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ヤマト元従業員、配送品をオークション出品…なぜ「刑事責任に問えない」と判断したか
写真はイメージです(xiangtao / PIXTA)

ヤマト元従業員、配送品をオークション出品…なぜ「刑事責任に問えない」と判断したか

ヤマト運輸の営業所につとめていた女性事務員がこのほど、客から預かった配送商品を「ヤフオク!」や「メルカリ」など、ネットオークションに出品していたとして、懲戒解雇処分になった。

報道によると、ヤマト運輸は今年8月下旬、「商品が届かない」という問い合わせを受けて、社内調査をしたところ、この事務員が関与を認めたという。同社広報戦略部は「社内教育とルールの徹底によって、再発防止につとめたい」とコメントした。

朝日新聞の記事では、ヤマト運輸は、窃盗容疑などで刑事告訴・告発も検討したが、「刑事責任を問うのが難しいと判断した」という関係者の証言が取り上げられている。この事務員が関与したと思われるケースは、すでに同社が補償を済ませているという。

同社広報戦略部は、刑事告訴・告発をしなかった理由について、弁護士ドットコムニュースの取材に「こちらから発表したものではない」として、詳細を明らかにしなかった。朝日新聞の記事を前提に考えると、どうして、そんな判断をしたと考えられるか。坂野真一弁護士に聞いた。

●「さまざまな考慮が働いて、この結果になったと考えられる」

「まず、取材を受けた『関係者』どのような立場の方かわかりませんし、記者が正確に要約したかどうかも不明確です。また、犯行態様・被害総額も不明であるばかりか、どのような証拠があるのかもわかりません。このように、報道されたものだけでは情報の正確性に疑問があるだけではなく、情報自体も不足しているため、ヤマト運輸側がどうしてこの元事務員に刑事責任を問うのが困難だと判断したのかという理由までは、正直にいうとわかりません」

坂野弁護士はこのように述べる。元事務員は犯行を認めているようだが・・・。

「刑事手続きの原則として、被告人の自白だけが被告人にとって不利益な唯一の証拠である場合は有罪とされないという限界があります(憲法38条3項、刑訴法319条2項)。客観的証拠がどれだけあったのかにもよるでしょう。

また、元事務員が、会社側に対して損害の賠償をおこなっているのか、会社との間で示談をおこなったのか等もまったくわからない状況です。示談がおこなわれたとすれば、損害の賠償をすることと引き替えに、会社側としては、刑事責任を問わないという条件が加味された可能性もあるでしょう。

被害額や犯行態様にもよりますが、元事務員が、被害弁償を会社に対しておこなっているのであれば、すでに懲戒解雇という社会的制裁を受けていることもあり、仮に刑事裁判になったとしても、執行猶予が付される可能性もあります」

ほかの理由は、考えられないだろうか。

「刑事裁判になれば、公開の法廷で、その手口が明らかにされるだけでなく、マスコミを通じて、何度も事件が報道される可能性があります。そうなれば、事務員の不祥事が何度も報道されますし、そのなかで、会社の管理・監督体制、社員教育などに問題があったのではないか、との憶測が出てくるおそれも捨てきれません。

そのような場合、会社にとってはイメージダウンになる可能性も十分考えられます。総合的に検討した結果、この事務員に対して刑事責任を問わないほうが良いと判断したのではないでしょうか。

おそらく、さまざまな考慮が社内で働いて、このような結果になったと考えられます。そのすべてを説明することは、非常に煩雑となります。そこで、関係者は『刑事責任を問うことが困難だと判断した』と説明したのではないかと推測します」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

坂野 真一
坂野 真一(さかの しんいち)弁護士 ウィン綜合法律事務所
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」(いずれも中央経済社)、「増補改訂版 先生大変です!!:お医者さんの法律問題処方箋」(耕文社)、「弁護士13人が伝えたいこと~32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。

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