東名あおり運転死傷事故(2017年)以降、ドライブレコーダーの売り上げが増加しているという。被害をおそれるドライバーはそれだけ多いのだろう。しかし、そもそもの被害を食い止める方法はないのだろうか。
刑事事件や交通事故を手がけてきた髙橋裕樹弁護士は「あおり運転罪を創設することで、犯罪の抑止につながるのではないか」と提言する。
現行法にはどのような問題があるのか、話を聞いた。
●厳罰化をすすめるべき
現行法上、あおり運転をした場合に問われる可能性があるのは、(1)道路交通法 (2)危険運転致死傷罪 (3)暴行罪の3つだ。
(1)の道路交通法違反とは、道交法26条が規定する「車間距離の保持」義務違反だ。高速道路であれば、法定刑は3か月以下の懲役または5万円以下の罰金(119条1項1号の4)、一般道であれば5万円以下の罰金となる(120条1項2号)。
しかし、髙橋弁護士は「軽すぎます。あおり運転は飲酒運転よりも危険。厳罰化をすすめるべき」と批判する。
(2)の危険運転致死傷罪の法定刑は重く、被害者が負傷した場合は15年以下の懲役、死亡した場合は最大20年の懲役となる。東名あおり運転事故の一審判決(2018年12月)は、危険運転致死傷罪の適用を認め、懲役18年(求刑・懲役23年)の判決を言い渡した。ただし、死傷者が出なければ適用されることはない。
過去には、(3)暴行罪(刑法208条)が適用された事例もある。暴行罪の法定刑は最大2年の懲役だ。髙橋弁護士は「法律家の観点からみれば、車による暴行ということで納得できる部分もあります。しかし、一般的にあおり運転を暴行罪とみることは違和感があるのではないでしょうか」と疑問視する。
●あおり運転の定義を明確に
そこで、高橋弁護士が提案するのが「あおり運転罪の創設」だ。
簡単に言えば、危険なあおり運転を禁止することを法律に明記し、繰り返し違反した場合に道交法違反よりも厳しい刑罰を科すものだ。
そして、あおり運転を繰り返した人には、暴行罪ではなく「あおり運転罪」を適用することにより暴行罪を適用することに対する違和感を払拭することもできる。また「明確に禁止することで、抑止効果も狙える」とみる。法定刑は飲酒運転(「酒酔い」「酒気帯び」)と同じく、最大5年程度の懲役刑が相応だと考えているという。
被害者が死傷した場合は、危険運転致死傷罪などを適用する。
立法化にあたっては「あおり運転とはどのような行為をいうのか、定義をより明確にする必要があります」と髙橋弁護士は指摘する。現状、自動車運転処罰法における妨害運転類型(法2条4号)以外にあおり運転について明確な定義はなく、ここが難関となるかもしれない。
「どのくらいの車間距離で接近した場合をさすのか、車を無理矢理停止させることはあおり運転といえるのか、パッシングやクラクションの扱いなど問題はたくさんあります。あおり運転が注目されているこの機会に、指針やガイドラインを作るなどして、明確な定義をするべきです」
●ドライブレコーダーの設置を
あおり運転をする人に特徴はあるのだろうか。髙橋弁護士は「例えばDVの加害者の中には、人当たりがよく、社会的地位についているなど肩書きを持っている人が少なくありません。同じように、あおり運転をする人もさまざまで思いもよらないタイプの人があおり運転に及ぶ可能性もあります。車に乗ると性格が変わるタイプの人もいます」と話す。
また、あおり運転の予防や対策のためにできることとして、車にドライブレコーダーを設置することを挙げた。ドライブレコーダーの記録が証拠となり、警察が立件しやすくなるほか、あおり運転を抑止する効果も期待できるからだ。
実際にあおり運転を受けてしまった場合には「その場から相手がいなくなるのを待つなど、とにかく相手にしないことです」と髙橋弁護士はアドバイスする。