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2018年04月06日 09時55分

すれ違う性暴力の被害者と加害者…それぞれの意識に「絶望的な溝」がある理由

すれ違う性暴力の被害者と加害者…それぞれの意識に「絶望的な溝」がある理由
性暴力被害者と加害者の対話について話し合う斉藤さんら

なぜ性犯罪を犯すのか。加害者の思考をどのように理解すればいいのか。性犯罪についてのニュースを見て、誰もが一度は考えたことがあるかもしれない。こうした疑問は、被害者支援に携わる専門家も同じように抱えている。

普段は被害者側と加害者側で異なる立場から性犯罪に向き合う専門家たちが、「性犯罪をゼロにしたい」と対話する場を設けた。

集まったのは、被害者支援に携わる上谷さくら弁護士と臨床心理士の齋藤梓氏、そして加害者臨床に携わる精神保健福祉士の斉藤章佳氏の3人。4月4日に都内で、「性犯罪をなくすために~被害者支援と加害者臨床の対話~」と題したシンポジウムを行った。

●「加害者の考え方と被害者の気持ちには、絶望的な溝がある」

被害者側と加害者側が対話することは、なぜ必要なのだろうか。齋藤梓氏は、「被害者側の声だけでは社会から性暴力はなくなっていかない。加害者がどういう風に捉えているかを知らないと、性暴力をなくすことは難しいと考えた」と話す。

大森榎本クリニック(東京都大田区)で多くの性犯罪者と向き合ってきた斉藤章佳氏も、「今、世界で行われている性犯罪防止プログラムは、被害者の生の声を聞くことが欠けている。当事者同士は難しいので、臨床家を通じて対話することが必要」と強調した。

上谷弁護士は「対話の必要性を感じてはいるが、加害者の考え方と被害者の気持ちには、絶望的な溝がある。対話は可能なのか」と率直に問いかけた。

斉藤章佳氏は「与えた被害の影響などから、当事者同士は考えにくい」としながらも、「被害者側から、自分の回復のために加害者と対話したいと求められた場合には、全面的に応じる必要がある。最近実践を始めたところだが、まだ試行錯誤している最中だ」と話した。

●裁判の段階で反省や謝罪を求めるのは難しい

加害者と被害者で大きく意識が乖離しているのは、被害者の心情に関する意識だ。

上谷弁護士は「多くの加害者は自分のした行為を過小評価している」と指摘。被害者は加害者から「大げさに言われたせいで罪が重くなった」と逆恨みされることを恐れているという。

これについて斉藤章佳氏は「加害者が本当の意味で自分のやった行為の責任を受け止めて、前に進むようになるには、少なくとも3年はかかる」と話す。

反復する性犯罪は、性依存症としての側面がある。大森榎本クリニックでは、性依存症の人に対して、専門外来医療「SAG(Sexual Addiction Group-meeting)プログラム」を行っている。第1に再発防止、第2に薬物療法、第3に性加害行為の責任をとるという3つが治療の柱だ。

まず性的な行動に至るきっかけを考えて、回避方法を習慣化することが最初の段階。次の段階が都合よく現実を捉える「認知の歪み」にアプローチすること。最終段階で、自分の行動を客観視して謝罪へとつながる。ここまでたどり着くのには、大変な時間がかかるという。

通常、裁判の段階では加害者はまだ第3段階の「性加害行為の責任をとる」ステップにはたどり着いていない。そのため反省や謝罪を求められても、「求められているのであえてパフォーマンスでやっている人がいる。謝罪を求めるほど、上手くすり抜けるスキルしか出てこない」(斉藤章佳氏)のが実態だ。

●加害者との手紙のやり取り「意義がある」

性暴力の被害者は被害を受けたときの状況と日常生活が結びついていることが多く、日常生活を送るのにも困難を抱えている。そのため今回の鼎談では「直接の対話は難しい」という意見が相次いだが、会場からは「被害者や弁護士などと手紙を書いてやり取りすることで加害者は変わっていくのか」という質問が出た。

上谷弁護士は「経済犯の事例ですが」と前置きした上で、加害者から自分の言葉で一生懸命に書かれた謝罪文が届いたケースを紹介。被害者は「本当に真人間になりたいのなら応援したい」と返信し、「これで自分の事件を終わらせることができた、これから一歩進むことができる」と話し、手紙のやり取りが被害者の回復に繋がったという。

また、上谷弁護士自身は過去に刑事弁護をしていた際の加害者とは必ず文通するようにしており、「『被害者のことを忘れてはいけない』とやり取りを続けていくことが大事だと思っている。相手が誰にしろ、手紙をやり取りすることには、それなりに意義があることだと考えている」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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