100円均一で購入したおもちゃの「子供銀行券(1万円札)」をカラーコピーしたとして、愛知県警中署は8月30日、名古屋市の男性を通貨及証券模造取締法違反容疑で逮捕した。
報道によると、男性が購入した子供銀行券は「縦50mm、横100mm」。これを実物大(縦76mm、横160mm)に拡大カラーコピーしたという。
男性は、名古屋市内のホテルで、封筒に入れたコピー5枚を「交際の対価」として女性に渡したが、別れた後に偽物と気づいた女性が警察に相談したことから発覚したそうだ。
本物のお札をコピーしたのならともかく、おもちゃのお金をコピーして逮捕されたのはなぜなのだろうか。ニセ札で人を騙したのなら「通貨偽造罪」や「詐欺罪」ではないのか。德永博久弁護士に聞いた。
●本物との類似性の度合いによって、「偽造」「模造」「適法」かが分かれる
「通貨及証券模造取締法」は、刑法上の「通貨偽造罪」などに該当するレベルに至っていないけれど、通貨や証券に紛らわしい物を作成した行為を取り締まるための法律です。
通貨偽造罪の「偽造」は、通貨の製造・発行権を有しない者が、真貨に類似した外観を有する物を作成したときに成立します。これに対し、通貨及証券模造取締法上の「模造」は、一見すると真貨と誤認する余地を残しながら一般人の注意力をもってすれば真貨と誤認することのない程度の外観を有する物を作成したときに成立します。
なお、「偽造」した通貨を支払手段として使用したときは、偽造罪の他に「偽造通貨行使罪」が成立しますが、「模造」した通貨については、行使に関する罪が別途規定されていません。
――そもそも子供銀行券は法律的に大丈夫なの?
今回のコピー対象とされた子供銀行券そのものにつきましては、透かしの部分などに「子供銀行券」と明示されていたり、裏面は白紙とされていたりします。加えて、そもそも券面の大きさ自体が真貨と比較して著しく小さく、誰もが一見してニセ物と分かり、真貨と誤認する可能性すらない外観を有する物ですので、「偽造」にも「模造」にも該当せず、違法となりません。
――拡大カラーコピーはなぜダメなのか?
子供銀行券をカラーコピーする際に真貨と同一の大きさに拡大した行為は、裏面が白紙であることや「子供銀行」という印字が存在するという点では真貨に類似した外観(「偽造」)といえるレベルには至っていません。一方で、一見すると真貨と誤認する余地を残しつつ、一般人の注意力をもってすれば誤認することはない外観(「模造」)のレベルに達していることから、通貨及証券模造取締法違反の罪に問われたものと思われます。
このように、真貨に類似した紛らわしい物を作成したときに「偽造」であるか「模造」であるか「適法」であるのかは、その真貨と類似するレベルに関する程度問題として評価・判断されますので、明確な基準を一律に示すことは出来ません。
ただ、仮に本件がモノクロで拡大コピーされたのであれば「適法」になる余地があったと思われます。逆に、カラーでの拡大コピーならば、真貨よりも一回りだけ小さいサイズであっても、「模造」に該当する可能性が高かったのではないかと予想されます。
なお、報道によると、本件においては、子供銀行券の拡大カラーコピーが援助交際の対価として支払いに用いられているようです。「詐欺罪も成立するのではないか」と考える方がいるかもしれませんが、そもそも援助交際自体が公序良俗(民法90条)に反する契約のため無効となります。男性にはその対価を支払う義務がなくなりますので、援助交際の相手方である女性が「支払われるべき対価(5万円)について騙された」といった法的評価を受けられないことから、詐欺罪は成立しないと思われます。