2015年11月22日 07時25分

過去に住人が首つり自殺、孤独死・・・「訳あり物件」を見抜くためのポイント

過去に住人が首つり自殺、孤独死・・・「訳あり物件」を見抜くためのポイント
「訳あり物件の見抜き方」の著者で宅建士の南野真宏氏

旭化成建材によるくい打ちデータ偽装の問題が拡大している中で、不動産の安全が改めて問われている。だが、購入したり借りたりする際に、その不動産に問題があるのかどうか、素人が見抜くことは容易ではないはずだ。土地や建物に何らかの問題が潜んでいる「訳あり物件」は、どうやって見抜けばいいのだろうか。「訳あり物件の見抜き方」(ポプラ社)の著者で宅建士の南野真宏氏に話を聞いた。

●12人が毒殺された建物跡地のマンション

ーーなぜ「訳あり物件」に注目するようになったんですか。

まさに自分が体験したからです。1948年に東京都・豊島区の帝国銀行椎名町支店で12人が毒殺された「帝銀事件」跡地のマンションに、その場所とは知らずに賃貸借契約を結んでしまいました。物件を見つけたときは、駅から近くて家賃は8万円という、その地域にしてはかなり好条件だったので契約しました。

保証金と家賃など約16万円を振り込み、引越し準備の段階になって、ふとネットで調べたときに、引越し先が「帝銀事件」の銀行の跡地に建てられたマンションだとわかりました。人それぞれ、感じ方に違いがあると思いますが、私は、過去にそんな凄惨な事件があった土地に建てられたマンションに住む気には、どうしてもなれませんでした。

仲介業者は「60年以上前の事件を理由に解約を認めることはできない」と言って返金に応じてくれませんでした。そこで、弁護士に頼まずに、契約金の返還などを求めて自分だけで民事調停と簡易裁判を起こしました。説明の重要な部分に誤りがあるから契約は無効だと主張しました。

結局、裁判では負けてしまいました。理由はいくつかありますが、時間が経過していたことや、事件当時とは別の建物であることなどです。この出来事から私が学んだことは、司法は「訳あり物件」に遭遇してしまった人間を、無条件で助けてくれるわけではないということです。訳あり物件からは、まず、自分で身を守るしかないんです。

●裁判で勝つのは至難のわざ?

ーーそもそも「訳あり物件」とは、どんな物件のことを指すのでしょうか。

訳あり物件とは、何らかの意味で瑕疵(かし)、すなわち欠陥がある不動産のことですが、大きく分けて4つに分類できます。

一つ目が、建物の傾きや土壌汚染などの「物理的瑕疵」。二つ目が、建築制限など、法令上の制限にひっかかる「法的瑕疵」。三番目が、電車の振動、日照被害などの「環境瑕疵」です。

そして最後が「心理的瑕疵物件」です。「事故物件」と言われることもあります。居住者が自殺した、殺人事件があった、住人が孤独死したといったケースです。物理的、法令上の問題がなくても、住人の心理に影響を及ぼしうるケースですね。

ーーもし契約したあとで瑕疵が見つかった場合、損害賠償を求めたり、契約を解除したりすることは認められるのでしょうか。

裁判所は、そう簡単には認めてくれません。特に心理的な瑕疵の場合、明確な基準があるわけではなく、まさにケース・バイ・ケースです。

参考になる裁判例を紹介しましょう。家族と住むために中古マンションを購入したけれど、後になって売主業者の社長の妻が、この物件で約6年前に首つり自殺をしていた事実が判明し、買主が売主を相手取って、契約の解除と手附金の返還などを求めたケースでした。

裁判所は、約6年前に首つり自殺があった物件を、ほかの物件と同様に購入することは通常考えられない、通常、人が住むには著しく妥当性を欠いていると判断して、売買契約の解除と損害賠償を認めました(横浜地裁平成元年9月7日)。

事故ではなく自殺だった点や、建物が建て替えられておらず、まさにその物件が自殺の場所だったことにより、瑕疵の程度が大きいと判断されたのではないかと思います。

この他にも裁判例はいくつもありますが、契約の解除まで認められるケースは少ないですね。賠償金すら認められない場合もあります。訳あり物件から身を守る最大の方法は、事前に見抜くということなのです。

●「訳あり物件」を見抜くことはできるか?

ーーどう見抜けばいいのでしょうか。

特に発見しづらい「心理的瑕疵」についてお話します。自殺や他殺、事故などによる死者が出ているなど、嫌悪すべき過去がある物件には、売主、貸主側に告知義務があります。ただ、そうした忌まわしい過去も、その影響は時間とともに薄まるという考え方が一般的です。

最近では、殺人事件や火災による死亡事故などが起こった物件の住所と建物名を、写真入りで紹介するサイトなどもあります。心理的瑕疵物件の情報を収集することは、以前よりも容易になったといえるでしょう。

ただ、そうした情報がネット上で見当たらなかったからといって安心するのは禁物です。そもそも、こうした情報は売主や貸主にとって隠しておきたい事実ですから、ネット上に出ている情報は、氷山の一角と考えておいたほうがいいでしょう。

個人的にもっとも信頼できるのは、地元の住民から聞いた情報だと考えています。「帝銀事件」の物件のことも、ネット上で調べたあと、実際に現地の交番の警察官に聞きました。対応してくれた若い警察官は、机の上に地図を広げて、私が言った住所と帝国銀行椎名町支店があった住所が同じであることを親切に確認してくれました。

ーーそこまで調べることが難しい人もいるのではないでしょうか。

そうですね。すべての「瑕疵」の可能性を否定するためには、莫大な時間と労力がかかってしまいます。現実的な対応策としては、自分にとって「容認できる瑕疵」と「容認できない瑕疵」を明確にしておくことでしょう。

物件を選ぶとき、人はプラスの条件に目が行きがちですが、「こんな物件は絶対に嫌だ」という条件を意識して契約前に意思表示しておくのです。そんな風に「自分にとっての訳あり物件を自覚して、意を表すこと」が、訳あり物件を避ける最大の秘訣だと思います。

【取材協力】

南野 真宏(なんの・まさひろ)

1971年東大阪市生まれ、上智大学法学部法律学科卒業('94)。大学に入学した1990年に宅建資格をとって25年間、公私において数々の「訳あり物件」に悩まされた人物である。

(弁護士ドットコムニュース)

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