弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 不動産・建築
  3. 近隣トラブル
  4. 千葉・市川の「保育園」が周辺住民の反対で開園断念 「子どもの声」は騒音なのか?
千葉・市川の「保育園」が周辺住民の反対で開園断念 「子どもの声」は騒音なのか?
「子どもの声」は騒音なのか?

千葉・市川の「保育園」が周辺住民の反対で開園断念 「子どもの声」は騒音なのか?

千葉県市川市でこの春に開園予定だった私立保育園が、近隣住民から「子どもの声でうるさくなる」などと反対を受けて開園を断念したことが4月中旬、大きな注目を集めた。

保育園の予定地は、市川市の中心部に近い住宅街。千葉県松戸市の社会福祉法人が木造2階建ての園舎を建て、4月1日から定員108人(0〜5歳児)で開園する計画だった。ところが、昨年8月、開園を伝える看板を立てたところ、住民の反対運動がはじまった。

保育園は昨年10月に募集を開始したが、住民から「保育園が面する道路は狭いので危険だ」「子どもの声が騒音になる」などの声があがり、園舎建設の目処が立たないことから、12月に開園の延期を決定。今年3月には、開園することを断念した。

●保育園の建設難航があいつぐ

保育園の建設をめぐっては、騒音を理由に難航するケースがあいついでいる。

報道によると、神戸市の70代男性が2014年、「子どもの声がうるさい」として、保育園を運営する法人を相手取り、防音設備の設置や慰謝料100万円の支払いを求める裁判を起こした。さいたま市でも2013年、保育園の建設計画が住民の反対を受けて撤回された。

今回の「開園断念」のニュースは、保育園問題がクローズアップされる中で、大きな注目を集めた。そもそも「子どもの声」は騒音なのだろうか。法的には、どう扱われるのか。騒音問題にくわしい山之内桂弁護士に聞いた。

●子どもの声も騒音にあたる

「法規制の観点からいえば、『子どもの声』といえども、騒音にあたります」

山之内弁護士はこう切り出した。どんなルールになっているのだろうか。

「騒音は、規制の緩い順に、(1)生活騒音(2)工場・事業場等の一般騒音(3)航空機・自動車・特殊機械等の特定騒音、の3つに区分できます。

子どもの声は、一般的な生活環境内では1番目の『生活騒音』、保育園内では2番目の『事業場騒音』にあたります。

各地の条例では、生活騒音について、騒音防止の『努力義務』のみを規定することが多いです。一方、事業場騒音については、一定の『規制基準』を定め、条例に違反した場合、行政指導や刑罰の対象とすることが多いです」

つまり、保育園の「子どもの声」も騒音として、規制の対象となりうるということだ。そうなると、保育園の建設も「騒音」の観点から制限されるということだろうか。

「いいえ、そうではありません。保育園は本来、現行都市計画法上の用途地域のうち、工業・準工業地域以外であれば、どこにでも建てることができます。いわゆる『一戸建て中心の閑静な住宅地』のなかでも、合法的に建てることが可能です」

保育園の建築自体は、騒音とは別に、建物に関するルールで規制されるということだ。子どもの声が騒音にあたる可能性があるとしても、保育園の建物そのものが騒音を発生させるわけではないからだ。では、住民が反対しても、法的には、保育園は建築できてしまうのか。

建築前の話し合い等がこじれた場合、住民側が裁判などの紛争調整機関を利用して、建築自体にストップをかけることは大変困難なものと予想されます。

また、運営が始まったあとも、騒音の迷惑度合いは、実際にそれに触れた人に特有のものです。裁判に持ち込んだとしても、客観的な立証が難しく、受忍限度(社会生活上我慢すべき限度)の壁を破って、住民側が勝訴や勝訴的和解を得ることはかなり困難であるのが実情です」

●「中間的な解決を図るのが望ましい」

保育園の騒音問題について、どのように考えるべきだろうか。

「二通りの考え方がありえます。

一つは、規制を緩和して、保育園を立地しやすくして、近隣住民に迷惑を受忍(≒我慢)してもらうことです。保育園などでの子ども(6歳未満)の声を規制から除外した東京都の条例や、乳幼児・児童用施設からの騒音を理由とする損害賠償請求を禁止したドイツの連邦法がその一例です。

もう一つは、地域住民の良好な住環境を重視し、保育園に対して、騒音防止低減措置や、駐車・駐輪場の設置義務を課して、さらに規制値を超える騒音がおよぶ可能性のある一定範囲の住民の同意を立地条件とすることです。

二つの利益が衝突するこの問題にあっては、それらの中間的な解決を図るのが望ましいと思います。保育園の場合、どちらかといえば、一人ひとりの利益がある程度制限されることになっても、立地しやすくする環境整備をしたほうがよいと思います。

ただし、土地の公用収用の場合に財産補償がされるのと同じように、利益侵害の程度に応じた何らかの補償措置が必要になるケースはありうるでしょう」


山之内弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山之内 桂
山之内 桂(やまのうち かつら)弁護士 梅新東法律事務所
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする