部分は文字を少し変更していますが、ほぼ一致しているといえます。

(「ぬくもり」)

『人波であふれた

街のショーウインドウ

みとれた君が ふいに

つまずいたその時 受け止めた

両手のぬくもり・・・』

(「抱きしめたい」)

『人波で溢れた 街のショウウインドウ

見とれた君がふいに

つまずいた その時

受け止めた 両手のぬくもり』

こうしたことからすると、『ぬくもり』の歌詞から『抱きしめたい』の歌詞の特徴を直接感得できるものです。

ですので、問題なく『類似性』は認められると思います」

しかし、作詞家は「抱きしめたい」を知らなかったとコメントしている。もしこれが本当で、偶然、似ていただけの場合にも、著作権侵害となってしまうのだろうか。

「実は、著作権侵害といえるためには、『類似性』だけでなく『依拠性』というものが必要です。つまり、盗作元とされる著作物のことを知らずに偶然似てしまっただけであれば、著作権侵害にはならないのです。

ですので、沢久美さんが本当に『抱きしめたい』の歌詞を知らずに、『ぬくもり』の歌詞を作詞した場合は、著作権侵害にはなりません。

ただ、ここまで歌詞が類似している場合に、裁判で『知らなかった』という主張が通るかどうかは別問題です」

●歌詞と楽曲は別々の著作物

一方で、歌詞ではなく「楽曲」についてみると、「ぬくもり」と「抱きしめたい」は似ているように思えない。「歌詞だけしか似ておらず、楽曲は似ていない」という事情は、著作権侵害かどうかを判断する際に考慮されないのだろうか。

「一般的には歌詞と楽曲は一体として考えがちですが、著作権法上は、歌詞と楽曲は別の著作物です。

たとえば、楽曲を使用せずに歌詞だけを使用して詩集を作ることができますし、歌詞を使用しないで楽曲だけを使用してオルゴールを作ることもできるので、著作権法上、別個に扱われています。

今回は、『ぬくもり』の『歌詞』という著作物が著作権侵害にあたるかどうかが問題になっているので、楽曲のことは考慮せずに、歌詞のみで判断することになります。

ですので、裁判などで争われた場合には、著作権侵害と判断される可能性が高いと思います」

高木弁護士はこのように分析していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高木 啓成
高木 啓成(たかき ひろのり)弁護士 渋谷カケル法律事務所
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n

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