中国・河北省で、世界遺産「スフィンクス」の実物大レプリカが建造されているとして、本国・エジプトが抗議するという騒動が、5月末にあった。報道によると、建設した企業は「映画の撮影用」と釈明したという。結局、その映画の撮影が終わりしだい、取り壊されることになったようだ。
音楽やマンガなどの「パクり」はしばしば問題となっているが、「建物」についてはどうなのだろう。もし日本で、ほかの建築物のデザインを「パク」ったら、著作権侵害などにあたるのだろうか。著作権にくわしい中谷寛也弁護士に聞いた。
●東京都庁舎は「著作物」にあたる?
「建築物が、著作権で保護されるためには、その建築物が『著作物』にあたることが必要です」
建築物が「著作物」にあたるかどうかは、どのように判断すればよいのだろう。
「端的に言えば、建築物に芸術性がある場合は『著作物』になります。
裁判例によれば、『独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想・感情・・・を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合』なら、著作物になると判断されています」
その線引きは、どのあたりにあるのだろうか?
「たとえば、不動産業者が大量に建築した建売住宅だと、著作物として保護されることは難しいと思われます。こうした建物は、実用性や機能性のほうが重視されますし、『美的鑑賞の対象』となり『造形芸術としての美術性』を備えているといえるケースは限られそうです。
一方、新宿の東京都庁舎のような建物は、十分な美術性があると考えられ、『著作物』として保護されることになると思います。東京都庁舎のコピーを建築した場合には、設計者である丹下健三さんの――故人ですので、正確にはご遺族ということになりますが――著作権の侵害とされる可能性が高いでしょう」
●「建築の著作物」か「美術の著作物」か
スフィンクスも著作物だろうか?
「スフィンクスのような、建築物というよりも美術作品としての性質が高いようなものであれば、『建築の著作物』ではなく、『美術の著作物』として保護されるのではないかと思います。日本でも、たとえば大阪にある岡本太郎さんの『太陽の塔』などは、これに該当するでしょう」
その2つになにか違いはあるのだろうか。
「『建築の著作物』については、他人が勝手にミニチュアの置物やポスターなどを作成して販売することも可能ですが、『美術の著作物』だと許されません。その点で、美術の著作物のほうが、保護される範囲が広いといえます」
ということは、スフィンクスのレプリカを作ったら・・・?
「スフィンクスが作成されたのは紀元前ですから、著作権はとっくの昔に切れていることになります。著作権の保護期間は、原則、著作者の死後50年ですからね。スフィンクスの実物大レプリカを作ったとしても、著作権侵害にはなりません」
おっと、そういえば、そんなルールがありましたね・・・。