ナンパして自宅に連れ込んだ女性にお金を盗まれた。ここまではいかにもありそうな話だが、その対策として、おもちゃの「100万円札」を仕込んでおいたらどうなるのだろうか。ネットの掲示板で、そんなトンデモな議論が行われていた。
掲示板に書き込んだ男性は、ナンパで知り合った女性と自宅で会うたびに、自分の財布などからお札がなくなっているのに気づいた。そこで、試しにおもちゃの「100万円札」を仕込んでおいたところ、それも無くなったというのだ。その後、この女性が「100万円札」をバーで使おうとして「偽物」だと気づき、一緒にいた男性に助けを求めた――という後日談まで付いている。
ネタとも思える投稿だが、掲示板では「おもちゃのお札を盗んでも窃盗になるのか」「もし偽札と気づかずに使ってしまえば、偽造通貨行使罪になるかもしれない」など法律談義に花が咲いていた。実際のところ、何かの犯罪になるのだろうか。加藤英典弁護士に聞いた。
●おもちゃでも盗んだら「窃盗罪」になる
「まず、女性がおもちゃのお札を盗んだことは、『窃盗罪』になります。もっとも、盗んだのがおもちゃのお札ですから、被害額は大した金額にはなりませんね」
加藤弁護士はこう話す。偽造についてはどうだろうか?
「おもちゃのお札を『使った』としても、偽造通貨行使等罪をはじめとする偽造の罪にはならないでしょう。
そもそも、偽造の罪は通貨に対する社会的信用を守るための規定です。偽造通貨というからには、一般の人が『本物のお金だ』と信じ込んでしまうような精巧な外観のものでなければなりません。
けれど、今回使われたのは、ジョークグッズとして市販されているおもちゃのお札です。誰もが一見して本物のお札ではないと気づくでしょうから、偽造通貨とはいえず、罪にも問われないでしょう」
●おもちゃのお札だと知りつつ店員に渡したら?
それでは、女性が「100万円札」をバーで支払った場合、偽造の罪ではなくても、詐欺にはなるだろうか。
「女性が、そのお札が本物であると信じて店員に渡したのであれば、詐欺の故意がありませんから、詐欺にはなりません。気付かずに使ったのであれば、犯罪にはならないのです。
それとは違って、女性がおもちゃのお札を、おもちゃのお札だと知った上で、本物の紙幣であるかのように装って店員に渡し、支払いを免れようとしたのであれば、詐欺になり得ますね」
それでは、最後に「おもちゃのお札」を仕込んだ男性については・・・?
加藤弁護士は「精巧な偽造通貨ならともかく、今回は一見して本物のお札ではないと気づくおもちゃですから、犯罪にはならないでしょう」と話していた。